1 低額譲渡によるみなし贈与課税の基本的解釈
2 相続税法の評価の原則の規定(前提)
3 相続税法7条の『時価』の意味
4 『著しく低い価額』の判断基準
5 所得税法と相続税法の『著しく低い価額』の違い
6 相続税評価額による土地売買と低額譲渡該当性
7 親族関係の有無・贈与意思・租税回避目的の要否(概要)

1 低額譲渡によるみなし贈与課税の基本的解釈

資産の売買であれば,贈与ではないので原則として贈与税は課税されません。
しかし代金額が低い場合(低額譲渡)にはみなし贈与として贈与税が課税されます。
詳しくはこちら|低額譲渡(低廉売買)によるみなし贈与課税の基本(規定と実務的判断)
このみなし贈与課税に関しては,時価著しく低い価額に関するいろいろな解釈があります。
本記事では,低額譲渡によるみなし贈与課税に関する基本的な解釈を説明します。

2 相続税法の評価の原則の規定(前提)

みなし贈与の規定(相続税法7条)では,『時価』を元にして『著しく低い価額』かどうかを判断することになっています。
この点,相続税・贈与税全体に関する一般論として,時価はマーケットにおける評価額であると解釈されています。

<相続税法の評価の原則の規定(前提・※1)>

あ 規定の内容

相続・遺贈・贈与により取得した財産の価額は
当該財産の取得の時における時価による
※相続税法22条

い 『時価』の意味

相続税法22条の『時価』(あ)とは
客観的な交換価値のことである
※東京高裁平成7年12月13日

3 相続税法7条の『時価』の意味

次に,みなし贈与の規定(相続税法7条)の『時価』についても,一般的な『時価』(前記)と同じであるという見解が一般的です。
つまり,税務上の評価ではなく,実際のマーケットでの評価を『時価』として捉えるのです。

<相続税法7条の『時価』の意味>

あ 相続税法7条と22条の『時価』の関係

相続税法7条の『時価』について
財産の価値の評価の原則(相続税法22条)における『時価』(前記※1)と同じである

い 『時価』の意味

客観的交換価値のことである

う 客観的交換価値の内容

それぞれの財産の現況に応じ,不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額である
通常の取引価額とも呼ばれる

え 『時価』の評価の具体例

公示価格をもとにして土地の時価を算定する
※平成13年4月27日裁決

お 相続税評価額との関係(概要)

『時価』を相続税評価額と同視するわけではない
ただし参考となる(後記※2)

4 『著しく低い価額』の判断基準

低額譲渡としてみなし贈与課税となるのは,代金額が著しく低い価額です(前記)。
実務でも,ある金額が著しく低い価額に該当するかどうかで大きな違いが生じるというシーンはよくあります。
とても大きい問題なのですが,明確な判断基準はありません。

<『著しく低い価額』の判断基準>

あ 『著しく低い価額』の意味

相続税法7条の『著しく低い価額』とは
その対価に経済合理性がないことが明らかな場合をいう

い 『著しく低い』の判断基準

『著しく低い(価額)』の判定は
個々の財産の譲渡ごとに,『ア〜エ』などを勘案して,社会通念に従い,時価と当該譲渡の対価との開差が著しいか否かによって行う
ア 財産の種類
イ 財産の性質
ウ 取引価額の決まり方
エ 取引の実情
※東京地裁平成19年8月23日
※東京地裁平成13年2月15日;同趣旨
※さいたま地裁平成17年1月12日;同趣旨
※平成元年3月29日直評5,直資2−204;同趣旨

う 規定の趣旨と基準の不存在

相続税法7条の目的は租税回避を防止することである
→一律に判断基準を定めることは困難である
※今本啓介稿『相続税評価額による親族間の土地の売買のみなし贈与該当性』/『ジュリスト1372号』2009年2月p198
※松山明弘ほか『平成22年10月改訂資産税実務問答集』清文社p18

5 所得税法と相続税法の『著しく低い価額』の違い

ところで,『著しく低い価額』での取引に課税するのは贈与税(相続税法)だけではありません。
所得税についても,著しく低い価額での取引に課税する規定があるのです。この低額譲渡(みなし譲渡)による所得税の課税では,法令で著しく低い価額の内容が時価の2分の1未満と規定されています。
この点,相続税法の『著しく低い価額』は,明確な判断基準がありません(前記)。
このように所得税法とは違うのです。

<所得税法と相続税法の『著しく低い価額』の違い>

あ 相続税法の『著しく低い価額』(概要)

相続税法の『著しく低い価額』は
時価の2分の1未満と定められている
※所得税法59条1項2号,所得税法施行令169条
詳しくはこちら|所得税におけるみなし譲渡所得課税(低額譲渡・所得税法59条)

い 相続税法の『著しく低い価額』

相続税法7条の『著しく低い価額』については
具体的な基準を示す規定(法令)はない
→相続税法(あ)のような特定の割合(2分の1)の基準は当てはまらない
※東京地裁昭和44年12月25日
※横浜地裁昭和57年7月28日

6 相続税評価額による土地売買と低額譲渡該当性

相続税法7条の時価は,税法上の評価ではなく,マーケット上の評価額を意味します(前記)。
そうすると,相続税評価額で売却したという場合は,時価より低い価額ということになります。
とはいっても,通常は著しく低いとまではいえません。

<相続税評価額による土地売買と低額譲渡該当性(※2)>

あ 相続税評価額の位置づけ

相続税評価額は,土地を取引するにあたり,1つの指標となり得る金額である

い 原則=低額譲渡否定

土地の譲渡の対価を相続税評価額とすることは
原則として『著しく低い価額』ではない

う 例外=低額譲渡肯定

例外として
何らかの事情により土地の相続税評価額が時価の80%よりも低くなっており,それが明らかであると認められる場合に限って
『著しく低い価額』の対価といえる
※東京地裁平成19年8月23日

え 古い裁判例(参考)

相続税・贈与税では路線価(相続税評価額)が基準となっている
→課税実務を踏襲した
=相続税法7条の『時価』を相続税評価額とした
※東京地裁昭和44年12月25日
※横浜地裁昭和57年7月28日

お 株式評価における相続税評価(参考)

取引相場のない株式の譲渡について
財産評価基本通達により算定した評価額(での譲渡)は
相続税法7条の『著しく低い価額の対価』には該当しない
※東京地裁平成17年10月12日

か タックスアンサー(参考)

時価とは,その財産が
土地・借地権・家屋・構築物などの『時価』は通常の取引価額に相当する金額である
それら以外の財産の『時価』は相続税評価額である
※国税庁『タックスアンサー4423』

7 親族関係の有無・贈与意思・租税回避目的の要否(概要)

低額譲渡によるみなし贈与課税については,以上の説明以外にも複雑な解釈論があります。
親族関係にない者同士(第三者間)の取引の扱いや,当事者に贈与意思・租税回避目的がないケースでの扱いに関する解釈です。
これらについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|低額譲渡によるみなし贈与への親族関係・贈与意思・租税回避目的の影響

本記事では,みなし贈与課税の基本的な解釈論について説明しました。
みなし贈与課税では,明確な判断基準がないので,税務署の認定を確実に読めないというリスクがあります。
取引をする前の段階でも,その後であっても,実際にみなし贈与課税に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。