1 みなし贈与への親族関係・贈与意思・租税回避目的の影響
2 親族関係・贈与意思・租税回避目的の要否(裁判例)
3 贈与税の本質(補完税)と相続税法7条の趣旨
4 相続税基本通達7−2の規定
5 相続税基本通達7−2における親族間取引の想定
6 相続税法基本通達7−2の反対解釈の不合理性
7 相続税法7条の趣旨から親族間取引に限定する見解
8 第三者間取引へのみなし贈与課税の不合理性
9 第三者間取引の価額に関する租税回避目的の有無
10 所得税と相続税の分類としての不合理性

1 みなし贈与への親族関係・贈与意思・租税回避目的の影響

時価より著しく低い価額で財産を売却すると低額譲渡によるみなし贈与として課税されることがあります。
詳しくはこちら|低額譲渡(低廉売買)によるみなし贈与課税の基本(規定と実務的判断)
これに関して,取引の当事者間に親族関係がないケースや,当事者に贈与意思や租税回避目的がないケースでもみなし贈与として扱うべきかどうかという問題があります。
本記事では,これらの解釈論を説明します。

2 親族関係・贈与意思・租税回避目的の要否(裁判例)

まず,裁判例としては,親族関係にない第三者間の取引であり,贈与意思・租税回避目的がない場合であってもみなし贈与は適用されると判断されています。

<親族関係・贈与意思・租税回避目的の要否(裁判例)>

あ 裁判例による解釈(概要)

相続税法7条の適用について
『ア〜ウ』のいずれも不要である
ア 親族関係
取引当事者が親族関係にあること
イ 贈与意思
差額分を無償で譲り受ける意思(利益の授受の認識)
※さいたま地裁平成17年1月12日
詳しくはこちら|低額譲渡(低廉売買)によるみなし贈与課税の基本(規定と実務的判断)
ウ 租税回避目的

い 主な理由

相続税法7条の規定は相続税を補完する趣旨(後記※1)が該当する場合に限定していない
=『あ』の事項を要件として規定していない
→一般的な文理解釈では『あ』の事項は課税要件ではない
※小池正明稿『第三者間取引に対する低額譲渡課税の問題点』/『税理48巻』2005年7月p11
※平成12年6月12日裁決
※昭和58年9月29日裁決;同趣旨

確かに,条文の文言としては,第三者間の取引贈与意思・租税回避目的がないケースを除外していません。
しかし,この裁判例の判断は実質的に不合理であるところが多いです。
主に,この裁判例とは異なる見解について,以下説明します。

3 贈与税の本質(補完税)と相続税法7条の趣旨

まず,贈与税全体が,本質的に相続税の補完という位置づけです。
そうすると,みなし贈与の規定の趣旨は,相続税の回避を防ぐということになります。
結局,元から相続税がかかるわけではない関係についてみなし贈与課税をすること自体が本質に整合しないのです。

<贈与税の本質(補完税)と相続税法7条の趣旨(※1)>

あ 贈与税の本質(前提)

贈与税の本質は相続税の補完税である

い みなし贈与の趣旨

低額譲渡によるみなし贈与課税(相続税法7条)の趣旨は
贈与税回避の防止である
相続税の負担軽減に対する措置である
※林仲宣稿『低額譲渡とみなし贈与』/『法律のひろば60巻6号』ぎょうせい2007年p78,79

う みなし贈与が想定する課税対象行為

相続税法7条の対象は
相続財産の移転に伴い利益を受ける取引を前提にしている
具体的には親族間取引である
※林仲宣稿『低額譲渡とみなし贈与』/『法律のひろば60巻6号』ぎょうせい2007年p79

4 相続税基本通達7−2の規定

相続税法7条(みなし贈与の規定)の解釈(見解)を国税庁が通達として公表しています。
裁判所の判断とは違いますが,解釈の参考になるのでこれも検討します。
最初に規定の内容を押さえておきます。

<相続税基本通達7−2の規定>

あ 規定の引用

(公開の市場等で著しく低い価額で財産を取得した場合)
7-2 不特定多数の者の競争により財産を取得する等公開された市場において財産を取得したような場合においては、たとえ、当該取得価額が当該財産と同種の財産に通常付けられるべき価額に比べて著しく低いと認められる価額であっても、課税上弊害があると認められる場合を除き、法第7条の規定を適用しないことに取り扱うものとする。
※相続税基本通達7−2

い 規定内容の整理

公開された市場において財産を取得した場合
著しく低額であっても,相続税法7条は適用しない
ただし,課税上弊害がある(後記※2)と認められる場合は相続税法7条を適用する

5 相続税基本通達7−2における親族間取引の想定

相続税基本通達7−2の中で,実質・実態としてみなし贈与を課税すべきケースとして課税上弊害がある取引が指摘されています(前記)。
この,課税上弊害がある取引の内容について,文献における解説を紹介します。
具体例として親から子への不当な財産の移転が示されています。
贈与税の本質である相続税の補完という趣旨,つまり親族間取引が想定されていることが読み取れます。

<相続税基本通達7−2における親族間取引の想定>

あ 『課税上弊害がある』取引に関する解釈(※2)

相続税法基本通達7−2の『課税上弊害がある』について
不特定多数の者の間における競売という形式を借りて親が子に財産を著しく低額で取得させることなどこの取扱いを適用することが課税の公平を著しく損なうような場合においては,この取扱いは適用しないこととしている
※野原誠編『平成27年版 相続税法基本通達逐条解説』大蔵財務協会2015年p132

い 親族間取引の想定

相続税基本通達7−2は,相続税法7条の適用対象を親族間取引として想定している
第三者間取引は想定していない
※小池正明稿『第三者間取引に対する低額譲渡課税の問題点』/『税理48巻』2005年7月p12

6 相続税法基本通達7−2の反対解釈の不合理性

ところで,相続税法基本通達7−2を使って反対解釈をするということも考えられます。
しかし,この解釈には大きな欠陥があるといえます。

<相続税法基本通達7−2の反対解釈の不合理性>

あ 相続税法基本通達7−2の趣旨

当事者の恣意性が排除された価額での財産の取得をした場合には,みなし贈与課税を適用しないことの例示である

い 反対解釈の不合理性

『あ』に該当しない(公開された市場での財産の取得ではない)場合にはみなし贈与課税が適用される
というわけではない
※田代行孝稿『第三者間取引における低額譲渡』/『税理48巻』2005年11月p110
小池正明稿『第三者間取引に対する低額譲渡課税の問題点』/『税理48巻』2005年7月p12

7 相続税法7条の趣旨から親族間取引に限定する見解

以上のように,贈与税の本質や相続税法7条の趣旨から考えると,みなし贈与の適用は(基本的に)親族間取引に限定される解釈につながります。
前記の裁判例の見解に反対(批判)する見解を紹介します。

<相続税法7条の趣旨から親族間取引に限定する見解>

あ 贈与税の回避の目的

贈与意思により贈与税の回避を目論むのは
いわば利益を共有する者同士の場合である
その効果を享受するのは,最終的に相続税の負担減少をもたらす親族間の取引に他ならない
少なくとも当事者の利害が相反する第三者間取引には享受すべき贈与税の回避は念頭にはない
※林仲宣稿『低額譲渡とみなし贈与』/『法律のひろば60巻6号』ぎょうせい2007年p79

い 本判決の批判

本事案(さいたま地裁平成17年1月12日)の売買価格が,余りに低廉であることについて
売り急ぐ売主の足物をみた買主の思惑が根底にある
まさしく利害の絡む駆け引きの結果といえる
実際に,本事案の当事者はアカの他人であり,親族間と異なり共有すべき利益はない
当事者は,回避すべき贈与税を意識していない
→本判決(さいたま地裁平成17年1月12日)は不合理である
※林仲宣稿『低額譲渡とみなし贈与』/『法律のひろば60巻6号』ぎょうせい2007年p79

8 第三者間取引へのみなし贈与課税の不合理性

第三者間取引の現実的な実情から考えると,みなし贈与を適用するのは不合理であると思われます。
条文の解釈としては,特殊関係者間(親族間)取引では贈与意思は不要であるが第三者間取引では贈与意思が必要であると解釈をする見解です。

<第三者間取引へのみなし贈与課税の不合理性>

あ 一般的な取引の価格決定の経緯の実情

一般的に第三者間における取引では当事者の利害が対立している
第三者間における資産の売買価格は,相互の需給関係によって決定される
資産の売却に際しての動機はさまざまである
譲渡者において,その資産の『時価』を認識していても,種々の事情により,それを下回る価額で売却せざるを得ないという事例は,日常的に生じている
一般の商取引における値引き販売(交渉)を見れば明らかである
※小池正明稿『第三者間取引に対する低額譲渡課税の問題点』/『税理48巻』2005年7月p11

い 一般的な取引における『贈与意思』の実情

当事者が認識した『時価』を下回る価額での売買(あ)において
当事者間では損失・利益の発生(移転)についての認識を得るのが通常である
『贈与意思ある取引』といえる

う 実質的な課税の妥当性

時価との差額取引交渉の成果による達成利益であると考えるのが通常である
贈与意思があるけれど経済的合理性があるケースも含めて課税問題を生じさせることは適当ではない
ましてや贈与意思が皆無の場合に,相続税法7条が適用されるとすれば
市場経済の混乱を生じる
有償での第三者間取引の価額が時価を下回るとしても,そこに贈与税課税が生じるということには違和感がある

え 解釈としての妥当性(裁判例の批判)

相続税法7条の適用上,『贈与意思の有無は課税要件ではない』というのは
利害の一致する特殊関係者間の取引においていえることである
第三者間取引にはなじまない考え方である
※小池正明稿『第三者間取引に対する低額譲渡課税の問題点』/『税理48巻』2005年7月p11
※田代行孝稿『第三者間取引における低額譲渡』/『税理48巻』2005年11月p110

9 第三者間取引の価額に関する租税回避目的の有無

次に租税回避目的に着目して,みなし贈与の適用について考えてみます。
構造的・類型的に,また,常識的に,第三者間取引では通常,租税回避目的は生じません。
それにも関わらず,(本来親族間取引をターゲットとした)みなし贈与を適用することは不合理であるといえます。

<第三者間取引の価額に関する租税回避目的の有無>

あ 課税と譲渡価額の利害に与える影響

納税額が増加しても,譲渡価額が高額な方が譲渡者は利益を得る

い 租税回避目的が生じる可能性

利害の対立する第三者間の取引において
租税回避を目的として価額決定が行われることは通常はない

う 判決の批判

本判決(さいたま地裁平成17年1月12日)は,取引の実情に無理解である
※小池正明稿『第三者間取引に対する低額譲渡課税の問題点』/『税理48巻』2005年7月p11,12
※田代行孝稿『第三者間取引における低額譲渡』/『税理48巻』2005年11月p110

10 所得税と相続税の分類としての不合理性

検討する視点をちょっと変えてみます。
相続税(贈与税)だけではなく,所得税についても考えてみます。
所得税についても,低額譲渡によってみなし譲渡所得を課税する規定があります。
この規定は非常に特殊な例外です。では原則論とは何でしょう。譲渡の対価の金額(高低)はキャピタルゲイン課税の中で処理されるという基本構造です。
ここを押さえてから,相続税(これを補完する贈与税)に戻ってみましょう。対価の高低とは関係なく,単純に世代交代に対する課税という性格がはっきりします。相続税の補完である贈与税も同じ性格です。
ここまでが理解できると,低額譲渡による課税所得税として処理すべきものであって,相続税・贈与税として処理するということ自体が間違っているといえるでしょう。

<所得税と相続税の分類としての不合理性>

あ 所得税における低額譲渡の規定

個人に対する譲渡では
たとえ対価の額が低額であってもみなし譲渡課税はない
※所得税法59条1項

い 所得税における低額譲渡の規定の趣旨

低額譲渡の段階では,課税を繰り延べるにとどまる
=低額譲渡による影響(利害)は将来の所得税課税の中で解消される
詳しくはこちら|所得税におけるみなし譲渡所得課税(低額譲渡・所得税法59条)

う 贈与税における低額譲渡課税の不合理性

法の趣旨としては,低額譲渡は本来,贈与税の問題ではない
所得課税の問題として処理することが納税者の感覚・法の趣旨に整合する
※小池正明稿『第三者間取引に対する低額譲渡課税の問題点』/『税理48巻』2005年7月p12

本記事では,みなし贈与課税の要件関する解釈について,いろいろな見解を説明・紹介しました。
このように見解が分かれているために,実際には税務署の認定が確実に読めないというリスクが生じます。
取引をする前の段階でも,その後であっても,実際にみなし贈与課税に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。