【広告を掲載するメディアは真実性調査義務を負うことがある(判断基準)】

1 広告の商品購入による損害とメディアの責任
2 詐欺的なマンション販売広告掲載の責任(否定判例)
3 新聞社の広告の真実性確認義務の判断基準
4 抵当証券会社の経営破綻の調査義務(否定裁判例)
5 出資募集の調査義務(平成電電詐欺事件・否定裁判例)

1 広告の商品購入による損害とメディアの責任

新聞などのマスメディアには広告が掲載されています。
広告をみて商品やサービスを購入する方を獲得するのが広告の目的です。
ここで,この販売に問題があると,購入者が被害を受けます。
そして,問題のある広告を掲載したメディアの責任が生じることもありえます。
本記事では,購入者が被害を受ける元となった広告について,これを掲載したメディアの責任について説明します。

2 詐欺的なマンション販売広告掲載の責任(否定判例)

マンション販売の広告に関して,最終的に販売業者が倒産したという事例がありました。
広告を掲載した新聞社の責任が追及されました。
最高裁は結論として新聞社の責任を認めませんでした。

<詐欺的なマンション販売広告掲載の責任(否定判例)>

あ マンション販売広告

新聞社が建設予定のマンションの販売の広告を掲載した
Aはこれを見て,マンションを購入した

い 購入者の被害

その後,販売業者が倒産した
Aはマンションの引渡も,代金の返還も受けられなくなった

う 新聞社の責任(裁判所の判断)

真実性確認義務の判断基準(後記※1)を用いる
新聞社は,読者に不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見できなかった
→注意義務違反はない
※最高裁平成元年9月19日;日本コーポ事件

3 新聞社の広告の真実性確認義務の判断基準

前記の判例では,広告を掲載するメディアが広告内容の真実性を確認する義務の有無についての判断基準を示しています。
広告を見た方が被害を受ける可能性を予測できたかどうか,という判断基準です。
抽象的ではありますが,一般的で,広く使われる基準です。

<新聞社の広告の真実性確認義務の判断基準(※1)

あ 調査義務が生じる要件

新聞社が新聞広告を掲載することについて
その内容の真実性について疑念を抱くべき特別の事情があって
読者に不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見したor予見し得た

い 調査義務の発生

新聞社は,広告内容の真実性について調査確認をする注意義務がある
※最高裁平成元年9月19日;日本コーポ事件

4 抵当証券会社の経営破綻の調査義務(否定裁判例)

広告を掲載した商品の販売業者が破綻した事例はほかにもあります。
抵当証券の販売の広告に関する裁判例を紹介します。
新聞社の真実性の調査義務の判断基準は,前記の最高裁判例のものを用いています。
最終的に,被害の発生の予見可能性はないと判断され,新聞社の責任は否定されました。

<抵当証券会社の経営破綻の調査義務(否定裁判例)>

あ 事前の報道の履歴

新聞社(中日新聞)は,いくつかの抵当証券業者の経営破綻を報道し,抵当証券の危険性を記事にしていた

い 新聞広告掲載

新聞社は大和都市管財の広告を掲載した

う 広告主の経営破綻

大和都市管財が経営破綻した
顧客に損失が生じた

え 新聞社の責任(裁判所の判断)

日本コーポ事件判例の判断基準(前記※1)を用いる
新聞社が,一般的に独立系抵当証券業者の経営基盤は脆弱かつ不安定であるという認識を有していたとしても
この一般論から直ちに大和都市管財の経営破綻を予見し得たということはできない
→疑念を抱く特別な事情はなかった
→新聞社には調査確認する義務はない
※名古屋地裁平成16年12月9日

5 出資募集の調査義務(平成電電詐欺事件・否定裁判例)

出資を募集する広告を掲載した会社が破綻した別の事例です。
表示された配当率の予測が8〜10%と高かったという特殊な事情がありました。
しかし,裁判所は新聞社の責任を否定しました。
なお,原審の判決の中で,法的責任未満の,いわゆる道義的責任についてコメントがなされました。

<出資募集の調査義務(平成電電詐欺事件・否定裁判例)>

あ 新聞広告の内容

匿名組合への出資の募集
平成15年から平成17年にかけて新聞広告の掲載がなされた
平成電電匿名組合契約の大まかな仕組み
年8〜10%程度の運用率(配当金)の予定

い 責任の判断

広告の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があったとはいえない
→責任なし

う 法的責任以外の指摘(原審判決)

もっとも,本件においては,本件各広告が約2年間にわたって繰り返し被告らの発行する新聞紙面上に掲載されたことが設備社やシステム社へ出資した者の損害の拡大につながったことは否定できず,この事実は被告らにおいて重く受け止められるべきである。
※東京高裁平成22年12月1日
※東京地裁平成22年2月17日;原審

本記事では,広告の商品やサービスを掲載メディアが調査する義務について説明しました。
実際には,個別的な事案の中の,多くの細かい事情によって調査義務の有無が判断されます。
実際の問題に直面している方や,掲載すべきかどうかを検討しているメディアの関係者は,本記事の内容だけでは判断せず,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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