1 安倍首相のヘアカット『適法性』→美容師vs理容師の『縄張り争い』が表面化
2 『美容』『理容』の定義|縄張りの境界設定
3 『美容/理容』の境界はグレー|昭和53年通達〜平成27年
4 女性のカットは『容姿を美しくする』だけど男性は『美しく』ならない?
5 通達は裁判所が否定することも多い・縄張り争いよりもユーザー目線を
6 昭和53年の不合理通達の廃止|平成27年7月通知
7 法律・通達|ソース

1 安倍首相のヘアカット『適法性』→美容師vs理容師の『縄張り争い』が表面化

街中には『美容院・美容室』や『バーバー・理容室』がたくさんあります。
この点実は『美容師vs理容師』という縄張り争いがあります。
美容師・理容師は,マーケットが小さい範囲なので,通常は,大きな話題にはなりません。
しかし『内閣のリーダー=総理大臣』が絡むと『適法性』として話題になります。

<安倍晋三首相×『適法性』問題>

安倍晋三首相は渋谷区の美容室にほぼ毎日通っている
妻昭恵さんが勧めた美容室である
首相はカットやヘッドスパなどを行っている
※日本経済新聞平成27年3月4日

一見何の変哲もない,微笑ましいニュースです。
しかし,厳密に考えると『法律違反』『縄張り争い』という問題が背後にあるのです。
本記事では『美容・理容』の定義やその境界について説明します。

2 『美容』『理容』の定義|縄張りの境界設定

『美容』『理容』については,法律上しっかりと『定義』が規定されています。
それぞれ『免許制』という規制が設定されています。

<美容・理容|参入規制=免許制>

あ 美容・理容|免許制
名称 美容師 理容師
要件 美容師試験合格+厚生労働大臣の免許 理容師試験合格+厚生労働大臣の免許
根拠 美容師法3条1項 理容師法2条
い 『美容』定義

パーマネントウエーブ,結髪,化粧等の方法により,容姿を美しくすること
※美容師法2条1項

う 『理容』定義

頭髪の刈込,顔そり等の方法により,容姿を整えること
※理容師法1条の2第1項

3 『美容/理容』の境界はグレー|昭和53年通達〜平成27年

『美容』『理容』は定義の時点で『重複』が生じやすい状態となっています。
『美容師vs理容師』でマーケットの奪い合いが生じる,とも言えます。
ここで厚生労働省が『通達』として,この曖昧な解釈について基準を発表していました。

<通達における『理容/美容』の解釈>

あ 『理容・美容』には『付随する行為』も含む

『理容・美容』は条文上の定義だけではなく『これに準ずる行為』『これらに付随する行為』も一定の範囲内で含まれる

い 理容師が行えるパーマの範囲

カットに伴う理容行為の一環として男子に対し仕上げを目的とするパーマを行うこと
これ以外は含まれない
=『女性へのパーマ』は違反

う 美容師が行えるカットの範囲
施術 男性 女性
パーマ等に伴う『美容行為の一環』
単独の『カット』
う カラー(染毛)

理容・美容の両方に含まれる
→理容師・美容師のいずれもが行える
※厚生労働省通達『理容師法及び美容師法の運用について』昭和53年12月5日
→平成27年7月に廃止された(後記)

『カラー(染毛)』だけは『両陣営が踏み込んで良い』というある意味『ネオ緩衝地帯』です。
(本来の『緩衝地帯』は『両陣営が踏み込まない』なので,現在版として『ネオ』を付した)
しかし『カット』は,理容師の本業・本丸です。
美容師には踏み込まれたくありません。
かと言って『美容師はハサミの使用はオールNG』というのも非現実的です。
そこで『付随的』ならOK,とされています。
問題は,『どこまでが付随的と言えるのか』ということになります。
『パーマのついで』という位置付けならOK,とされました。
次に『カットのみ』が残る問題となりました。
通達では『女性限定でOK』という解釈基準が設定されていました。

4 女性のカットは『容姿を美しくする』だけど男性は『美しく』ならない?

美容師が『カットのみ』を行えるのは『女性』限定,と通達では設定されています。
『美容』の解釈として正しいのでしょうか。
改めて法律上の『美容』の定義を再掲します。

<『美容』の定義>

『パーマネントウエーブ,結髪,化粧等の方法により,容姿を美しくすること』
※美容師法2条1項

よく見ると『方法』は『・・・化粧』と記載されており『限定』ではありません。
要するに『方法はともかく容姿を美しくする』ことは該当する,という解釈の枠組みなのです。
『女性のカット』に限定して『容姿を美しくする』に該当する,という解釈なのです。
『男性のカット』は『容姿を美しくしない』のか!という男性陣の悲哀が聞こえてきそうです。
確かに裁判所の判断として女性については『美貌』について男性とは違う評価をするシーンもあります。
詳しくはこちら|『女性の美貌』の経済的価値|判例における逸失利益の算定

しかし現在は『性による別扱い』は『違法な差別』とされる傾向が強くなっています。
少なくともこの通達が出された昭和53年からは社会的な価値観が大きく変わっています。

5 通達は裁判所が否定することも多い・縄張り争いよりもユーザー目線を

ところで,通達は,行政内部での『基準』であって,裁判所を拘束するものではありません。
『法律』とは成立過程が違うとともに『効力』も当然違っているのです。
実際に,時代にそぐわない『行政判断』が『司法=裁判所』に否定される実例もたくさんあります。
詳しくはこちら|みんなのUBER事件における『有償』該当性の考察

確かに『縄張り争い』にリソースを注ぎ込むのは,いろいろな業界で共通する現象です。
詳しくはこちら|マーケットの既得権者が全体最適妨害|元祖ラッダイト→ネオ・ラッダイト

ユーザーとしては『縄張り争い』ではなく,新たな価値の誕生・ニーズの掘り起こしの方向にリソースを注いで欲しいと思います。
例えば美容師・理容師が出張して施術をするサービスなどは,潜在ニーズが大きいです。
詳しくはこちら|美容師・理容師|出張施術禁止・例外|移動美容車解禁

新しいテクノロジーを使ったり,新しいアイデアで,より社会が便利で発展する方向に進むことを期待します。
立法や司法も,既得権よりもユーザーの利益につながる立法や法解釈をすべきでしょう。

6 昭和53年の不合理通達の廃止|平成27年7月通知

以上のように昭和53年の通達は内容が不合理であることが指摘されていました。
ようやく,この通達は廃止されるに至りました。

<昭和53年の不合理通達→平成27年に廃止>

昭和53年の通達は廃止する
美容師は男性・女性ともにカット(だけ)のサービスを提供して差し支えない
※厚生労働省通知平成27年7月17日

7 法律・通達|ソース

以上の説明で登場した法律・通達をまとめておきます。

<美容師法|抜粋>

(定義)
第二条  この法律で『美容』とは、パーマネントウエーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすることをいう。
2  この法律で『美容師』とは、厚生労働大臣の免許を受けて美容を業とする者をいう。
3  この法律で『美容所』とは、美容の業を行うために設けられた施設をいう。
(免許)
第三条  美容師試験に合格した者は、厚生労働大臣の免許を受けて美容師になることができる。
2(略)

<理容師法|抜粋>

第一条の二  この法律で理容とは、頭髪の刈込、顔そり等の方法により、容姿を整えることをいう。
2  この法律で理容師とは、理容を業とする者をいう。
3  この法律で、理容所とは、理容の業を行うために設けられた施設をいう。
第二条  理容師試験に合格した者は、厚生労働大臣の免許を受けて理容師になることができる。

<昭和53年通達→平成27年廃止|理容師法vs美容師法>

あ タイトル・日付

理容師法及び美容師法の運用について
昭和53年12月5日
環指第149号
各都道府県知事あて
厚生省環境衛生局長通知

い 通達|内容|引用

理容師法第一条第一項に規定する理容の行為及び美容師法第二条第一項に規定する美容の行為の範囲については、昭和二三年一二月八日衛発第三八二号厚生省公衆衛生局長通知をはじめたびたび通知してきたところであるが、近年における理容及び美容技術の変化、利用者の社会風俗の変化等に伴い、理容所又は美容所において行われる行為について種々疑義が生じている向きがあるため、今後は次により運用することとしたので、この旨十分御了知のうえ、貴管下営業者に対する指導につき遺憾のないようされたい。
なお、昭和二三年一二月八日衛発第三八二号厚生省公衆衛生局長通知『理容師法の運用に関する件』のうち第二項は削除し、昭和三〇年一〇月六日衛環第七四号福岡県衛生部長宛厚生省環境衛生課長回答及び昭和四九年二月二一日環衛第三九号鹿児島県知事宛厚生省環境衛生局長回答は撤回する。

一 理容又は美容には、それぞれ理容師法第一条第一項又は美容師法第二条第一項に明示する行為のほかこれに準ずる行為及びこれらに附随した行為が一定の範囲内で含まれるものであり、理容師又は美容師は、それぞれこれらの行為を業として行い得るものであること。
二 一の趣旨にもとづき、理容師のコールドパーマネントウエーブに関する行為及び美容師のカツテイングに関する行為並びに染毛については、次により取り扱うものであること。
(一) 理容師の行うコールドパーマネントウエーブについて
理容師が、刈込み等の行為に伴う理容行為の一環として男子に対し仕上げを目的とするコールドパーマネントウエーブを行うことは差し支えないが、これ以外のコールドパーマネントウエーブは行つてはならないこと。
(二) 美容師の行うカツテイングについて
美容師が、コールドパーマネントウエーブ等の行為に伴う美容行為の一環として、カツテイングを行うことは、その対象の性別の如何を問わず差し支えないこと。また、女性に対するカツテイングは、コールドパーマネントウエーブ等の行為との関連の有無にかかわらず行つて差し支えないこと。
しかし、これ以外のカツテイングは行つてはならないこと。
(三) 染毛について
染毛は、理容師法第一条第一項及び美容師法第二条第一項に明示する行為に準ずる行為であるので、理容師又は美容師でなければこれを業として行つてはならないこと。
三 店頭等における表示においては、二に反する文言は使用しないよう指導されたいこと。
なお、その詳細は追つて通知する予定であること。