1 『所有者が不存在』の不動産は国庫帰属となる
2 土地公有制→私有制の歴史|開墾奨励キャンペーン=三世一身の法・墾田永年私財法
3 開墾奨励よりも紛争多発防止=現行民法では『不動産の先占ルール』不採用
4 無主の不動産→国庫帰属の具体例|『相続人不存在』が典型
5 所有権放棄による不動産所有からの解放というアイデア
6 不動産の『所有権放棄』の法的性質論|判例
7 不動産の『所有権放棄』に関する判例|個別事情判断→参考にならない
8 法務省見解|民事局長回答
9 不動産の『所有権放棄』の見解|まとめ

1 『所有者が不存在』の不動産は国庫帰属となる

(1)所有者が存在しない不動産→国庫帰属となる

不動産の『所有者が存在しない』というレアケースがあります。
このような場合のシンプルなルールがあります。

<無主の不動産|国庫帰属|条文>

所有者のない不動産は国庫に帰属する
=『国(政府)の所有となる』という意味
※民法239条2項

『所有者が存在しない』ということは『誰も管理しないで放置している』ということとは違います。
相続人が一切いないために,法的・理論的に『所有者不在になった』などの場合です。
『所有者が存在しない』ということを『無主』と言います。
具体的な『無主の不動産』のケースは後述します。

(2)『動産』は『先占ルール』

一方,無主の『動産』については,最初に占有した人が所有権を取得できます。
※民法239条1項
これを『無主物先占』と呼んでいます。
ところで昔は『不動産』も,無主物先占ルールがあった時代もあります。

2 土地公有制→私有制の歴史|開墾奨励キャンペーン=三世一身の法・墾田永年私財法

土地についての公有/私有制の歴史について説明します。

<昔の『不動産→無主物先占』制度>

大昔は土地は公有制であった;班田収授法
『開墾奨励』を目的として『土地の私有制』を2段階で発足した

法律名 所有権存続期間 公布時期 西暦 政権
三世一身の法 3世代 養老7年 723年 元生天皇
墾田永年私財法 永久 天平15年 743年 聖武天皇

もともとは『公有』制度でした。
その後,開墾促進のために『私有制』が導入されたのです。
つまり『所有者がいない土地』については,最初に占有=開墾した者の所有になる,というものです。

3 開墾奨励よりも紛争多発防止=現行民法では『不動産の先占ルール』不採用

現在の民法では土地(不動産)について『最初に占有・開墾した者の所有となる』制度は採用されていません。

<不動産の『無主物先占』キャンペーンの終わり>

あ 社会的状況の変化

開墾対象地はほとんどなくなった
むしろ『占有の証明・判定』は不確定要素が多い
→占有をめぐる争いの多発が想定される
メリットよりもデメリットが大きい

い 現行民法での制度設計

現行民法では『不動産の無主物先占』は採用されなかった
代わりに『国庫帰属』とした
※民法239条2項
※『新版注釈民法(7)』有斐閣p379

『墾田永年私財法』のキャンペーンは終了した,というような状態なのです。

4 無主の不動産→国庫帰属の具体例|『相続人不存在』が典型

現行制度で『無主の不動産』というのはレアケースです。
実際に『無主の不動産→国庫に帰属した』というケースをまとめます。

<無主不動産の国庫帰属の例>

あ 相続人不存在となった土地

※民法959条
※大判大正10年3月8日

い 所有者不明の山林

※和歌山地裁大正6年10月26日

う 真の権利者を明らかにできない登記漏れの土地

※東京高裁昭和52年5月31日

え 『絶家財産』となった土地

民法施行前の制度である
現在はこの制度はない
※仙台高裁昭和32年3月15日

『相続人不存在』だけは,現在でもそれなりに生じています。
詳しくはこちら|相続人が存在しない場合,国庫帰属,共有者,特別縁故者に財産が承継される
それ以外は,特殊な事情によって生じるレアケースです。

5 所有権放棄による不動産所有からの解放というアイデア

『無主の不動産』の1つのパターンとして『所有権放棄』が考えられます。
『相続放棄』ではなく『所有権の放棄』です。
空き家など,コスト・リスクがかかる不動産は『所有者から脱する』ことが望まれます。
ここで『所有権放棄→国庫帰属』となれば『強制的な国への譲渡=所有からの解放』が実現します。
関連コンテンツ|空き家放置問題|法的責任・空家対策特別措置法

6 不動産の『所有権放棄』の法的性質論|判例

『物権の性質』という民法の一般的な理論としては『所有権の放棄』は認められています。

<『不動産の所有権放棄』の法的性質論|判例>

あ 『所有権放棄』の法的性質論

相手方のない単独行為である

い 『所有権放棄』の具体的方法

少なくともその意思が一般に外部から認識できる程度になされることが必要である
放棄者の積極的意思に基づくことが必要である

う 『所有権放棄』の意思として不十分の実例

所有者が『所有権を喪失した』と誤信した
その後土地に対する所有権の主張をしなくなり,そのまま放置している(に過ぎない)
→『所有権放棄』とは認めない
※大阪高裁昭和58年1月28日

この判例では『不動産の所有権放棄』の一般論についてハッキリとしてコメントがなされています。
ただ,個別的事情の評価として『所有権放棄』を否定しました。
この判決の原審では『所有権放棄』が認められていました。
次に説明します。

7 不動産の『所有権放棄』に関する判例|個別事情判断→参考にならない

前述の判決とその原審で『不動産の所有権放棄』について判断がなされています。

<不動産の所有権放棄に関する判例>

あ 大津地裁昭和53年1月23日;未確定

対象地=河川区域内の土地
『不動産の所有権放棄を認定した』
ただし『国庫帰属』は関係していない

い 大阪高裁昭和58年1月28日(『あ』の控訴審)

当事者の行為から『所有権放棄』を認めなかった(事実認定;後述)
一般論としての『所有権放棄』の可否は論じていない
→『所有権放棄』という一般的方法は認めたようにも読める

この判例だけを見ると,一般論として『不動産の所有権放棄』が認められたようにも思えます。
しかし,これは最高裁判例ではありません。
またこれらの判例は『国庫帰属』には関係していません。
ということで,実際に,『不動産の所有権放棄→国庫帰属』を正面から認める判例は見当たりません。

8 法務省見解|民事局長回答

不動産の所有権放棄について法務省の見解があります。

<法務省見解|民事局長回答>

不動産の所有権は放棄できない
これを原因とする登記もできない
※昭和41年8月27日民事甲1953号民事局長回答

特に理由の指摘がなく,結論だけ示すものです。
登記上,予定されていない,という趣旨に読めます。
これが解釈の決定打とは思えません。

9 不動産の『所有権放棄』の見解|まとめ

不動産の『所有権放棄』については細かい見解があります(前述)。
ここで,実務の扱いや公的見解などを整理します。

<不動産の『所有権放棄』の見解|まとめ>

あ 概要

公的判断・見解として明確なものはない
※ジュリスト5号(昭和27年)p27
※鈴木禄弥『フランス法における不動産委棄の制度』民商27巻6号p1〜
※『新版注釈民法(7)』有斐閣p379

い 関連する判例

『国庫帰属』に関わらない『所有権放棄』を認めた判例はある(前述)

う 注意点

上記『い』は統一的見解ではない
結論として『国庫帰属』を認めたわけではない

結局,現実的に『不動産の所有権放棄により国に譲渡する』という作戦は取れないと言えます。
もちろん,この理論に決着を付けるために最高裁まで争えば,統一的見解が誕生します。
最高裁が現在の流れを逆転させ,肯定する可能性もあるでしょう。