【過去の不動産売買代金額を不動産登記から取得する方法】

1 『売買代金』は登記事項とされていない
2 不動産登記申請における課税標準は固定資産税評価であり,『売買代金額』ではない
3 登記済権利証に『売買代金』が記載されていることはあまりない
4 登記の附属書類の1つ,登記原因証明情報に『売買代金』が記載されている可能性がある

1 『売買代金』は登記事項とされていない

<発想>

不動産の譲渡所得税の算定のため,過去の不動産売買について,その代金の金額を知りたい
法務局の登記を見れば分かるのか

不動産の登記に記録される(登記される)事項は,明確に規定されています(不動産登記法59条)。
登記事項と言います。
不動産売買についての登記の場合,売買契約の詳細が登記(記録)されるように誤解される方も多いです。
しかし,不動産登記の登記事項は,『登記原因』と,その『日付』だけです(不動産登記法59条3号)。
具体例としては『平成○年○月○日 売買』というシンプルな表記です。
代金額,は登記(記録)されないのです。

2 不動産登記申請における課税標準は固定資産税評価であり,『売買代金額』ではない

<発想>

不動産登記の際に納める登録免許税の算定で売買代金を使うはず
登記の記録として『売買代金額』が残るのではないか

不動産登記において,税率をかける元になる課税標準額は,登記の時の価額となります(登録免許税法10条1項)。
この価額ですが,売買代金ではなく固定資産税評価額を用いることになっています(附則7条)。
結局,売買代金は登場しないのです。

3 登記済権利証に『売買代金』が記載されていることはあまりない

<発想>

過去の不動産売買の代金額を知りたい
権利証を探し出せば,そこに書いてあるのか

仮に,登記済権利証の発行(=登記された日)が平成17年3月7日以前であれば,登記された際に登記済証が発行されました。
一般的には権利証とか登記済権利証と言われていますが,この正体は,登記済の押印がされた書類なのです。
登記申請の際,登記申請書の副本(コピー)または原因証書のどちらかに登記所の印鑑が押捺されて,申請人に返還される,という方式だったのです(旧不動産登記法35条1項,60条1項)。
つまり,登記済権利証,には次の2種類があるのです。

登記済権利証の種類>

・元々申請書副本だった書類に登記済の押印がされたもの
・元々原因証書(売買契約書など)だった書類に登記済の押印がされたもの

なお,実際には,申請書副本が用いられることが多かったです。
申請書には,売買代金は記載されません。登記事項ではないからです。
そうすると,元申請書副本の登記済証には売買代金が記載されていません。
逆に,元原因証書(売買契約書)の登記済証には,当然,売買代金が記載されています。
登記の実務上,申請書副本が用いられることの方が非常に多かったです。
つまり,権利証に売買代金額が載っていないということが多いのです。

4 登記の附属書類の1つ,登記原因証明情報に『売買代金』が記載されている可能性がある

<発想>

過去の不動産売買の代金額を知りたい
法務局に保管されている登記申請に関する資料を開示してもらえば分かるのではないか

(1)登記の附属書類の閲覧

登記された事項だけではなく,登記申請の際に使われた書類についても,閲覧する方法があります(不動産登記法121条2項)。
不動産登記法上,登記簿の附属書類と呼んでいます。
例えば,登記申請書に添付された委任状の偽造が疑われるケースで委任状の閲覧をする,ということがあります。

(2)申請書や委任状には『売買代金』は記載されていない

不動産売買の登記について考えると,申請書や委任状には代金額の記載が必要とされていません。
一般的には記載されません。

(3)原因証書には『売買代金』が記載されるが法務局で保管されるものではない

添付書類の1つとして,売買契約書が原因証書として提出されていることもあります。
しかし,この契約書は登記済の押印がなされて,申請人に返還されることになっています。
法務局に保存されていないはずなのです。

(4)登記原因証明情報として稀に『売買代金』が掲載されて保管されていることがある

平成17年3月7日以降は,改正後の不動産登記法が施行されています。
登記原因証明情報として,売買契約の内容が記載された資料が法務局に提出されているはずです。
この場合でも,代金額は必要とされてはいません。
しかし逆に,代金額が記載されることも多少はあります。
例えば,登記申請に慣れていない方が網羅的に情報を記載したケースや,敢えて意図的に情報を記録する意味で記載するようなケースがあり得ます。

なお,附属書類を法務局で閲覧する場合,保管期間に注意すると良いです。
別項目;不動産登記は土地50年,建物30年の保管期間内であれば閲覧できる

条文

[不動産登記法]
(権利に関する登記の登記事項)
第五十九条  権利に関する登記の登記事項は、次のとおりとする。
一  登記の目的
二  申請の受付の年月日及び受付番号
三  登記原因及びその日付
四~八(略)

(登記簿の附属書類の写しの交付等)
第百二十一条  何人も、登記官に対し、手数料を納付して、登記簿の附属書類(電磁的記録を含む。以下同じ。)のうち政令で定める図面の全部又は一部の写し(これらの図面が電磁的記録に記録されているときは、当該記録された情報の内容を証明した書面)の交付を請求することができる。
2  何人も、登記官に対し、手数料を納付して、登記簿の附属書類(電磁的記録にあっては、記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの)の閲覧を請求することができる。ただし、前項の図面以外のものについては、請求人が利害関係を有する部分に限る。
3(略)

[旧不動産登記法]
第三十五条
登記ヲ申請スルニハ左ノ書面ヲ提出スルコトヲ要ス
一 申請書
二 登記原因ヲ証スル書面
三 登記義務者ノ権利ニ関スル登記済証
四 登記原因ニ付キ第三者ノ許可、同意又ハ承諾ヲ要スルトキハ之ヲ証スル書面
五 代理人ニ依リテ登記ヲ申請スルトキハ其権限ヲ証スル書面
2 登記原因ヲ証スル書面カ執行力アル判決ナルトキハ前項第三号及ヒ第四号ニ掲ケタル書面ヲ提出スルコトヲ要セス
3 官庁ノ所管ニ属スル不動産ニ関スル権利ニ付キ登記ヲ嘱託スル場合ニ於テ命令又ハ規則ヲ以テ指定セラレタル官庁又ハ公署ノ職員ハ第一項第五号ニ掲ケタル書面ヲ提出スルコトヲ要セス

第六十条
登記官カ登記ヲ完了シタルトキハ登記原因ヲ証スル書面又ハ申請書ノ副本ニ申請書受附ノ年月日、受附番号、順位番号及ヒ登記済ノ旨ヲ記載シ登記所ノ印ヲ押捺シテ之ヲ登記権利者ニ還付スルコトヲ要ス但其登記ガ所有権ノ登記アル不動産ノ合筆若クハ合併ノ登記及ビ合体ニ因ル建物ノ表示ノ登記以外ノ不動産ノ表示ニ関スル登記、登記名義人ノ表示ノ変更若クハ更正ノ登記又ハ抹消ノ登記ナルトキハ申請書受附ノ年月日、受附番号及ビ順位番号ヲ記載スルコトヲ要セズ其登記ガ所有権ノ登記アル不動産ノ合筆又ハ合併ノ登記ナルトキハ合併ニ因リテ所有権ノ登記ヲ為シタル旨ヲモ、其登記ガ所有権ノ登記アル建物ノ合体ニ因ル建物ノ表示ノ登記ナルトキハ合体ニ因リテ所有権ノ登記ヲ為シタル旨ヲモ記載スルコトヲ要ス
2(略)

[登録免許税法]
(不動産等の価額)
第十条  別表第一第一号、第二号、第四号又は第四号の二に掲げる不動産、船舶、ダム使用権又は公共施設等運営権の登記又は登録の場合における課税標準たる不動産、船舶、ダム使用権又は公共施設等運営権(以下この項において「不動産等」という。)の価額は、当該登記又は登録の時における不動産等の価額による。この場合において、当該不動産等の上に所有権以外の権利その他処分の制限が存するときは、当該権利その他処分の制限がないものとした場合の価額による。
2~3(略)

[登録免許税法附則]
(不動産登記に係る不動産価額の特例)
第七条  新法別表第一の第一号に掲げる不動産の登記の場合における新法第十条第一項の課税標準たる不動産の価額は、当分の間、当該登記の申請の日の属する年の前年十二月三十一日現在又は当該申請の日の属する年の一月一日現在において地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第三百四十一条第九号(固定資産税に関する用語の意義)に掲げる固定資産課税台帳に登録された当該不動産の価格を基礎として政令で定める価額によることができる。

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