【自動車運転→死傷事故における罪|自動車運転死傷行為処罰法】

1 自動車の事故→負傷や死亡,という罪名の種類は多い
2 旧危険運転致死傷罪(前記『※1』)
3 新危険運転致死傷罪(前記『※2』)
4 新危険運転致死傷罪;政令指定Ver(前記『※3』)
5 危険運転致死傷罪(前記『※4』)
6 業務上過失致死傷罪(前記『※5』)
7 厳罰化の傾向により罪名(条文)が増えた
8 罪名の判断要素
9 適正な審理を受けるために

1 自動車の事故→負傷や死亡,という罪名の種類は多い

自動車の運転ミスにより,他の方を負傷や死亡に至らせてしまうことがあります。
刑事的な罪は,法改正が重ねられています。
平成26年に自動車運転死傷行為処罰法が施行されました。
刑事罰をまとめます。

(1)自動車運転に関する刑事罰のまとめ

<自動車運転ミス→死傷に該当する罪名と法定刑>

罪名 正常な運転が 条文 対象行為 結果=負傷 結果=死亡
旧危険運転致死傷罪 困難 2条 ※1 懲役15年以下 懲役1年〜20年
新危険運転致死傷罪 支障が生じるおそれ 3条1項 ※2 懲役12年以下 懲役15年以下
(同上;政令指定) (同上) 3条2項 ※3 (同上) (同上)
過失運転致死傷罪(※4) (↑以外) 5条 懲役7年以下or罰金100万円以下 (同←)
業務上過失致死傷罪(※5) 刑法211条1項 懲役,禁錮5年以下or罰金100万円以下 (同←)

※条文は記載がないものは自動車運転死傷行為処罰法です。

2 旧危険運転致死傷罪(前記『※1』)

※自動車運転死傷行為処罰法2条
平成13年の刑法改正により『危険運転致死傷罪』として制定されました(刑法208条の2)
アルコールや薬物による影響がある+正常な運転が困難という状態が前提です。
これに死傷という結果が生じた場合に成立します。
対象行為は,条文上限定されています。

<『旧危険運転致死傷罪』の対象行為>

※自動車運転死傷行為処罰法2条各号

あ 酩酊運転致死傷罪;1号

 アルコールor薬物の影響+正常な運転が困難な状態

い 制御困難運転致死傷罪;2号

その進行を制御することが困難な『高速度』
目安=制限速度を50km/h超過した場合
具体的テクニック=ドリフト走行・スピンターンなど

う 未熟運転致死傷罪;3号

その進行を制御する技能を有しない

え 妨害運転致死傷罪;4号

割り込み過剰接近危険速度

お 信号無視致死傷罪;5号

信号無視

か 通行禁止無視致死傷罪

通行禁止道路の走行+危険速度

3 新危険運転致死傷罪(前記『※2』)

※自動車運転死傷行為処罰法3条1項
対象行為は,アルコールor薬物の影響→正常な運転に支障が生じるおそれということが前提です。
これに死傷結果が生じた場合に成立します。
平性26年の自動車運転死傷行為処罰法施行により,新たに規定された罪です。

4 新危険運転致死傷罪;政令指定Ver(前記『※3』)

※自動車運転死傷行為処罰法3条2項
前記『3』の派生的に規定されています。
対象行為を政令に委ねています。

政令(施行令)による指定>

ア 統合失調症イ てんかんウ 再発性の失神エ 低血糖症オ そううつ病カ 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害 ※運転に支障があるものに限定されている

5 危険運転致死傷罪(前記『※4』)

一般的に,自動車の運転ミスで人身事故を起こした場合が対象です。
以前は,平成19年の刑法改正により規定された『自動車運転過失致死傷罪』です(刑法211条2項)。
平成26年の自動車運転死傷行為処罰法施行により罪名が変更されたことになります。

6 業務上過失致死傷罪(前記『※5』)

一般的な,『業務上の過失』が該当します。
自動車の運転→事故,という場合でも,個別的事情によっては,他の罪名だと過剰という場合があります。
その場合に,起訴する際に検察官が敢えて小さめの罪名を選択することがあります。
『大きい罪名をのむ』という業界用語があります。
別項目;小さめの罪名を選択して起訴することもある;『のんで起訴』

7 厳罰化の傾向により罪名(条文)が増えた

(1)自動車運転に起因する事故が社会問題化→厳罰化

自動車事故は,当然ながら,ちょっとした不注意により,場合によっては多くの命が奪われます。
自動車自体が大きな危険性を秘めているのは当然です。
そこで,自動車を運転する以上,注意を高めるべきであるとして,事故・被害に対する責任を高める要請が高くなりました。

(2)平成13年,平成19年の刑法改正

平成13年に,危険運転過失致死罪が創設されました。
これは,飲酒運転など,悪質な場合に限定して,罪を大幅に重いものとした規定です。
この結果,想定できなかったことが生じました。
飲酒などの証拠をつかまれないように加害者(ドライバー)が,必死になります。
事故現場を逃走する加害者が続出しました。
時間が経って,飲酒が検知されなくなるまで潜んでいれば,その後は一気に罪が軽くなると思ったからです。
つまり,飲酒でなければ,通常の業務上過失致死傷罪として扱われるはずだからです。
そこで,重い罪・軽い罪の中間を設けるべきだという考えが生じました。
その中間の罪として平成19年に創設されたのが自動車運転過失致死傷罪なのです。

(3)平成26年の自動車運転死傷行為処罰法制定

その後,さらに危険運転致死傷罪(前記『※1』)と(旧)自動車運転過失致死傷罪(前記『※4』;現行過失運転致死傷罪)の中間として新危険運転致死傷罪が新設されました。
刑法の条文が枝番で膨らんできたので,正規化を図り,独立した法律として制定されました。
その新たな法律が自動車運転死傷行為処罰法です。
平性26年5月20日に施行されました。

8 罪名の判断要素

過失運転過失致死傷罪,危険運転過失致死傷罪は似ています。
判断に影響を与える典型的な要素をまとめます。

<過失運転運転/危険運転過失致死傷罪の判断要素>

・事故当時の運転状況(スピード・視界などの客観的状況)
・測定時の呼気アルコール濃度(検査のタイミング)
・目撃者の証言内容
・事故の初期捜査の迅速さ
・被疑者が自首したタイミング(即出頭しなかった場合)
・個々の証拠について,弁護人が適切な異議を述べているかどうか

9 適正な審理を受けるために

旧危険運転過失致死傷罪は他の罪名よりも大変重いものです。

適用されるかどうか曖昧な事例もあります。
このような場合は,事故当時,正常な運転が困難な状態であった,という検察官の証明を厳しくチェックすることが重要です。
もちろん,明らかに酩酊状態であったような場合は,危険運転過失致死傷を否定できないでしょう。

しかし,中には,該当するかどうか微妙な例も多くあります。
検察官の立証の材料について,きちんと精査して適切に異議を述べることにより,不当に大きい罪と認定されることを防戦するべきです。
実際に,類似するケースについて,捜査の経緯・状況によって新/旧危険運転過失致傷罪,過失運転過失致傷罪のいずれが適用されるか,ばらつきが結構あるように思います。

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