【被相続人による祭祀主宰者の指定(方式・判定・指定の拒否や辞退など)】

1 被相続人による祭祀主宰者の指定

民法上、祭祀主宰者が決まるルールがいくつかありますが、最優先のものは、被相続人の指定です。
詳しくはこちら|祭祀供養物(墓地・遺骨など)の承継・祭祀主宰者の指定の基本
ここで、被相続人が祭祀主宰者を指定する方式や指定したといえるかどうかの判定、また、指定を拒否できるのか、という問題が生じることがあります。本記事では、これらの問題について説明します。

2 被相続人による祭祀主宰者の指定の方式

被相続人が祭祀主宰者を指定する方式について、民法上何も制限はありません。そこでどんな方式でも構いません。
遺言や手紙、オンラインのツールでも、メッセージ(文章)から、被相続人が祭祀主宰者をこの人に決める、という気持ちが読み取れればよいのです。

被相続人による祭祀主宰者の指定の方式

あ 基本的解釈

被相続人が指定するその方法は、生前行為でも遺言でもよく、また、それらは口頭、書面、明示、黙示のいかんを問わず、いかなる仕方によるも指定の意思が外部から推認されるものであればよい。
※小脇一海・二宮周平稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(27)補訂版』有斐閣2013年p84

い 方式の具体例

ア 遺言イ 手紙ウ 口頭エ オンライン系 例=メール・メッセンジャー・SNS
オ 各種の契約書への記載 夫婦財産契約の条項として記載する
詳しくはこちら|夫婦財産契約(婚前契約)で決めることができる内容(条項)と有効性

う メッセージの例

「墓守は太郎に任せる」というメッセージ
生前贈与・遺贈(後記※1

3 被相続人の意思の判断の特徴

前述のように、被相続人による祭祀主宰者の指定は、その気持ちが読み取れればよいのですが、実際に判定する場面では、そのメッセージがある程度は明確で、かつ、真面目に(真摯に)意思を表明していることが必要になります。

被相続人の意思の判断の特徴

人の死後に効力を生じる場合が原則である意思表示だから、表意者の真摯さ、表示内容の明確さにおいて、一般の意思表示より慎重にその存在を判断すべきである
※前橋家審平成3年5月31日
※小脇一海・二宮周平稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(27)補訂版』有斐閣2013年p84

4 祭祀財産の承継による祭祀主宰者の指定

被相続人による祭祀主宰者の指定は明確なメッセージ(意思表示)ではないこともあります。メッセージとして明確ではないけれど、祭祀主宰者を指定した(希望している)と読み取れる典型例は、祭祀財産を承継させるというものです。具体的には、祭祀財産を生前に特定の者に贈与した、あるいは遺言の中で特定の者に承継させた、という状況です。

祭祀財産の承継による祭祀主宰者の指定(※1)

あ 被相続人による祭祀財産の承継(前提)

生前贈与遺贈として、祭祀財産が承継された場合
所有権移転の効果が生じる(前提)

い 祭祀主宰者指定の効果

ア 原則 祭祀財産を承継させたこと(あ)は、被相続人による祭祀主宰者の指定と言えることが多い
イ 例外 被相続人が祭祀主宰者として希望したと言えない場合もある
この場合、家庭裁判所が判断・指定する(後記)
家庭裁判所が、祭祀財産を承継した者とは別の者を、祭祀主宰者として指定するケースもある

5 祭祀財産承継者とは別人の祭祀主宰者指定

前述のように、被相続人が生前贈与や遺言として、祭祀財産をAに承継させた場合、Aに祭祀主宰者になってもらいたいという気持ちが読み取れます。しかしそうは言えないこともあります。
家庭裁判所が、祭祀財産を承継した者以外の者を祭祀主宰者として指定した実例もあります。そのような判断がなされるのは主に、生前贈与や遺言作成の後に、事情の変化があったというケースです。たとえば、生前贈与で祭祀財産を与えた者が、その後、結婚や離婚で苗字を変えた、という状況です。

祭祀財産承継者とは別人の祭祀主宰者指定

あ 前提事情

祭祀財産の生前贈与・遺言作成の後に事情が変化した
主に「氏」の変更である
詳しくはこちら|家庭裁判所による祭祀主宰者の指定の判断基準

い 裁判所の指定

家庭裁判所が、祭祀財産承継者(=所有者)とは別の人を祭祀主宰者に指定することがある

う 引渡の必要性

(い)の場合、祭祀財産の引き渡しが強制される

6 祭祀主宰者の指定における内縁・法律婚の区別(否定)

ところで、相続については財産の承継者は相続人に限定されます。この点、祭祀主宰者が誰になるか、ということは、相続(遺産の承継)とは別問題です。
詳しくはこちら|祭祀供養物(墓地・遺骨など)の承継・祭祀主宰者の指定の基本
そこで、祭祀主宰者は相続人に限定されません。例えば、家庭裁判所が、内縁の妻(相続権はない者)を祭祀主宰者として指定することも可能です。

7 祭祀主宰者の指定に対する拒否・辞退(否定)

祭祀主宰者として指定された者が指定されることを望まないということもあり得ます。拒否・辞退する,という発想もありますが、法律上そのような手続がないので、理論的には拒否できないことになっています。
家庭裁判所が指定する手続では、その審理の中で、指定される候補者の希望を確認しているので、希望していない者を指定する、ということは起きていません。
ところで、祭祀主宰者として指定された者は、法律上、葬儀を行うなどの義務を負いません。
詳しくはこちら|祭祀供養物(墓地・遺骨など)の承継・祭祀主宰者の指定の基本
負担がないことも、拒否できないという解釈につながっています。

祭祀主宰者の指定に対する拒否・辞退(否定)

あ 被相続人の指定・慣習による指定

被相続人の指定や慣習により、祭祀主宰者の指定(決定)があった場合
指定(決定)された者が祭祀主宰者の指定を放棄・辞退することはできない

い 裁判所の指定

家庭裁判所が祭祀主宰者を指定した場合
審理の段階で、祭祀主宰者として指定されることを希望しない(拒絶・反対する)者を指定することは避けている
※『判例民法10』第一法規p59

本記事では、被相続人による祭祀主宰者の指定について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に墓地や葬儀に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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