【違法な表現行為の刑事責任(名誉毀損罪・侮辱罪・信用毀損罪)】

1 違法な表現行為による刑事責任(総論)

一定の違法な表現行為は損害賠償などの民法上の責任が生じます。
詳しくはこちら|違法な表現行為×民事責任|判断基準|損害賠償・差止・削除・謝罪広告
一方、民事責任とは別に、刑事責任を生じることもあります。
犯罪の種類は、名誉棄損罪・侮辱罪・信用毀損罪があります。

2 名誉毀損罪(概要)

まずは名誉棄損罪について、基本的事項をまとめます。

名誉毀損罪(概要)

あ 構成要件

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した
事実の有無に関わらない

い 法定刑

法定刑=『ア』or『イ』
ア 懲役or禁錮3年以下イ 罰金50万円以下 ※刑法230条1項
詳しくはこちら|名誉毀損罪(構成要件と公共の利害に関する特例)

3 侮辱罪

(1)侮辱罪の基本

侮辱罪の基本的事項についてまとめます。

侮辱罪の基本

あ 構成要件

事実を摘示していない
公然と人を侮辱した

い 法定刑

1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
※刑法231条

う 拘留・科料の内容

拘留 刑事施設への拘置1日以上30日未満 刑法16条 科料 1000円以上1万円未満 刑法17条

(2)侮辱罪の『公然・侮辱』の解釈

侮辱罪の構成要件の解釈をまとめます。

侮辱罪の『公然・侮辱』の解釈

あ 『公然』

名誉毀損における『公然』と同じ(前述)

い 『侮辱』

他人の人格を蔑視する価値判断を表示すること

う 構成要件全体のまとめ

事実を摘示しないで名誉を毀損すること
(事実の摘示があっても、その事実が具体性を欠く場合)
※通説

(3)侮辱罪の厳罰化

侮辱罪の厳罰化

あ 改正前の法定刑

本罪の刑は従来、拘留または科料であった

い 令和4年(2022年)改正による変更

テレビ番組に出演していた女性がネット上の誹謗中傷に起因して自殺した事件などを契機として、拘禁刑および罰金が追加された

う 法定刑変更の影響

ア 実体法上の効果 侮辱の教唆・幇助の処罰(刑法64条)や没収(刑法20条)が可能となった
イ 手続法上の効果 現行犯逮捕や通常逮捕に関する制限(刑訴法199条ただし書、217条)から解放され、公訴時効も1年から3年に延びることとなった

え 批判的見解

ネット上の誹謗中傷で問題となったのは、対象者の精神的苦痛であって、外部的名誉を保護法益とする侮辱罪の刑の引き上げにより対処することが適切であるかは疑問の余地がある(という指摘がある)
※松原芳博著『刑法各論 第3版』日本評論社2024年p168

4 名誉棄損罪と侮辱罪の共通事項

以下、名誉毀損罪と侮辱罪を比較します。
最初に、共通する事項をまとめます。

名誉棄損罪と侮辱罪の共通事項

あ 名誉棄損と侮辱

『名誉を毀損』と『侮辱した』の共通事項
→社会的評価を低下させること

い 公然

名誉毀損罪・侮辱罪ともに『公然』が含まれている
『公然』の意味について
→不特定・多数の者(に伝えたこと)

このように、根幹部分が共通なので似ているのです。
いずれにしても、単に公表しただけではいずれの罪にも該当しません。
不特定・多数への伝達、によってはじめて罪に該当するのです。

5 名誉棄損罪と侮辱罪の違い

名誉棄損罪と侮辱罪は似ているけど違いもはっきりしています。
2つの罪の違いは『事実の摘示』の有無ということになります。

名誉棄損罪と侮辱罪の違い(概要)

罪名 事実の摘示の有無 名誉棄損罪 あり 侮辱罪 なし
詳しくはこちら|名誉毀損罪(構成要件と公共の利害に関する特例)

6 『事実の摘示』の判断の具体例

実際には『事実の摘示』に該当するかどうかの判断が難しいケースもあります。
ここでは、分かりやすい典型例を紹介します。

『事実の摘示』の判断の具体例

伝達内容 事実の摘示or評価 成立する罪名 『甲は浮気症だ』 評価 侮辱罪 『甲は頭が悪い』 評価 侮辱罪 『甲は乙と不倫している』 事実の摘示 名誉棄損罪 『甲のIQは70だ』 事実の摘示 名誉棄損罪

不倫関係をいいふらしたケースの刑事責任については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不倫を言いふらす行為の刑事責任(名誉毀損罪・侮辱罪・脅迫罪)

7 信用毀損罪

(1)信用毀損罪の基本

信用毀損罪の基本

表現行為が特定の者の信用の喪失につながることもあります。そうすると信用毀損罪が成立する可能性があります。
信用毀損罪の基本的事項をまとめます。

信用毀損罪の基本

あ 構成要件

(虚偽の風説を流布したor偽計を用いた)+人の財産的信用を毀損すること

い 法定刑

懲役3年以下or罰金50万円以下
※刑法233条

(2)信用毀損罪の『信用・毀損』の解釈

『信用・毀損』の解釈についてまとめます。
<信用毀損罪の『信用・毀損』の解釈>

あ 『信用』

経済的信用の全般を意味する
※大判大正5年6月26日
※最判平成15年3月11日

い 『毀損』

信用が低下する危険が生じたことで足りる
→抽象的危険犯という性格である
※大判大正2年1月27日

本記事では、違法な表現行為の刑事責任について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に名誉、信用を傷つける行為に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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