【家庭裁判所による祭祀主宰者の指定の判断基準】

1 家庭裁判所による祭祀主宰者の指定の判断基準

民法上、祭祀主宰者は、被相続人の指定が最優先ですが、実際には相続人の間で協議して決めることが多いです。話し合いで決まらない場合、具体的には、葬儀の方式や遺骨を引き取る者について話し合いがまとまらない、という場合には、最終的に、家庭裁判所が指定することになります。
詳しくはこちら|祭祀供養物(墓地・遺骨など)の承継・祭祀主宰者の指定の基本
では、家庭裁判所はどのような基準で祭祀主宰者を決める(指定する)のでしょうか。本記事では、家庭裁判所による祭祀主宰者の判断基準を説明します。

2 祭祀主宰者指定の審判における判断基準

家庭裁判所が祭祀主宰者を決める(指定する)際の判断材料には、とても広い事情が含まれます。祭祀主宰者を簡単にいえば、お墓や遺骨を管理してゆく者なので、適している者は、被相続人に対する愛情や感謝の気持ちを持っている人です。逆にいえば、被相続人が生きていれば、そのような人にお墓や遺骨を管理して欲しいと思うはずです。裁判所の判断は、このような考え方がベースになっています。

祭祀主宰者指定の審判における判断基準

あ 根本的判断基準

被相続人に対する慕情、愛情、感謝の気持ちを最も強く持つ者
≒被相続人が生存していたのであれば、おそらく指定したであろう者

い 判断要素の例

ア 承継候補者と被相続人との間の身分関係・事実上の生活関係イ 承継候補者と祭具などとの間の場所的関係ウ 祭具などの取得の目的や管理などの経緯エ 承継候補者の祭祀主宰の意思や能力オ 利害関係人全員の生活状況・意見 ※東京高決平成18年4月19日
※東京家審昭和46年3月8日(同趣旨)
※小脇一海・二宮周平稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(27)補訂版』有斐閣2013年p87

3 長男偏重を回避した裁判例

古来の考え方は、長男は特別な立場であり、以前の民法では家督相続として、長男だけが遺産を承継するルールになっていました。いわゆる長男が家を継ぐという考えです。
現在でも、長男を特別視する傾向、つまり、お墓を長男が引き継ぐのが普通だという考えはまだ残っています。しかし、昔ほどは強くなくなっています。
実際に、民法改正(家督相続廃止)の少し後の裁判例に、祭祀主宰者として、長男を避けて、次女を指定した、というものがあります。

長男偏重を回避した裁判例

家の後継者は長男ではなく次女が適切である
→次女を祭祀主宰者として指定した
※津家裁伊勢支部昭和37年1月23日

4 内縁の妻を祭祀主宰者として指定する傾向

ところで、相続(権)の点では、法律婚(正妻)と内縁(事実婚)ははっきりと違いがあります。
しかし、祭祀主宰者(の指定)に関しては区別されません。実際に、内縁の妻が祭祀主宰者として指定されるケースは多いです。
内縁、事実婚が増えつつある、ということが影響していると思われます。
詳しくはこちら|婚外子として子供を持つ家族(事実婚・内縁など)の普及と社会の変化

内縁の妻を祭祀主宰者として指定する傾向

あ 内縁の妻vs被相続人の子

内縁の妻と被相続人の子が、祭祀主宰者として指定されることを主張(希望)した
裁判所は内縁の妻を指定した
※高知地裁平成8年10月23日

い 内縁の妻vs被相続人の妹

内縁の妻と被相続人の妹が、祭祀主宰者として指定されることを主張(希望)した
被相続人は内縁の妻に祭祀を承継させる遺志があった
→裁判所は内縁の妻を指定した
※大阪高裁昭和24年10月29日

5 家業の承継者を祭祀主宰者として指定する傾向

一般的に、「家」や家業の後継者は、祭祀主宰者として妥当と判断される傾向が強いです。

家業の承継者を祭祀主宰者として指定する傾向

被相続人が事業・家業を営んでいた
→裁判所が事業・家業を継続している者を指定した
※東京高裁昭和54年4月24日
※名古屋高裁昭和59年4月19日
※大阪高裁昭和59年10月15日
※東京家裁平成12年1月24日

6 家業の承継者を祭祀主宰者として指定した裁判例

実際に、家業を承継する者を、家庭裁判所が祭祀主宰者として指定したケースのうち1つを紹介します。
被相続人の気持ちとして、家業を承継する者がお墓も引き継ぐことを希望していた、と読み取ったのです。

家業の承継者を祭祀主宰者として指定した裁判例

あ 事案
亡Aは、社業の興隆発展に生涯情熱を傾けていた
同社の経営は息子Bが承継していた
亡Aは墓所もBに承継させることを望んでいたと推認される
亡Aの妻も同様の希望を有していたと考えられる
い 裁判所の判断
祭祀主宰者はBが相当(適切)である
→Bを指定した
※東京家裁平成12年1月24日

7 被相続人との同居者を祭祀主宰者として指定する傾向

被相続人の生前に親族のうち1人が同居しているケースも多いです。当然、関係は密接になるのが通常です。そこで、祭祀主宰者として指定されることが多いです。

被相続人との同居者を祭祀主宰者として指定する傾向

あ 生前の状況

被相続人の生前、密接な交流を維持した者がいる
ア 被相続人と同居していたイ 祭祀財産の管理を共同してきた

い 裁判所の判断|傾向

これに該当する者を祭祀主宰者に指定した
※大分家裁昭和50年7月18日
※大阪家裁昭和52年8月29日
※名古屋高裁昭和59年4月19日
※大阪高裁昭和59年10月15日
※東京高裁平成18年4月19日

8 祭祀主宰者指定における「氏」(苗字)の影響

祭祀主宰者は、簡単にいえばお墓を守るという役割(立場)です。お墓は「◯◯家」と掘られているように、「家」との結びつきがあります。そこで、被相続人と「氏」(苗字)が同じ人が適切という発想が出てきます。しかし、民法改正は、「家単位」から決別して「個人単位」に切り替えるという根本思想を実現したものです。そこで「家単位」をベースとして「氏」を重視する、という考え方には批判もあります。
実際は、被相続人と同じ「氏」の人の方が指定されやすいですが、別の「氏」の人が指定されることがない、というわけではありません。

祭祀主宰者指定における「氏」(苗字)の影響

あ 「氏」が重視される傾向

「氏」が異なる者が祖先の祭祀を承継することは、旧来の風俗に反する
「氏」が同一の者が指定される傾向がある
「氏」の変更(う)があった者(被相続人とは「氏」が異なる者)は指定されない傾向がある

い 批判

法の趣旨は旧来の風俗を公的に踏襲することを意図的に避けている
旧来の風俗を重視すべきではない
※『月報司法書士2015年6月』日本司法書士会連合会p15〜
(参考)祭祀主宰者の決定において慣習を用いることは否定される傾向が強い
詳しくはこちら|祭祀供養物(墓地・遺骨など)の承継・祭祀主宰者の指定の基本

う 「氏」の変更の例

ア 婚姻・養子縁組 婚姻・養子縁組により氏を改めた
イ 復氏(離婚・離縁) 離婚・婚姻取消・離縁・縁組取消などによる復氏
※民法769条、771条、749条、817条、808条
ウ 死別・姻族関係終了 配偶者死亡による復氏
特に、姻族関係の意思表示がなされた場合
祭祀主宰者として指定できない強い事情となる
※民法728条2項、751条2項

9 祭祀主宰者の人数・共同承継・分割承継

裁判所が祭祀主宰者として指定する者は、1人でなくてはならない、というルールはありません。複数の人を指定することもあります。複数の人が祭祀主宰者になる場合、共同で祭祀を遂行(主宰)する方式と、祭祀の内容を分担(分割)する方式があります。もちろん、審判として裁判所が決めます。

祭祀主宰者の人数・共同承継・分割承継

あ 原則

通常は1人が単独で指定される
特別の事情がある場合、イレギュラーな指定がなされることもある

い 共同承継

2人以上の者が同一権限として指定される
※仙台家裁昭和54年12月25日

う 分割承継

2人以上の者が権限を分割して指定される
※東京家裁昭和42年10月12日

本記事では、家庭裁判所による祭祀主宰者の指定の判断基準を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に墓地や葬儀に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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