1 遺産分割の仮分割の仮処分
2 遺産分割審判を本案とする仮差押・仮処分の規定
3 仮分割の仮処分の要件
4 生活困窮型の仮分割の仮処分の疎明の内容
5 相続費用型の仮分割の仮処分の疎明の内容

1 遺産分割の仮分割の仮処分

家庭裁判所の手続として,遺産分割の調停・審判はよく使われています。
これに関連する手続として,遺産分割の仮分割の仮処分というものがあります。
特に,平成28年の預貯金の扱いに関する判例変更の後に,仮分割の仮処分を使う場面が増えています。
詳しくはこちら|平成28年判例による相続財産の預貯金の払戻し不能問題と解決方法
この最高裁判例の中でも,仮分割の仮処分の利用を促すコメントが入っています。
本記事では,遺産分割の仮分割の仮処分の手続について説明します。

2 遺産分割審判を本案とする仮差押・仮処分の規定

最初に,条文の規定を押さえておきます。
条文は,仮分割の仮処分だけではなく,遺産分割(審判)の保全のための仮差押・仮処分全体について規定するものです。

<遺産分割審判を本案とする仮差押・仮処分の規定>

家庭裁判所は,遺産の分割の審判or調停の申立てがあった場合において
強制執行を保全しor事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは
申立人or相手方の申立により
遺産の分割の審判を本案とする仮差押・仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる
※家事事件手続法200条2項

仮処分の要件は,窮迫の危険を防止するために必要がある,というものです。

3 仮分割の仮処分の要件

仮分割の仮処分はどのような状況で利用できるのか,つまり,要件について説明します。

<仮分割の仮処分の要件>

あ 形式的要件(本案との関係)

遺産分割審判が本案となる
遺産分割の調停or審判の申立が必要である
※家事事件手続法200条2項

い 実質的要件

窮迫の危険を防止するために必要がある

う 疎明の内容(概要)

急迫の必要性を疎明する必要がある
仮分割の仮処分の類型によって疎明の内容が異なる(後記※1,※2)
※家事事件手続法200条2項

まず,形式的には遺産分割の調停か審判の申立が必要です。
仮処分の位置づけはメインとなる本案に付随するというものだからです。
条文規定では遺産分割の審判でもよいのですが,実務ではほぼ全件,調停の先行が必要とされています。
詳しくはこちら|一般的付調停|事実上の調停前置・必要的付調停との違い
通常は遺産分割の調停とセットとして,仮分割の仮処分を申し立てます。
なお,以前は調停とセットの保全(仮処分)は条文上認められていませんでした。
そこで,無理やり審判を申し立てるという苦肉の策もありました。
しかし法改正で調停でも足りることになったので,無駄な方法をとる必要はなくなっています。
詳しくはこちら|審判前の保全処分|家事調停・審判でも仮差押や仮処分ができる
実質的な要件の疎明については,2つの状況に分けて,以下順に説明します。

4 生活困窮型の仮分割の仮処分の疎明の内容

まず,仮分割の仮処分を求める理由(状況)が生活に困窮することであるケースです。
特例扱いを受ける者の事情が理由となっているので,財産状況に関する資料が必要となります。

<生活困窮型の仮分割の仮処分の疎明の内容(※1)>

あ 生活困窮型に該当するケース

被相続人の財産に依存して生活していた相続人が生活費の支出を求める

い 疎明の程度

急迫の危険は,相続人の生活の困窮である
→仮処分を求める相続人の財産と収入に関する資料の提出が必要になる

5 相続費用型の仮分割の仮処分の疎明の内容

いろいろな費用を支出することが目的であるケースもあります。
この場合は,仮処分を求める者の財産状況に関する資料は不要です。

<相続費用型の仮分割の仮処分の疎明の内容(※2)>

あ 相続費用型に該当するケース

『ア〜ウ』のような支払の原資としての支出を求める
ア 相続債務
イ 相続開始後に発生する遺産管理費用
ウ 相続税

い 疎明の程度

急迫の危険は相続人の相続分である
→仮処分を求める相続人の財産と収入に関する資料の提出の必要はない

仮分割の仮処分については,遺産分割調停・審判という本体と違って,スピーディーに実現する必要があります。
スピーディーに仮処分の発令を受けるためには,主張や証拠(疎明)を的確に作成・準備しなくてはなりません。
実際にこの手続の利用をお考えの方は,早めに法律相談をご利用くださることをお勧めします。