1 家裁による『祭祀主宰者』の指定|選択する基準
2 『祭祀主宰者』指定の審判|実務的目安・具体的典型例
3 祭祀主宰者の指定|長男が偏重されるわけではない
4 祭祀主宰者の指定|『内縁の妻』が選択される傾向が強い
5 祭祀主宰者の指定|『家・事業の承継』とリンクする傾向
6 祭祀主宰者の指定|『事業の承継』とリンクする|事例
7 祭祀主宰者の指定|被相続人との同居は重視される傾向
8 祭祀主宰者指定×『氏』の重視+批判
9 祭祀主宰者の指定|人数=1人or複数|共同/分割承継

1 家裁による『祭祀主宰者』の指定|選択する基準

『祭祀主宰者』は,相続人の間で協議して決めるのが一般的です。
詳しくはこちら|祭祀供養物の承継・祭祀主宰者の指定|基本|法的効果|所有権移転・葬儀履行義務
しかし,親族の協議では決められないケースもよくあります。
葬儀の方式や遺骨を引き取る者について話し合いがまとまらない,という状況です。
この場合最終的には家庭裁判所が『祭祀主宰者』を決める手続を利用します。
家裁の判断基準をまとめます。

<『祭祀主宰者』指定の審判|判断基準>

あ 根本的判断基準

被相続人に対する慕情,愛情,感謝の気持ちを最も強く持つ者
≒被相続人が生存していたのであれば,おそらく指定したであろう者

い 判断要素|例

ア 承継候補者と被相続人との間の身分関係・事実上の生活関係
イ 承継候補者と祭具などとの間の場所的関係
ウ 祭具などの取得の目的や管理などの経緯
エ 承継候補者の祭祀主宰の意思や能力
オ 利害関係人全員の生活状況・意見
※東京高裁平成18年4月19日
※『新版注釈民法(27)』有斐閣p132

う 『慣習』との関係

『慣習』の判断・結果と重複することも多い
※最高裁平成元年7月18日;『慣習』として判断した

2 『祭祀主宰者』指定の審判|実務的目安・具体的典型例

実際に祭祀主宰者を裁判所が選択する目安や具体的な例をまとめます。

<『祭祀主宰者』指定の審判|実務的目安>

あ 大まかな判断の方向性

ア 遠い昔の祖先よりも近い祖先
イ 被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあった者

い 具体的な典型例

多い順は次のとおりである
それぞれ既に亡くなっているor高齢の場合は次順位に繰り下がる
ア 配偶者
イ 子供
ウ 親or兄弟姉妹
エ 既婚の娘の配偶者・内縁の妻(レアケース)
※『月報司法書士2015年6月』日本司法書士会連合会p51〜

3 祭祀主宰者の指定|長男が偏重されるわけではない

古来の考え方=以前の民法では『長男が家を継ぐ=相続する』という考え方でした。
現在では,民法上も実際の状況も,長男と特別視する傾向は弱くなっています。
民法改正の初期において『長男偏重』を排斥した判例があります。

<『長男偏重』を脱した×祭祀主宰者|判例>

家の後継者は長男ではなく次女が適切である
→次女を祭祀主宰者として指定した
※津家裁伊勢支部昭和37年1月23日

4 祭祀主宰者の指定|『内縁の妻』が選択される傾向が強い

現実には『内縁の妻』が『祭祀主宰者』となることは多いです。
むしろ,内縁の妻には相続権がないことが不遇と言えるでしょう。
『正妻』の地位が強すぎるだけとも言えますが。
詳しくはこちら|婚外子として子供を持つ家族(事実婚・内縁など)の普及と社会の変化

いずれにしても,内縁の妻が『祭祀主宰者』となることが適切であるケースが多いです。

<内縁の妻が『祭祀主宰者』とされたケース|判例>

あ 内縁の妻vs被相続人の子

裁判所は『内縁の妻』を指定した
※高知地裁平成8年10月23日

い 内縁の妻vs被相続人の妹

被相続人は内縁の妻に祭祀を承継させる遺志があった
→裁判所は内縁の妻を指定した
※大阪高裁昭和24年10月29日

5 祭祀主宰者の指定|『家・事業の承継』とリンクする傾向

一般的に『家・家業の後継者』は『祭祀主宰者』として妥当と判断される傾向が強いです。
判例の全体的な傾向をまとめます。

<家業の承継×祭祀主宰者|判例の傾向>

被相続人が事業・家業を営んでいた
→裁判所が『事業・家業を継続している者』を指定した
※東京高裁昭和54年4月24日
※名古屋高裁昭和59年4月19日
※大阪高裁昭和59年10月15日
※東京家裁平成12年1月24日

6 祭祀主宰者の指定|『事業の承継』とリンクする|事例

上記の判例のうち1つの事例について,具体的内容を紹介します。

<家業の承継×祭祀主宰者|事例>

あ 事案
亡Aは,社業の興隆発展に生涯情熱を傾けていた
同社の経営は息子Bが承継していた
亡Aは墓所もBに承継させることを望んでいたと推認される
亡Aの妻も同様の希望を有していたと考えられる
い 裁判所の判断
祭祀主宰者はBが相当(適切)である
→Bを指定した
※東京家裁平成12年1月24日

7 祭祀主宰者の指定|被相続人との同居は重視される傾向

被相続人の生前に親族のうち1人が『同居』しているケースも多いです。
当然,関係は密接になるのが通常です。
そこで,祭祀主宰者として選択されることが多いです。

<被相続人との同居×祭祀主宰者の指定|判例の傾向>

あ 生前の状況

被相続人の生前,密接な交流を維持した者がいる
ア 被相続人と同居していた
イ 祭祀財産の管理を共同してきた

い 裁判所の判断|傾向

これに該当する者を祭祀主宰者に指定した
※大分家裁昭和50年7月18日
※大阪家裁昭和52年8月29日
※名古屋高裁昭和59年4月19日
※大阪高裁昭和59年10月15日
※東京高裁平成18年4月19日

8 祭祀主宰者指定×『氏』の重視+批判

(1)『氏』の重視+批判

祭祀主宰者の指定では『氏』つまり苗字が考慮されることもあります。

<祭祀主宰者指定×『氏』の重視+批判>

あ 『氏』が重視される傾向

『氏』が異なる者が祖先の祭祀を承継すること
→旧来の風俗に反する
→『氏』が同一の者が指定される傾向がある

い 批判

法の趣旨は『旧来の風俗』を公的に踏襲することを意図的に避けている
→『旧来の風俗』を重視すべきではない
※『月報司法書士2015年6月』日本司法書士会連合会p15〜

批判もありますが,実務上,一定の傾向は見受けられます。

(2)『氏』の変更・典型例

『氏』が変更する場合の典型例をまとめます。

<『氏』の変更・典型例>

あ 婚姻・養子縁組

婚姻・養子縁組により氏を改めた

い 『復氏』|離婚・離縁など

離婚・婚姻取消・離縁・縁組取消などによる『復氏』
※民法769条,771条,749条,817条,808条

う 死別・姻族関係終了

配偶者死亡による『復氏』
さらに『姻族関係の意思表示』がなされた場合
→『祭祀主宰者』として指定できない強い事情となる
※民法728条2項,751条2項

9 祭祀主宰者の指定|人数=1人or複数|共同/分割承継

祭祀主宰者の指定は『1人』とは限りません。
また,複数人の場合でも『共同/分割承継』があります。

<祭祀主宰者の指定|人数・共同/分割承継>

あ 原則

通常は1人が単独で指定される
特別の事情がある場合,イレギュラーな指定がなされることもある

い 共同承継

2人以上の者が同一権限として指定される
※仙台家裁昭和54年12月25日

う 分割承継

2人以上の者が権限を分割して指定される
※東京家裁昭和42年10月12日