【遺言作成時の注意|相続債務・親族の関与・作成したことの告知】

1 『債務』も相続財産→承継方法を遺言に記載しておく
2 遺言による相続債務の承継|典型例
3 相続債務の承継|『遺言の指定』は債権者に主張できない
4 遺言×『相続債務』|『敷金返還債務』に注意
5 遺言を『作成したこと』の告知|精神的混乱・対立が生じやすい
6 遺言を『作成したこと』の告知|オープンにするケース
7 夫婦相互遺言の注意点|共同遺言NG・補充遺言の推奨

本記事では遺言作成時の注意事項のうち『相続債務・親族の関与・アナウンス』に関することを説明します。

1 『債務』も相続財産→承継方法を遺言に記載しておく

相続で承継される財産には『マイナス財産』も含まれます。
遺言を作成する際にはこれも漏らさず承継方法を指定しておくと良いです。

<債務の相続・遺言への記載>

あ 相続債務の承継

債務も『マイナス財産』として『相続財産』に含まれる
→法定相続分に応じた『分割承継』となる

い 遺言への記載→承継者の指定

『相続債務』についても遺言に記載する
=『引き継ぐ者』『弁済する者』を指定しておく

2 遺言による相続債務の承継|典型例

一般的な,遺言に記載する相続債務の承継方法をまとめます。

<遺言による相続債務の承継|例>

あ 担保物と債務のセット化

次の2つの承継者を同一人にしておく
・担保設定の対象財産(不動産)
・被担保債務

い 負担付の承継

プラス財産の承継に付随する『負担』として『債務返済』を義務付ける
→『負担付遺贈』や『負担付の遺産分割方法指定』
詳しくはこちら|負担付遺贈は負担の履行を請求や遺言取消請求申立ができる

3 相続債務の承継|『遺言の指定』は債権者に主張できない

『相続債務の承継方法』についてはちょっと注意が必要です。
理論的に『債権者に主張できない』というルールがあるのです。

<相続債務の承継|遺言×債権者への主張>

あ 法的理論

相続債務の承継者を遺言で指定した場合
→債権者に主張はできない
詳しくはこちら|債務の相続|当然分割承継|遺産分割・遺言の効力×債権者の『承認』

い 現実的な処理

債権者としては,指定された承継者による返済を受け入れる
=返済が滞らない限りは『追認』される

通常は,返済がされている限りは問題は具体化しません。

4 遺言×『相続債務』|『敷金返還債務』に注意

相続の対象となるマイナス財産として『敷金返還債務』もあります。
収益不動産の所有者は,これも遺言作成時にしっかりと記載してくと良いです。

<相続財務の典型例|敷金>

あ 敷金返還義務

『収益物件』の『敷金』
→『敷金返還義務』がある

い 承継者の指定|典型例

不動産を承継した者が『敷金返還義務』も承継する

う 遺言の条項例

『次の賃貸マンションの土地建物を相続人甲に相続させ,併せて相続人甲に,当該不動産の賃貸借契約に係る敷金返還債務の一切を負担させる。』

5 遺言を『作成したこと』の告知|精神的混乱・対立が生じやすい

遺言を作成したら一安心ですが,もっと慎重な配慮があると良いです。

<『遺言を作った』こと→親族に教えるデメリット>

あ 一般的リスク

親族に『内容を見せてくれ』と言われる
親族が疑心暗鬼になる

い 対立に発展するケース

親族が遺言者に『書き換え』を要求(希望)する
→水面下の親族間(推定相続人)の対立が生じることもある

法律的にはトラブル回避が実現しても,それ自体が精神的対立のモト,となることもあるのです。

6 遺言を『作成したこと』の告知|オープンにするケース

遺言を『作成したこと』は隠しておくべき,とは断言できません。
事情によってはオープンにした方が妥当,ということもあります。

<『遺言を作った』ことを親族が知っておくケース>

あ 夫婦相互遺言

夫婦相互に『相手に財産を承継する』内容の遺言を作成するケース

い 特定の親族への財産承継を計画的に行う

例;長男に事業用資産・株式を集中させ,他の兄弟は極力排除する

7 夫婦相互遺言の注意点|共同遺言NG・補充遺言の推奨

夫婦揃って遺言を作成する,ということは望ましい方法と言えます。
ただ,この場合に必要な注意事項があります。

<夫婦相互遺言の注意点>

あ 共同相続はできない

2人が1つの書面で連名で遺言内容を記載
→できない
※民法975条
詳しくはこちら|遺言の基本事項|特徴・遺留分との抵触・生前贈与との違い

い 補充遺言

遺言者以外の『承継先として指定した者』が先に亡くなっていることもあり得る
→この場合の予備的な『承継方法』も記載しておくとベター
詳しくはこちら|遺言のイレギュラーな記載事項(処分権なし・補充遺言)

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