【自動運転車|テクノロジー開発と法規制・法的責任】

1 自動運転テクノロジーへの期待が高まっている
2 現在ASVテクノロジーは普及しつつあり,『自動運転』実現も遠くない
3 自動運転テクノロジー×『法的規制』
4 自動運転テクノロジー・ドローンの事故×『民事責任』
5 自動運転テクノロジー・ドローンの事故×『刑事責任』

1 自動運転テクノロジーへの期待が高まっている

現在,自動車の『自動運転』のテクノロジー開発が進んでいます。
Googleの自動運転車(Google driverless car)は有名です。
『運転』という作業を自動車の機能として自動的に行う,というテクノロジーです。
多くのメリットがあり,開発・普及が期待されます。

<自動運転車のメリット・呼称バラエティ>

あ 自動運転車のメリット

移動・輸送を安全・スピーディー・安くする
《具体的内容》
ア 交通事故の減少イ 渋滞緩和ウ CO2削減

い ネーミングのバラエティ

『自動運転車』
『ドライバーレスカー』
『ロボットカー』

2 現在ASVテクノロジーは普及しつつあり,『自動運転』実現も遠くない

運転の『完全自動化』は,まだ商品化・普及の段階に到達していません。
しかし,一定の範囲での『自動化』は実現しています。
運転の機能の自動化を取り入れた自動車をASVと呼んでいます。
日本でもASVの開発・普及に取り組む機関が作られています。

<ASVの開発・普及>

あ ASVとは

Advanced Safety Vehicle
先進安全自動車

い ASV開発・普及を目的とする日本の組織

先進安全自動車(ASV)推進検討会
座長=井口雅一 東京大学名誉教授
事務局=国土交通省
ASV開発・普及(ASV推進計画)を円滑に進めるために委員による検討・情報交換が行なわれている

う 委員

ア 学識経験者イ 自動車・二輪車メーカー;14社ウ 関係団体・関係省庁

実用化されているASVテクノロジーをまとめます。

<実用化されているASVテクノロジー>

テクノロジーの種類 機械が行う作業 機能
衝突被害軽減ブレーキ ブレーキ操作 前方の障害物との衝突を予測して警報する
レーンキープアシスト ハンドル操作 自動車の位置をレーン(車線)の中央に維持させる
ACC(Adaptive_Cruise_Control) アクセル・ハンドル操作 一定の速度で走行する機能・車間距離を維持する
ふらつき警報 警報を鳴らす ドライバーの睡眠(低覚醒)状態を警告する
ESC(Electronic_Stability_Control) 車輪ごとのブレーキ・駆動力のオン/オフ 車両の横滑りを防止・復元する
駐車支援システム ハンドル操作 後退して駐車する際,目的の位置への移動を補助する

3 自動運転テクノロジー×『法的規制』

(1)自動運転テクノロジーに抵触する現行法規類

一般的に,類型的に危険が行為は法的に『規制・禁止』されています。
『自動車の運転』についても,一般的なルールがいくつかあります。
当然,自動運転テクノロジーを想定せずに作られたレガシーなルールです。
想定外の抵触が生じます。

<自動運転テクノロジーと抵触する『法的規制』>

あ 条約や法律

ア ジュネーブ道路交通条約イ ウィーン道路交通条約 日米は加盟していない
ウ 道路交通法70条

い 規制の概要

以上の条約・法律は実質的に同じ内容である;具体的条文は後記
ア 運転者が自動車に乗っていることが必要イ 運転者が自動車を『操縦・操作・制御』することが必要

う 解釈論

統一的な解釈・見解はない(後述)

<法的規制の条文抜粋>

あ ジュネーブ道路交通条約

運行されている車両には運転者がいなければならない;8.1条
運転者は常に、車両を適性に操縦(できる);8.5条
車両の運転者は、常に車両の速度を制御していなければならない;10条

い ウィーン道路交通条約

走行中の車両又は連結車両には、運転者がいなければならない;8条1項
運転者は、いかなる時にも、車両を適正に操縦し、又は動物を誘導することができなければならない;8条5項
車両の運転者は、いかなる時でも、運転操作以外の動作を最小限に留めるようにしなければならない;8条6項

う 道路交通法70条

車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作(する義務)

(2)現行法規の解釈論は統一されていない

<ウィーン道路交通条約の解釈に関するSMART64による研究報告>

あ 研究機関

欧州SMART64プロジェクト
欧州委員会の資金による研究会

い 研究報告書(2011年)の概要

対象=ウィーン道路交通条約
ア 評価基準イ 『制御』の解釈

う 『評価基準』

自動運転が条約に抵触(違反)するかどうかの判断要素
・運転タスク(車両制御) における運転者の関与
・自動化と交通環境のモニターにおける運転者の関与
・制御の引継・オーバーライドする能力
機械の操縦を停止させ,人間が操縦を引き取る・取り上げること

え 『制御』の解釈

ア 厳格な解釈 運転者が影響を及ぼすことを制御とみなす解釈
さらに具体的に見解(説)が分かれる
a 運転者が車両運動を制御
b 運転者がオーバーライド制御
c 運転者が自動化をソフトウェアでオフにすることが可能
イ 緩和方向の解釈 運転者が自動化の動作を『モニターしていること』を制御とみなす解釈
→オーバーライド不可能な自動化の形態でも制御をしているとみなす

このように,解釈の幅が広く,『規範』としての機能が不十分です。
『解釈』よりも,最新のテクノロジーにマッチするようなルールへの『改正』(法整備)が望まれます。

<参考情報>

SMART 2010/0064, Study Report, Definition of necessary vehicle and infrastructure systems for Automated Driving,2011

4 自動運転テクノロジー・ドローンの事故×『民事責任』

(1)自動運転では事故を起こした時の『責任の所在』が問題となる

完全な『自動運転』を想定すると,交通事故が起きた場合の『責任』について既存の法律では対処が難しいことになります。
これは『自動運転車』だけではなく『ドローン』も含めた『機械による移動物体の操縦』一般に当てはまる問題です。
まずは民事責任について説明します。

(2)『誰が責任を負うか』が判断しにくい

現行の法律で責任判断の『枠組み』自体はできています。
しかし,『自動運転車の事故』をあてはめようとするとマッチしない部分が生じるのです。

<自動運転車が事故を起こした場合の責任についての問題点>

あ 『責任の所在』|選択肢(可能性)

ア 乗車していた者 オーバーライド可能だった者=現在の『運転者』に相当する
イ 自動車の所有者(運行供用者) 現行法の『運行供用者責任』に相当する
詳しくはこちら|運行供用者責任の基本(運行支配・運行利益・他の制度との関係)
ウ 自動車メーカー 現行法の『製造物責任』(PL法)が近い
エ 検査(車検)・整備業者 債務不履行責任や不法行為責任

い 現実的な責任判断のハードル

『過失』『瑕疵』の事実認定
=『予見可能性』や『性能不足』の判断
→『メカニズムの解明』+『非難可能性の評価』が前提となる

う 具体例

次のどれに当たるのかの判断が簡単にできない
ア 操縦方法のプログラム(設定)のミス(なのかどうか)イ 乗っていた人間が自動操縦から手動操縦に切り替えるべきだった(のかどうか)ウ 所有者が点検をすれば『プログラムのミス』に気付いた(のかどうか)エ 車検(検査)の業者によって『プログラムのミス』に気付いた(のかどうか)

(3)現行法だと『所有者(運行供用者)』の責任になりやすいが不合理

現行の通常の自動車を前提とする『責任』の判断についても問題点が指摘されています。
『自動車の所有者』の責任が重く,『メーカー』は軽め,という設定(解釈)なのです。
現行法のまま『自動運転車』の事故について判断すると,『不合理性』がより表面化します。

<『運行供用者責任』を重く設定した判例>

あ 解釈の対象となる条文

自賠法3条但書
『自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明』
→これにより『運行供用者』の責任が否定される
『運行供用者』とは,通常,自動車の『所有者』です(前述)。

い 責任が否定される場合

ア 不可抗力によって生じた事故イ 『その運行当時の自動車に関する機械工学上の知識と経験とによって,その発生の可能性が予め検知できないようなもの』

う 責任が肯定される場合(責任カバー範囲)

ア 『自動車自体に内在していたものを含む』イ 『自動車の保有者または運転者の何らかの過失・不注意に関係があるものに限らない』 →次のような『過失・不注意』がなくても責任は肯定される
・自動車の整備・点検上の誤った操作・見落し
・定期or適時の専門資格者による整備点検を怠った

え 責任の範囲を大きく設定したことのエクスキューズ(許容性)

その責任原因は自動車の保有者または運転者の過失自体には関わりがない
この解釈は自動車の運行供用者に酷に過ぎるようである(整備・点検ミスがない場合)
一方,自動車の製造者または専門整備業者等に本質的責任がある
運行供用者は,製造者・専門整備業者に求償できる
製造者・専門整備業者は比較的資金力があるから回収しやすい
製造者・専門整備業者への請求は『被害者から』よりも『運行供用者から』の方が容易である

お 判例の解釈の根本的スピリット

ア 『被害者の保護』イ 『自動車交通の健全な発達』→メーカー保護

か 責任分配のまとめ

ア 『被害者』『メーカー』→責任を軽く設定イ 『所有者(運行供用者)』→責任を重く設定 『メーカー保護』→産業発展を促進,という背景
※東京高裁昭和48年5月30日

この判例の解釈に対する批判的見解も紹介します。
対照することで,より背景が分かります。

<判例の解釈(責任分配設定)への批判的見解>

あ 不合理性が表面化する部分

『運行供用者』から『メーカー』への求償(回収)の実現可能性が低い
保険会社が填補した場合『保険会社』から『メーカー』への求償となるが同様
理由;立証や手続の困難性・コストの壁が高い

い 『所有者』視点での不合理性

判例の解釈は『所有者』が『メーカー』の責任を肩代わりしている
(運行供用者責任による製造物責任の肩代わり)

う 開発者・メーカー視点での不合理性

自動運転開発メーカーが事故のコストを内部化(負担)しない

開発・普及は促進される(ブレーキが排除される)
一方,『安全な製品を製造すること』が進まない

え 判例の見落とし;『必要は発明の母』

法的責任の重さアップ→安全性を高める開発のインセンティブとして機能する
開発にとっての『ブレーキ』『制約』は『課題克服』の『アクセル』になる
『責任軽減』→『開発促進』とストレートにつながらない

以上のように,『責任配分』の設定は,多分に『政策的』なのです。
設定は,法解釈(司法)よりも政治判断として立法(国会)が行うことが適しています。
より良い方向へのテクノロジー進化を促進する法整備が望まれます。

<参考情報>

山下友信 道路交通システム(ITS)と法 有斐閣p138

なお,瑕疵・欠陥に関して,自動車メーカーが『マスコミ等の批判にさらされること』については重い責任を認める判例もあります。
詳しくはこちら|権利行使と脅迫罪・恐喝罪との区別(ユーザーユニオン事件)

5 自動運転テクノロジー・ドローンの事故×『刑事責任』

次に自動運転車やドローンの事故による『刑事責任』について説明します。

(1)人の怪我・物の損壊に関する犯罪

危険性が高い,または怪我・物の損壊が生じた場合は別の罪も成り立ちます。
これは場所に関係なく成立するものです。

<危険性が高い・損害が生じた場合の犯罪>

状況 罪名
『人に向けた有形力行使』+怪我は生じなかった 暴行罪
人が怪我をする危険性の認識+怪我が生じた 傷害罪
人の怪我の危険性が高い行為+過失により怪我(死)が生じた 過失致死傷罪
物の損壊の危険性の認識+物の損害が生じた 器物損壊罪

基本的に『人の怪我』『物の損害』が生じた場合に成立するものです。
ただし,暴行罪だけは『人の怪我』が生じていない場合にも成立します。
『危険性が生じた』ことだけで成立するのです。

(2)過失致死傷の過重類型の該当性が不明確

『過失致死傷罪』については『発展型』(過重類型)もあります。
『業務上過失致死傷罪』『過失運転/危険運転過失致死傷罪』などです。
『自動運転』については,これらの『業務』『過失/危険運転』に該当するかどうかが不明確です。
詳しくはこちら|自動車運転→死傷事故における罪;平成26年自動車運転死傷行為処罰法施行

(3)『道路』への墜落などで『閉塞』されると往来妨害罪

道路での自動運転車の衝突・ドローンの墜落という事故に関する犯罪類型があります。

<往来妨害罪;刑法124条|抜粋>

あ 構成要件=刑事罰の対象

『閉塞して往来の妨害を生じさせた』
故意犯のみ

い 法定刑

懲役2年以下or罰金20万円以下

ここで『閉塞』の解釈が問題となります。

<『閉塞』の解釈>

あ 判例の基準

部分的な遮断でも,その通路の効用を阻害して往来の危険を生じさせるものであれば,これにあたる

い 判例の事案

幅員約5.9メートルの道路の側端から中央部にかけて,長さ約4.26メートルの自動車をやや斜め横向きに置き,ガソリンをまいて炎上させ,引火・爆発のおそれを生じさせた
→『閉塞』にあたる
※最高裁昭和59年4月12日
※名古屋高裁昭和35年4月25日(類似)

結局『自動車の通行が現実的にできなくなった』という場合に該当することになります。
自動車・ドローンのいずれでも,大きさやバッテリーの可燃性によっては『閉塞』に至るリスクがありましょう。
ところで往来妨害罪は『過失犯処罰規定』がありません。
『故意』の場合だけ成立します。
『故意』は『結果発生の認識・認容』まで拡げて解釈されています。
要するに『墜落可能性がまだまだ高い』という技術レベルの場合は『故意』が認められる可能性があるのです。

事故発生時の刑事責任についても,従来の法律の想定外となっています。
これも法整備が必要なものの1つです。

政府は『ロボット』の普及に向けた法整備その他の施策を進めています。
これは別記事でまとめて説明しています。
詳しくはこちら|今後の法整備|政府の『ロボット改革実現会議・ロボット新戦略』

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