1 保全処分は事後的に『違法』と判断され取り消されることもある
2 『違法』な保全処分→債権者は損害賠償責任を負う
3 保全取消→『過失あり』の推定を覆した事例|事案
4 保全取消→『過失あり』の推定を覆した事例|裁判所の判断

1 保全処分は事後的に『違法』と判断され取り消されることもある

保全処分の審理は『迅速・密行』が特徴です。
具体的には『債務者の意見を聴かない』・『証明の程度が低い』ということです。
そこで後から本案訴訟で『間違った判断だった』と判定されることも生じます。

<民事保全の特徴から生じる反撃>

保全処分の実行(執行)がなされた後に相手が反論・反証する
→取り消されることが生じる
=保全が『違法』だった,という判断

具体的手続としては保全取消の申立により裁判所が『取り消す』というものです。
保全取消の手続については別記事で説明しています(リンクは末尾に記載)。

2 『違法』な保全処分→債権者は損害賠償責任を負う

保全処分が『違法』と判断された場合に,保全処分が取り消されるのは当然です。
一定期間『債務者の財産などの拘束状態』が生じた事実は消せません。
『違法な拘束』による『損害』について,賠償責任が生じます。
この違法性判断についての判例を紹介します。

<仮差押・仮処分の申立自体の違法性>

あ 前提条件|次のいずれか

ア 仮処分命令が異議または上訴手続において取り消された
イ 本案訴訟において原告敗訴の判決が言い渡され,その判決が確定した
ウ 異議or上訴手続において保全命令が『保全の必要性なし』の理由で取り消された

い 違法性の判断

他に特段の事情がない限り,仮処分の申立人において『過失があった』と推定する
※大阪地裁平成5年9月27日
※最高裁昭和43年12月24日;上記『ウ』が欠けているが実質的に同趣旨
※中野貞一『過失の推認 増補版』弘文堂p7〜

このように『債権者が賠償責任を負う可能性がある』というのは民事保全一般に言える特徴です。
そこで一般的に保全処分では債権者に『保証金の担保』が必要とされているのです。
次に説明します。

3 保全取消→『過失あり』の推定を覆した事例|事案

後から保全取消となった場合『保全自体の違法性』が原則的に認められます(前述)。
しかし『推定』であるので『覆す』ことも可能という前提です。
実際に推定を覆した事例を紹介します。

<保全取消→『過失あり』の推定を覆した事例|事案>

あ 仮差押の概要

次の内容で仮差押が執行された
債権者=破産管財人
債務者=破産者(法人)の監査役
被保全債権=損害賠償請求権として2000万円
対象財産=監査役の自宅不動産

い 本案=破産手続における査定決定の判断

ア 争点
監査役の『重過失』の有無・範囲
イ 裁判所の判断|決定内容
684万円の限度で賠償責任を認定した
↑役員報酬2年分

う 結果的な仮差押の不当性

仮差押のうち『684万円を超過する部分』は不当なものであった

このケースにおける,裁判所の判断を次に説明します。

4 保全取消→『過失あり』の推定を覆した事例|裁判所の判断

<保全取消→『過失あり』の推定を覆した事例|裁判所の判断>

あ 認定のポイント

『監査役に善管注意義務違反があった』こと自体は事実であった
結果的な『誤り』は被担保債権の『金額』だけであった
被担保債権の『有無』には『誤り』はなかった

い 裁判所の判断

仮差押申立の際『請求権が2000万円存在する』と考えたこと
→『相当の理由(特段の事情)』に該当する
→仮差押申立に違法性はない
※大阪地裁平成25年12月26日

被担保債権の『金額』の『齟齬』については『違法性の根拠』にならない方向性と言えます。

<参考情報>

『弁護士賠償責任保険の解説と事例 第5集』全国弁護士協同組合連合会『5−(3)』