【簡易宿所営業×フロントの要否|基本|いま何が要るか】

1 旅館業・設備基準|衛生管理要領

旅館業の施設に何が必要かを定めているのは、法令だけではありません。厚生労働省が作成した「旅館業における衛生等管理要領」という通達があり、この中に玄関帳場(フロント)の基準も置かれています。要領は通達なので、それ自体で事業者や裁判所を拘束するものではありません。

この記事が引いているのは、令和8年1月20日付の通知に添えられた現在の要領です。要領の改正・変更点そのものは、別の記事で説明しています。

衛生管理要領|改正の履歴|平成28年改正の3点はいまどうなっているか

2 原則——玄関帳場やフロントは「設けることが望ましい」

簡易宿所営業について、要領はまず原則を置いています。玄関帳場やフロントは「設けることが望ましい」という書き方で、設置しなければならないとはされていません。

そのうえで「ただし書」が続き、一定の要件をすべて満たすときは設けなくてよい、という構造になっています。要件は次に見ます。

引用:文献・公開情報

簡易宿所営業では「設けることが望ましい」とされ、ただし書がある

2 適当な規模の玄関、玄関帳場若しくはフロント又はこれに類する設備を設けることが望ましいこと。
ただし、次の各号のいずれにも該当するときは、これらの設備を設けることは要しないこと。

※『公衆浴場における衛生等管理要領等について』厚生労働省p38

3 設けなくてよい場合——満たすべき3つの要件

ただし書の要件は3つで、そのすべてに該当するときに玄関帳場やフロントを設けなくてよいことになります。①玄関帳場等に代替する機能を有する設備を設けるなど善良の風俗の保持を図る措置が講じられていること、②鍵の受渡しを適切に行うこと、③緊急時における迅速な対応のための体制が整備されていること、の3つです。

①の「代替する機能」は、要領が2つの方法を挙げて具体化しています。営業者自らが設置したビデオカメラ等で常時鮮明な画像により確認する方法と、ICT を活用した方法で本人確認をしたうえで、鍵がなければ宿泊者専用区域へ入れないようにし、入ろうとする者の出入りを録画して必要なときに確認する方法です。③の体制については、宿泊者の求めに応じておおむね10分程度で職員等が駆けつけられることが想定されています。

かつてこの要件は、伝統的建造物についての許可基準の特例から流用されたものと説明されていました。その特例は平成30年に削除されており、いまの要件は簡易宿所営業について要領が独自に置いています。削除された特例の中身は、別の記事で説明しています。

許可基準緩和|既存制度|伝統的建造物|フロント代替機能・緊急対応体制

引用:文献・公開情報

代替する機能=ビデオカメラ等か、ICT を活用した本人確認

(1) 玄関帳場等に代替する機能を有する設備を設けることその他善良の風俗の保持を図るための措置が講じられていること。
玄関帳場等に代替する機能を有する設備については、1)又は 2)のいずれかの方法により宿泊者の 本人確認や宿泊者以外の出入りの状況の確認を実施することができる設備である必要があること。
1) 営業者自らが設置したビデオカメラ等を用いて、常時鮮明な画像により実施すること。
2) Ⅵ4の 2)の要件に該当する ICT を活用した方法により本人確認を実施するとともに、本人確認を受けた者に交付した鍵がなければ宿泊者専用区域に無断で出入りできないこととしつつ、宿泊者専用区域に入ろうとする者の出入りの状況について、当該者の顔を判別できる角度で、防犯のために営業者自らが設置したビデオカメラ等により鮮明な画像で録画して、宿泊者専用区域に無断侵入する者がいるときその他の必要なときに録画した画像の確認を実施すること。

※『公衆浴場における衛生等管理要領等について』厚生労働省p38〜39

引用:文献・公開情報

鍵の受渡しと、おおむね10分で駆けつけられる体制

(2) 鍵の受渡しを適切に行うこと。
(3) 事故が発生したとき、宿泊者専用区域に無断侵入する者がいるときその他の緊急時における迅速な対応のための体制が整備されていること。
緊急時に対応できる体制については、宿泊者の緊急を要する状況に対し、その求めに応じて、通常おおむね 10 分程度で職員等が駆けつけることができる体制を想定しているものであること。

※『公衆浴場における衛生等管理要領等について』厚生労働省p39

4 「宿泊者10人未満」が効くのは、フロントではなく別のところ

この記事は以前、フロントを設けなくてよい要件のひとつとして「宿泊者数が10人未満の施設であること」を挙げていました。いまの要領のただし書に、宿泊者の数の要件はありません(前述の3つだけです)。

「10人未満」が出てくるのは別の2か所です。ひとつは客室の延床面積で、33平方メートルが原則ですが、許可の申請に当たって宿泊者の数を10人未満とする場合は3.3平方メートルに人数を乗じた面積でよいとされています。もうひとつは、10人未満として申請された施設について、公衆衛生上支障がないと認められる範囲で基準の一部を緩和し、または適用しないことができるという定めです。

延床面積の緩和そのものは、別の記事で説明しています。

平成28年4月改正施行令・通達|基本|簡易宿所・延床面積基準緩和

なお、宿泊者の数を10人未満として申請した簡易宿所営業については、公衆衛生上支障がないと認められる範囲で基準の一部を緩和できるという一般的な定めが、いまの要領にも残っています。ただしこれは基準全体にかかる緩和で、フロントの要否を直接左右するものではありません。この緩和措置の現在地は、別の記事で説明しています。

衛生管理要領|改正の履歴|平成28年改正の3点はいまどうなっているか

引用:文献・公開情報

「10人未満」が効くのは客室の延床面積

(1) 客室の延床面積は、33 ㎡(旅館業法第3条第1項の許可の申請に当たって宿泊者の数を 10 人未満とする場合には、3.3 ㎡に当該宿泊者の数を乗じて得た面積)以上であること。

※『公衆浴場における衛生等管理要領等について』厚生労働省p38

5 条例×フロント設置義務

ここまでは旅館業法と要領の話です。これとは別に、自治体が条例でフロントの設置義務を定めている例があります。条例による上乗せが有効かどうかは別の問題で、別の記事で説明しています。

簡易宿所営業×フロントの要否|衛生管理要領×条例・食い違い問題

6 フロント業務・外注サービス

フロントを置く場合でも、その業務を外部のサービスに委ねる形があります。これについては別の記事で説明しています。

民泊・管理サービス|内容|典型=代行・フロント業務|警備会社参入

7 フロントの仕様・望ましい基準

フロントを設ける場合の仕様は、旅館・ホテル営業の基準に詳しく置かれています。もっとも、簡易宿所営業について要領が旅館・ホテル営業の基準に「準じて設ける」としている範囲には、玄関帳場の項は入っていません。玄関帳場については、前述のとおり簡易宿所営業のところに独立して置かれています。

旅館・ホテル営業の玄関帳場の基準そのものは、別の記事で説明しています。

旅館・ホテル営業×フロント設備義務・基準|設けないことができる場合

引用:文献・公開情報

旅館・ホテルの基準から流用する範囲(玄関帳場は入っていない)

8 その他、「第1 旅館・ホテル営業の施設設備の基準」の1~7、9、10、14、17~ 21、23~26 及び 29~34 に準じて設けることが望ましいこと。

※『公衆浴場における衛生等管理要領等について』厚生労働省p39

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。

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【簡易宿所営業×フロントの要否|衛生管理要領×条例・食い違い問題】

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