【著作権|利用制限の例外|裁判関係・入試問題・学習用問題】

1 判決・裁判関連書類の公開→判決書は適法|プライバシー権・名誉毀損は別
2 入試問題として著作物を使用→『適法』|出版物での使用では補償金支払いが必要
3 学習用の『問題』アレンジ→『学校』は適法|予備校・学習塾は違法傾向

著作権法のルールでは多くの『例外』があります。
利用制限の例外や著作権の対象外となる規定などです。
ここでは,細かいものをまとめて説明します。

1 判決・裁判関連書類の公開→判決書は適法|プライバシー権・名誉毀損は別

(1)裁判のための複製→適法

次に,一般の著作物を『裁判手続のために使う』ということも配慮されています。
書証や主張書面(訴状・答弁書・準備書面)において流用・転載することが認められています。

<著作物の利用制限の例外|裁判目的>

あ 例外(適法化)の対象

裁判手続に必要な範囲での『複製』→適法
※著作権法42条1項

い 典型例

裁判所に提出するために,書籍や写真をコピーする

(2)法律・通達などの公的ルール→著作権の対処外

公的なルール,については普及・周知が望ましいです。
そこで公表の制限は一切除外されています。
要するに『著作権』自体の対象外とされているのです。
ここには『判決』も含まれています。
その後の個人的活動や事業における実質的な『公的ルール』という性格があるからです。

<著作権の対象外|著作権法13条>

憲法・法律 1号
通達・告示 2号
裁判所の判決・決定・命令・審判 3号

これらは『著作権』の保護が一切適用されません。
転載,流用などを自由にすることができます。
裁判に関するものについては『判決』などの裁判所の最終判断の書面だけが『著作権の対象外』です。
この点,判決には『当事者の主張』が要約・引用されて掲載されています。
これは『判決』の一部なので,著作権の対象外=自由に転載可能,と言えます。
逆に,判決書に引用されていない『当事者の主張』や証拠内容は著作権の対象『内』です。
当事者の主張(訴状・準備書面)や証拠内容を公表すると『複製権・公衆送信権』侵害となることがあります。
ただし,実際に判決内容を公表する場合には『著作権』以外にも配慮が必要です。

(3)判決公表×プライバシー権・名誉毀損・守秘義務

判決内容を公表しても,そもそも著作権の対象外なので,著作権法上の問題は生じません。
しかし,当事者のデリケートな情報が当然含まれています。
プライバシー権侵害や名誉毀損に当たることがあります。
公表するためには,当事者の表記を伏せるなどの対応が必要となります。
また,当事者間で『公表しない』ことを合意することがあります。
和解において,当該和解の内容+関連する訴訟の判決も含めて『守秘条項』の対象とすることがあるのです。
このように『公表しない合意』がある場合は当然,公表すると債務不履行として法的責任が生じます。
詳しくはこちら|プライバシー権のまとめ|判例の基準|定義の発展
詳しくはこちら|違法な表現行為|基本|損害賠償・差止・削除請求・謝罪広告・違法性阻却

(4)想定されない公表方法→法的責任が認められる|判例

以上のように『裁判のため』であれば,著作権法上は広く『著作物の使用』が認められています。
逆に言えば『裁判のため』という範囲を逸脱した場合は『許容されない』ことになります。
このような使用に対して慰謝料が認められた判例を紹介します。

<裁判のための書類入手→ネットで公表|慰謝料認容|判例>

あ 事案

ア 株主代表訴訟の当事者(原告)が,代表訴訟を提起したイ 原告は『裁判に利用する目的』を告げて会社から取締役会議事録11通を入手したウ 原告はインターネット上で取締役会議事録を公表した

い 裁判所の判断

損害賠償責任(110万円)が認められた
※大阪高裁平成17年10月25日

2 入試問題として著作物を使用→『適法』|出版物での使用では補償金支払いが必要

(1)入試問題に使うための複製→漏洩防止のため『許諾』不要

各大学や大学入試センター試験の『入試問題』の中で『小説』などの『著作物』が使われることがあります。
形式的には『複製権侵害』となります。
この点,著作権者に使用目的を説明して『許諾を得る』ことが必要になります。
しかし,試験問題という性質上,事前に『使用することを知らせる』こと自体が好ましくありません。
試験問題の漏洩につながるからです。
そこで,著作権法上,『試験問題』については,許諾なしで『複製』が認められています。
オンラインでの掲載=公衆送信,についても同様です。

<試験問題としての複製|権利制限の例外>

次の要件を満たす場合『適法』となる

あ 対象

公表された著作物

い 目的

入学試験・学識技能に関する試験・検定の問題として使用

う 使用方法

複製・公衆送信して使用

え 補償金

『営利目的』の場合は補償金を著作権者に支払う
※著作権法36条

(2)赤本などの2次利用→適法だが補償金が必要

前述のとおり,『試験問題』の中で著作物を使うことは『使用制限の例外』として認められています。
これは『試験問題』自体を別の媒体で使用する場合も同様です。
例えば,『赤本』のように,試験問題を掲載して書籍化したものが典型です。
ただし,通常の書籍出版は『営利目的』です。
この場合は『補償金の支払い』が必要になります(著作権法36条2項)。
結局,試験問題集としての出版は『許諾は不要だが補償金の支払いが必要』ということになります。

3 学習用の『問題』アレンジ→『学校』は適法|予備校・学習塾は違法傾向/h2>

(1)原則論→複製権・翻案権侵害

既存の試験問題や問題集の問題を『アレンジ』して学習用の『問題』を作ることがあります。
これについては『入試問題』のように著作権法上の特別扱いがありません。
『元の問題』が著作物にあたる場合,著作権侵害の問題があります。
なお『元の問題』自体が,小説などの『著作物』を使用している場合もあります。
この場合『2次的著作物』となります。
『小説の著作者』と『元の問題の著作者』が著作権を持っている状態となります(著作権法27,28条)。
既存の問題をアレンジして新たな問題を作る場合の著作権法上の扱いは次のように整理できます。

<既存の学習用問題のアレンジ×著作権>

そのまま使う 複製権・公衆送信権侵害
多少変えて使う 翻案権侵害

この点,本質的な解法に違いがない場合は,『そのまま使う』に該当します。
例えば,数学や物理の問題で,単に『数値』のみを変えたような場合です。
詳しくはこちら|アレンジが著作権違反となる基準|『翻案』の定義

(2)『私的複製』→該当しない

『複製』だけではなく『翻案』についても,『私的使用』のための例外が適用されます(著作権法43条1項,30条1項)。
しかし,学習塾などのでの学習用の問題作成,については『私的使用』の範囲とは言えません。

(3)学校・教育機関の例外→一定範囲で該当する

次に『学校その他の教育機関』についても,例外とされています。
ただし『営利』については除外されています。

<学校・教育機関における使用制限の例外>

あ 対象となる著作物

公表された著作物

い 許容される行為

複製・翻訳・編曲・変形・翻案

う 使用する者(主体)

学校その他の教育機関
営利目的の機関は除外される

え 例外;不当な権利侵害

『著作権者の利益を不当に害することとなる場合』は適用されない
※著作権法43条1項,35条

(4)学校・教育機関の例外|『学校・教育機関』の範囲

ここで『私立学校』や『予備校』『学習塾』については『営利目的の機関』として除外となるかどうかが不明確です。
例えば『予備校』は『学校法人』が設立している場合は,法律上『私立学校』です(私立学校法2条3項,3条)。
『私立学校』であっても,一定の公的な側面もあります(私立学校法1条)。
一方,株式会社が設立・運営する『予備校』も多いです。
著作権法35条の『学校・教育機関』としては,次のような解釈が一般的です。

<複製・翻案等が許容される『学校』の範囲>

公立学校
私立学校(小中高・大学)
予備校
学習塾

※著作権法第35条ガイドライン;著作権法第35条ガイドライン協議会

この解釈は上記ガイドラインを元にしたものです。
これは『著作権法第35条ガイドライン協議会』が作成しました。
この『協議会』は,著作権の権利者側の団体が集まったものです。
要するに『権利者サイド』の見解であり,『ユーザーサイド』としての見解ではありません。
ですから,統一的な見解,という意味ではありません。

(5)学校・教育機関の例外|コンテンツの範囲

このガイドラインでは,『複製・翻案が許されるコンテンツ』についても示されています。

<複製・翻案等が許容されるコンテンツの範囲|参考>

オフィシャルの教科書
参考書・ドリル・教材用CD・CD-ROM (☓)

※著作権法第35条ガイドライン;著作権法第35条ガイドライン協議会

繰り返しになりますが,このガイドラインは『権利者側』の見解です。
オフィシャルの教科書以外を『複製NG』としていますが,やや公平・適正ではないと思われます。
今後,裁判所で同様の見解が取られるとは限らないでしょう。

外部サイト|学校その他の教育機関における著作物の複製に関する著作権法第35条ガイドライン

<著作権法第35条ガイドライン協議会のメンバー>

有限責任中間法人学術著作権協会
社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会
社団法人日本映像ソフト協会
社団法人日本音楽著作権協会
社団法人日本雑誌協会
社団法人日本書籍出版協会
社団法人日本新聞協会
社団法人日本文藝家協会
社団法人日本レコード協会

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