【リベンジポルノ法|元恋人とのセクシャル画像のインターネッツ拡散→犯罪】

1 ITの発達・普及→リベンジポルノ増加→社会的問題となった
2 拡散が禁止される画像・動画の定義|『私事性的画像記録・記録物』
3 ビジネス(AV)はリベンジポルノから除外される
4 リベンジポルノ法の罰則対象行為=構成要件|3種類の『拡散』方法
5 男女関係の法律の介入は『冤罪リスク』に注意
6 サーバーの責任制限|監視義務はないが通報されたら削除義務がある
7 リベンジポルノ×わいせつ物・児童ポルノ公然陳列罪・名誉毀損罪
8 リベンジポルノ→名誉棄損罪|判例
9 リベンジポルノ法|条文・附則全文

最近,初の検挙(逮捕)事例が報道され,話題となっている『リベンジポルノ法』について説明します。

1 ITの発達・普及→リベンジポルノ増加→社会的問題となった

<リベンジポルノ>

元交際相手・元配偶者の裸の写真・動画などをインターネッツ等で拡散する嫌がらせ

ITの発達・普及により,このようなリベンジポルノが容易に発想・実行できるようになりました。
撮影も拡散も非常に容易です。
参考コンテンツ|SNSの法律問題発生メカニズム|気軽→心のブレーキが効かない
普遍的な現象として,リベンジポルノは発生・拡大しつつあるのです。
その一方で,『止めること』のハードルは結構高いです(リベンジポルノ法6条)。
詳しくはこちら|発信者情報開示請求|基本|オンラインの誹謗中傷・名誉毀損→加害者特定
リベンジポルノの被害は社会的問題と言えるほど大きくなっています。
そこで安倍政権は,リベンジポルノへの刑事罰を設定する法律を公布・施行しました。
正式な法律名は『私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律』という役所風です。
ここでは『リベンジポルノ法』という俗称を用います。
では,法律上の規制・罰則の内容についてまとめていきます。

2 拡散が禁止される画像・動画の定義|『私事性的画像記録・記録物』

まず最初に,投稿などの拡散を禁止する対象が定義されます。

<『私事性的画像記録/記録物』の定義>

あ 私事性的画像記録;2条1項

『性的画像』(後記)のいずれかが撮影された画像・動画の記録
例;電磁的情報(データ)そのもの

い 私事性的画像記録物;2条2項

『性的画像』(後記)のいずれかが撮影された画像・動画の記録
《具体例》
ア デジタル記録が入っているメディア DVD・Blu-ray Disc・USBメモリ・HDD
イ アナログ媒体 写真・銀塩フィルム・ネガ

上記の『私事性的画像記録・記録物』の定義の中に含まれる『性的画像』の定義をまとめます。
定義は非常に細かいです。
3つのカテゴライズがなされています。

<『性的画像』の種類;2条>

あ ストレート性交系

性交or性交類似行為にかかる人の姿態

い 性器接触系

他人が人の性器等を触る行為or人が他人の性器等に触る行為にかかる人の姿態
かつ,性欲を興奮させまたは刺激するもの
《『性器等』指定部位》
性器・肛門・乳首

う セミヌード系

衣服の全部or一部を着けない人の姿態であって,殊更に人の性的な部位が露出されまたは強調されているもの
かつ,性欲を興奮させまたは刺激するもの
《『性的部位』指定部位》
性器・肛門・乳首・その周辺部・臀部・胸部

このような『きわどさの範囲』は児童ポルノ法などの使い回し(共通設定)となっています。
詳しくはこちら|児童ポルノ単純所持罪・公然陳列罪(基本・サーバー運営者の責任)

以上に該当するデータやメディアを『拡散』すると刑事罰の対象になります。
『拡散』の具体的な内容は後述します。

3 ビジネス(AV)はリベンジポルノから除外される

リベンジポルノは,あくまでも『親密な仲・高度の信頼』を裏切る行為を罰するものです。
当初から『オープン予定』の画像・動画は除外されます。

<リベンジポルノ|適用除外>

撮影対象者が『第三者が閲覧すること』を認識した上で『任意に』撮影を承諾しor自ら撮影したものは除く

通常は『第三者の閲覧』が予定されているのはAV撮影などが該当します。
なお『男女交際と金銭が絡む→法律問題』というテーマは別にまとめています。
参考コンテンツ|男女交際における『民事的違法』;公序良俗違反,不法原因給付,慰謝料

4 リベンジポルノ法の罰則対象行為=構成要件|3種類の『拡散』方法

(1)拡散方法は3種類ある

リベンジポルノ法では刑事罰を3種類規定しています。
定義自体は複雑なので整理します。

<オンライン拡散罪;3条1項>

あ 構成要件=罰則対象行為

次のいずれをも満たす行為
ア 第三者が撮影対象者を特定することができる方法イ 電気通信回線を通じて『私事性的画像記録』を『不特定or多数の者』に『提供した』

い 法定刑

懲役3年以下or罰金50万円以下

<オフライン拡散罪;3条2項>

あ 構成要件=罰則対象行為

次のいずれをも満たす行為
ア 第三者が撮影対象者を特定することができる方法イ 『私事性的画像記録物』を『不特定or多数の者』に『提供or公然と陳列した』

い 法定刑

懲役3年以下or罰金50万円以下

<間接拡散罪;3条3項>

あ 構成要件=罰則対象行為

『あ・い』をさせる目的で,第三者に次のような『提供』をした
ア オンラインで『私事性的画像記録』を提供したイ オフラインで『私事性的画像記録物』を提供した

い 法定刑

懲役1年以下or罰金30万円以下

(2)親告罪・国外犯規定

<共通するルール>

あ 親告罪;4項

告訴がなければ公訴を提起することができない

い 国外犯規定;5項

日本国民が日本国外で行っても処罰される

う 施行日=公布日;附則1条

ア 原則 公布日=平成26年11月27日から施行する
イ 刑事罰 公布日から20日経過後から施行する

5 男女関係の法律の介入は『冤罪リスク』に注意

交際・夫婦という男女の関係は,法律の規定の範囲=政府の介入の程度,という問題が背景にあります。
さらに,具体的事案で『立証が不十分になりがち』『言い分だけで決まることも生じる』ということが生じる傾向が強いです。
また『基準の規定・解釈があいまい』ということもよく発現します。
法律が,本来予定していた機能で働くのは良いのですが『意図的な悪用』『誤用』も目立つのです。
詳しくはこちら|強姦罪・痴漢の発生メカニズムと冤罪リスクや冤罪ビジネス

6 サーバーの責任制限|監視義務はないが通報されたら削除義務がある

オンラインでの拡散については,加害者の処罰も大切ですが,サーバーから削除する,ということも急務です。
逆にサーバーの運営者の立場としては『共同不法行為・共犯としての法的責任』を負うリスクがあります。
そこでリベンジポルノ法では次のように規定しました。

<リベンジポルノを投稿されたサーバーの責任|概要;4条>

あ 監視義務はない

リベンジポルノを投稿された『だけ』では責任は生じない

い 申告後は削除義務が生じる

リベンジポルノの存在を申告(削除要求)があった後は『削除』が必要となる

これはプロバイダ責任制限法と同様の規定です。
詳しくはこちら|ネット上の名誉棄損など|運営者・管理人の責任|損害賠償・削除義務

7 リベンジポルノ×わいせつ物・児童ポルノ公然陳列罪・名誉毀損罪

リベンジポルノは,従来の法律でも犯罪に該当することがありました。
リベンジポルノ法以外のものをまとめます。

<リベンジポルノ×従来型犯罪>

あ わいせつ物公然陳列罪

※刑法175条
詳しくはこちら|わいせつ物陳列罪の基本と『わいせつ』の定義・判断基準

い 児童ポルノ公然陳列罪

※児童ポルノ禁止法7条2項,6項
詳しくはこちら|児童ポルノ単純所持罪・公然陳列罪(基本・サーバー運営者の責任)

う 名誉棄損罪

※刑法230条

8 リベンジポルノ→名誉棄損罪|判例

『リベンジポルノ』に該当する行為は,リベンジポルノ法施行前より生じていました。
従来の法律による刑罰が適用された実例を紹介します。

<リベンジポルノ→『名誉棄損罪』|判例>

元交際相手の半裸画像をインターネッツ上に投稿した
→名誉棄損罪を認めた
※名古屋地裁平成26年5月12日
※『自由と正義』15年6月 日弁連p112

9 リベンジポルノ法|条文・附則全文

リベンジポルノ法は,まだ公布・施行からそれほど時間が経っていません。
条文自体がインターネッツ上で拡散していません。
性的画像の拡散を防止する法律として名前負けの状態です。
そこでここに全文を掲載します。
参考コンテンツ|著作権|利用制限の例外|裁判関係・入試問題・学習用問題

<私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律>

(目的)
第一条 この法律は、私事性的画像記録の提供等により私生活の平穏を侵害する行為を処罰するとともに、私事性的画像記録に係る情報の流通によって名誉又は私生活の平穏の侵害があった場合における特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)の特例及び当該提供等による被害者に対する支援体制の整備等について定めることにより、個人の名誉及び私生活の平穏の侵害による被害の発生又はその拡大を防止することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において『私事性的画像記録』とは、次の各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像(撮影の対象とされた者(以下『撮影対象者』という。)において、撮影をした者、撮影対象者及び撮影対象者から提供を受けた者以外の者(次条第一項において『第三者』という。)が閲覧することを認識した上で、任意に撮影を承諾し又は撮影をしたものを除く。次項において同じ。)に係る電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。同項において同じ。)その他の記録をいう。
 一 性交又は性交類似行為に係る人の姿態
 二 他人が人の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下この号及び次号において同じ。)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
 三 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
2 この法律において『私事性的画像記録物』とは、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、前項各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像を記録したものをいう。
 (私事性的画像記録提供等)
第三条 第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 前項の方法で、私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者も、同項と同様とする。
3 前二項の行為をさせる目的で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を提供し、又は私事性的画像記録物を提供した者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
4 前三項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
5 第一項から第三項までの罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。
 (特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の特例)
第四条 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第三条第二項及び第三条の二第一号の場合のほか、特定電気通信役務提供者(同法第二条第三号に規定する特定電気通信役務提供者をいう。以下この条において同じ。)は、特定電気通信(同条第一号に規定する特定電気通信をいう。以下この条において同じ。)による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者(同条第四号に規定する発信者をいう。以下この条において同じ。)に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれにも該当するときは、賠償の責めに任じない。
 一 特定電気通信による情報であって私事性的画像記録に係るものの流通によって自己の名誉又は私生活の平穏(以下この号において『名誉等』という。)を侵害されたとする者(撮影対象者(当該撮影対象者が死亡している場合にあっては、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹)に限る。)から、当該名誉等を侵害したとする情報(以下この号及び次号において『私事性的画像侵害情報』という。)、名誉等が侵害された旨、名誉等が侵害されたとする理由及び当該私事性的画像侵害情報が私事性的画像記録に係るものである旨(次号において『私事性的画像侵害情報等』という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し私事性的画像侵害情報の送信を防止する措置(以下『私事性的画像侵害情報送信防止措置』という。)を講ずるよう申出があったとき。
 二 当該特定電気通信役務提供者が、当該私事性的画像侵害情報の発信者に対し当該私事性的画像侵害情報等を示して当該私事性的画像侵害情報送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会したとき。
 三 当該発信者が当該照会を受けた日から二日を経過しても当該発信者から当該私事性的画像侵害情報送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。
 (支援体制の整備等)
第五条 国及び地方公共団体は、私事性的画像記録の提供等による被害者の適切かつ迅速な保護及びその負担の軽減に資するよう、被害者が当該提供等に係る犯罪事実の届出を行いやすくするために必要な捜査機関における体制の充実、私事性的画像侵害情報送信防止措置の申出を行う場合の申出先、申出方法等についての周知を図るための広報活動等の充実、被害者に関する各般の問題について一元的にその相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他必要な措置を講ずるものとする。
 (被害の発生を未然に防止するための教育及び啓発)
第六条 国及び地方公共団体は、私事性的画像記録等が拡散した場合においてはその被害の回復を図ることが著しく困難となることに鑑み、学校をはじめ、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて、自己に係る私事性的画像記録等に係る姿態の撮影をさせないこと、自ら記録した自己に係る私事性的画像記録等を他人に提供しないこと、これらの撮影、提供等の要求をしないこと等私事性的画像記録の提供等による被害の発生を未然に防止するために必要な事項に関する国民の十分な理解と関心を深めるために必要な教育活動及び啓発活動の充実を図るものとする。
   附 則
 (施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第三条の規定は公布の日から起算して二十日を経過した日から、第四条の規定は公布の日から起算して一月を経過した日から施行する。
 (被害回復及び処罰の確保に資する国際協力の在り方等に関する検討)
第二条 政府は、インターネットを利用した私事性的画像記録の提供等に係る被害回復及び処罰の確保に資するため、この法律の施行後二年以内に、外国のサーバーを経由するなどした私事性的画像記録の提供に関する行為者の把握及び証拠の保全等を迅速に行うための国際協力の在り方について検討するとともに、関係事業者における通信履歴等の保存の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
 (検討)
第三条 この法律の規定については、この法律の施行後三年を目途として、この法律の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

外部サイト|官報号外第262号|平成26年11月27日p27〜

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