【旧借地法における異議なしの建物再築の効果や法的扱い】

1 借地法における異議なしの再築の効果(総論)
2 異議のない再築による期間の延長
3 再築による期間延長に対する地主の保護
4 異議なしの再築後の『朽廃』の判断
5 再築と用法違反

1 借地法における異議なしの再築の効果(総論)

借地法では,建物の再築について地主の異議がない場合,借地期間が延長します。
詳しくはこちら|旧借地法における異議のない建物再築による期間延長(基本)
実際には,単純に期間が延長するということ以外にも法的扱いが問題となる場面があります。
本記事では,借地法で異議のない再築によって生じるいろいろな効果を説明します。

2 異議のない再築による期間の延長

借地法では,建物の再築について地主が異議を述べないと借地期間が延長するという規定があります。
具体的には,旧建物の滅失の時点から30年か20年となります。
この選択は,新たな建物について堅固か非堅固か,によって決まります。

<異議のない再築による期間の延長>

あ 期間の延長(概要)

建物の滅失から30年or20年となる
借地の目的が堅固/非堅固建物によって異なる
詳しくはこちら|旧借地法における異議のない建物再築による期間延長(基本)

い 堅固/非堅固の判断

堅固or非堅固の区別について
新たな建物によって判断する
※東京地裁昭和45年3月31日
※鈴木禄弥『借地法(上)改訂版』青林書院1980年p371

3 再築による期間延長に対する地主の保護

異議のない再築によって借地期間が大きく伸びます(前記)。
そうすると,地主にとって大きな経済的損失が生じます。
もちろん,地主が異議を述べれば期間延長はなかったのだから自業自得とも思えます。
しかし,借地法の規定の適用によって中間的で合理的な利害調整を行うことができます。

<再築による期間延長に対する地主の保護>

あ 用法違反による解除

非堅固建物所有目的の借地における
堅固建物の築造について
→用法違反により地主が解除できる可能性がある(後記※1

い 非訟手続による金銭的救済

『ア・イ』の裁判の付随的裁判によって
地代増額or財産上の給付の機会を与える
ア 堅固建物築造許可の裁判イ 増改築許可の裁判 ※借地法8条の2第1〜3項

う 地代増額請求

地代増額請求を認める
詳しくはこちら|賃料増減額請求(変更・改定)の基本
※借地法12条準用
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版増補版』日本評論社2009年p191

4 異議なしの再築後の『朽廃』の判断

異議なしの再築で借地期間が延長されます(前記)。
ところで,借地法で借地が終了するのは期間満了だけではありません。
建物の朽廃により借地が終了することもあります。
詳しくはこちら|旧借地法における建物の朽廃による借地の終了(借地権消滅)
朽廃の判断についても,異議のない再築が影響を及ぼします。
再築後の新たな建物が『朽廃』の判断の対象となるのです。

<異議なしの再築後の『朽廃』の判断>

あ 前提事情

借地人が建物を再築した
地主は異議を述べなかった
→期間が延長された

い 朽廃の判断

『あ』の後の建物の朽廃の判断について
→新建物が基準となる
『旧建物の朽廃すべかりし時期』ではない
※最高裁昭和47年2月22日

う 異議を無視した再築と『朽廃』判断(参考)

朽廃に近づいていた建物について
地主の異議を無視して借地人が再築した場合
→『旧建物が朽廃したであろう時期』に終了する
※星野英一『法律学全集26 借地・借家法』有斐閣1969年p101
詳しくはこちら|旧借地法における地主の異議を無視した建物再築の扱い

5 再築と用法違反

再築への異議という制度とは別に,用法違反という問題があります。
再築が用法違反に該当する場合,一般的には地主による解除の対象となります。
ただし,信義則による制限があり,解除が認められるとは限りません。
一方,再築について地主の異議がなかった,という場合は,用法違反についても回避されることになります。
つまり,地主は再築とともに用法違反についても認めた(承諾した)として扱われるのです。

<再築と用法違反(※1)

あ 前提事情

借地人が建物の再築をした
再築した建物は用法違反に該当する

い 異議なしによる違反の治癒

地主の異議がない場合
→用法違反は治癒される
※東京地裁昭和45年3月31日

う 異議による解除

地主の異議がある場合
→用法違反による解除の対象となる
ただし,信義則の判断により解除が認められないこともある
※高松高裁昭和47年10月31日

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