【相続財産を譲渡した場合の取得費の承継と特例】

1 相続財産を譲渡した場合の取得費
2 一般的な譲渡所得の算定(前提)
3 相続・贈与における取得費の承継
4 資料がない場合は取得費は売却代金の5%とする
5 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
6 遺産分割の代償金は取得費に該当しない(概要)

1 相続財産を譲渡した場合の取得費

不動産を譲渡(売却)した時に利益(譲渡所得)が生じると譲渡所得税の対象となります。
相続で承継した財産の譲渡所得の算定では取得費について特殊な扱いがあります。
本記事では,相続財産の譲渡における譲渡所得の算定について説明します。

2 一般的な譲渡所得の算定(前提)

まず,前提となる一般的な譲渡所得の算定方法をまとめます。
要するに譲渡による利益のことであり,簡単にいえば値上がりの金額といえます。

<一般的な譲渡所得の算定(前提)>

譲渡所得の金額
=譲渡収入金額 − (取得費+譲渡費用) − (特別控除)
※所得税法33条3項,38条

3 相続・贈与における取得費の承継

相続や贈与で得た人は,入手のために対価(代金)を支払っていません。
しかし売却(譲渡)した場合の譲渡所得の算定では,取得費をゼロとするわけではありません。
前の所有者の取得費と譲渡費用を承継するのです。

<相続・贈与における取得費の承継>

相続や贈与がなされた財産の『取得費』について
→元の所有者の被相続人の取得価額と取得時期を引き継ぐ
※所得税法60条1項
※租税特別措置法39条
※租税特別措置法施行令25条の16
※租税特別措置法施行規則18条の18

先代が非常に古い時期に入手した土地については,購入時の金額は(現在の価値だと)非常に低いことが多いです。
そこで,承継した時点で低い取得費を引き継ぎます。
要するに多額の含み益の状態のまま引き継いだことになるのです。

4 資料がない場合は取得費は売却代金の5%とする

先代が不動産を購入した時期から既に50年以上も経過しているということも多いです。
そうすると,売買契約書などの資料が残っていないこともよくあります。
中には2代・3代前に購入した,というケースもあります。
譲渡所得を算定する際の取得費が分からない,という状態になります。
このような場合に備えて,法律上,救済的なルールが作られています。

<取得費の概算の算定式>

取得費 = 収入金額 × 5%
※租税特別措置法31条の4
※租税特別措置法通達31の4−1

大雑把に言えば95%の値上がり(譲渡所得)として扱うということです。
当然,譲渡所得税も高額になりがちです。
救済措置の割には救済というニュアンスではないのです。

5 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

常識的な感覚として,相続による承継(入手)にかかったコストはゼロに近いです。
一方,相続で財産を承継する時に,相続税を納税しています。
感覚としては,財産を入手するための負担とも思えます。
そこで,税務上も,相続税額のうち一定の範囲を取得費としてカウントする扱いが認められています。

<相続財産を譲渡した場合の取得費の特例>

あ 前提事情(要件)

Aが相続や遺贈によって財産甲を取得した
Aに相続税が課税されている
Aが次の期間内に財産甲を譲渡した
期間=相続開始の日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内

い 取得費の特例

取得費の額に,相続税額のうち一定の金額(う)を加算できる

う 取得費加算額

取得費加算額
=譲渡者の確定相続税額 × 譲渡資産の相続税評価額/譲渡者の相続税の課税価格
※所得税法33条,38条
※租税特別措置法39条
※租税特別措置法施行令25条の16
※租税特別措置法施行規則18条の18

6 遺産分割の代償金は取得費に該当しない(概要)

遺産分割において,承継する財産にアンバランスがある場合,代償金を支払うのが通常です。
代償金は,財産を入手するための負担という感覚もあります。
しかし,代償金は,譲渡所得の算定における取得費としては認められていません。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物分割と遺産分割の賠償金・代償金は譲渡所得の取得費としての扱いが異なる

本記事では,相続財産を譲渡した場合の譲渡所得税の計算上の取得費の承継と特例を説明しました。
実際には,個別的な事情によって,税務上の扱いや最適な対応方法が違ってきます。
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