【父の再婚+子の誕生+大幅減収による養育費減額(肯定裁判例)】

1 父の再婚+子の誕生+減収による養育費減額
2 協議離婚と養育費の調停成立
3 父の収入の減少
4 父の再婚と再婚相手との間の子の誕生
5 それぞれの当事者の経済的状況
6 養育費の減額請求と事情変更に関する裁判所の判断
7 父の収入の調整(新たな家族の優先扱い)
8 住宅ローンの支払の考慮
9 新たな養育費の算定

1 父の再婚+子の誕生+減収による養育費減額

離婚後の事情によっては,いったん決まった養育費の変更が認められることがあります。
詳しくはこちら|養育費や婚姻費用の増減額請求が認められる『事情の変更』の判断基準
変更が認められる事情の典型例には父か母が再婚して,再婚相手との間に子が誕生したというケースがあります。
詳しくはこちら|離婚後に父か母が再婚すると養育費の変更が認められることがある
また単純に収入が下がったというものもあります。
本記事では,この2つの事情が重なったケースにおいて,養育費の減額が認められた裁判例を紹介します。

2 協議離婚と養育費の調停成立

協議離婚が成立し,その後に養育費の協議がなされるました。
しかし協議が決裂したので,養育費の調停が申し立てられました。
最終的に,基本的な1人の養育費の月額を3万5000円とする調停が成立しました。

<協議離婚と養育費の調停成立>

あ 協議離婚

昭和61年4月
夫Xと妻Yは協議離婚をした
3人の子の親権者をいずれも母Yと定めた

い 養育費の調停成立

昭和63年3月
養育費の調停が成立した
XがYに『う』の内容の養育費を支払う

う 決まった養育費の内容

ア 月額 1人月額3万5000円
子の中学入学の月から5万円となる
イ 終期 それぞれの子が18歳に達した翌年3月まで

3 父の収入の減少

調停が成立した後,父は決められた養育費を支払っていました。
しかし,収入が大きく下がってしまいました。

<父の収入の減少>

あ 調停成立時点

養育費の調停が成立する前のXの年収について
昭和61年→1523万円
昭和62年→1516万円(調停成立の直近)

い 調停成立以降

Xの年収は『あ』の後減額した
昭和63年→約478万円
平成元年→約556万円
平成2年→約572万円(※1)

4 父の再婚と再婚相手との間の子の誕生

離婚後に父は再婚しました。
そして,再婚相手との間に2人の子が誕生しました。

<父の再婚と再婚相手との間の子の誕生>

あ 父の再婚

昭和62年6月
父XはAと再婚した

い 再婚相手との間の子の誕生

XとAの間に2人の子が誕生した
昭和63年3月→長男が誕生した
平成2年8月→次男が誕生した

5 それぞれの当事者の経済的状況

父の再婚やその後の新たな子の誕生によって,経済的な状況は変わってきました。
関係する3人の収入の状況を整理します。

<それぞれの当事者の経済的状況>

あ 父Xの収入

年収約572万円である(前記※1

い 父の再婚相手Aの収入

Aは看護師として働いていた
月額約16万8000円の可処分所得がある

う 母Yの収入

Yは,会社員として働いていた
平成2年の総収入は約246万円である

6 養育費の減額請求と事情変更に関する裁判所の判断

父は新たな家族へ充てる経済的な負担が大きくなり,母(元妻)へ,成立した調停どおりの養育費を支払うことが厳しくなりました。
そこで父は養育費の減額を求めて家庭裁判所の審判を申し立てました。
裁判所はまず,事情の変更があったと認め,養育費の金額を変更すべきであると判断しました。

<養育費の減額請求と事情変更に関する裁判所の判断>

あ 養育費減額の審判申立

Xは,養育費の減額を求める審判を家庭裁判所に申し立てた

い 父の状況の変化

Xの収入が著しく変化した
Xには新たな家族ができた
そのための生活費を確保する必要がある

う 養育費を減額する結論

Xは生活状況が大きく変化した
事情変更を考慮し,養育費の額を相当額減ずる
※山口家裁平成4年12月16日

7 父の収入の調整(新たな家族の優先扱い)

次に裁判所は,新たな養育費を算定することになります。
その算定において,父と再婚相手とその子(新たな家族)を優先するという基本的な方針が採用されました。

<父の収入の調整(新たな家族の優先扱い・※3)>

あ 再婚相手の収入の扱い方

再婚相手Aの収入について
→もっぱらAと2人の子の生活費に充当する

い 再婚相手の収入の算入

Aと2人の子の最低生活費=19万4000円
Aの月収=約16万8000円
この時点での不足分=2万6000円(※2)

う 父の収入を最優先で新家族に充てる

Aと2人の子(新たな家族)の生活費不足分(前記※2)について
→Xの収入から優先的に充当する
=Xの可処分所得から2万6000円を控除する
※山口家裁平成4年12月16日

8 住宅ローンの支払の考慮

他方,父は住宅ローンを支払っている状況でした。
ところでこの返済額は,そのエリアの平均的な家賃よりも高いものでした。
そのため,返済額をそのまま控除してしまうと,不公平になってしまいます。
そこで裁判所は実際の返済額の半額だけを父の収入から控除することにしました。

<住宅ローンの支払の考慮(※4)

あ 住宅ローンの負担

父Xは住宅ローンの支払をしていた

い 養育費算定上の扱い

実際の支払額をXの収入から控除することはしない
Xの居住エリア(市)の平均的住宅賃料を参照して
実際の支払額の半額のみをXの収入から控除した
※山口家裁平成4年12月16日

9 新たな養育費の算定

以上の計算は,新たな養育費の算定の準備段階(前処理)といえます。
これを元にして,生活保護基準を使って,新たな養育費の金額を算定しました。

<新たな養育費の算定>

あ 算定方式

生活保護基準を用いて養育費を算出する

い 新たな養育費月額

前記※3,※4を前提にして生活保護基準にあてはめる
→1人月額3万円となる
裁判所は,この金額への変更を認めた

う 変更する時点

新たな養育費減額が適用される時期について
申立の時点(平成3年3月)以後の分とした
※山口家裁平成4年12月16日

変更する時点については,統一的な見解はなく,いくつかの見解があります。
その中でも事情が変更した時点とする見解が採用される傾向があります。
しかし,この裁判例は,申立の時点を採用しました。

本記事では,養育費の変更(減額)が認められた事例を紹介しました。
養育費変更などの家事審判では,家庭裁判所の裁量がとても広く,個別的事情や主張・立証によって結論が大きく異なるということがよくあります。
実際の問題に直面している方は,本記事だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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