【残業代・賃金のトラブル解決の流れ|紛争解決手段=裁判所・労基署・ADR】

1 残業代・未払賃金の計算
2 残業代・賃金を請求する通知書の送付
3 賃金・解雇などの労使トラブル|雇用主・従業員の交渉
4 賃金・解雇などの労使トラブル|労基署の関与
5 賃金・解雇などの労使交渉|合意に達した→書面化しておく
6 賃金・解雇などの労使交渉|協議事項=合意事項=条項
7 労使トラブル×紛争解決機関|裁判所・労働基準監督署・ADR
8 労使トラブル→裁判所の利用|労働審判・訴訟・民事調停
9 合意・判決後→不履行→強制執行|債務名義であれば差押ができる

本記事では,残業代・未払賃金に関するトラブル解決の流れを説明します。
職場(労使)のトラブルについて,広く該当するものも多いです。

1 残業代・未払賃金の計算

残業代などの賃金の計算を最初に行います。
『未払金額=請求金額』を算出する前提です。

<残業代・賃金の計算>

あ 実労働時間の集計

タイムカードなどの記録により集計する

い 給与体系・会社の規定の確認

例;就業規則・賃金規程

う 『分類』ごとに『割増率』を加算する

法定内残業・法定外残業・休日労働・深夜労働など

え 算定する『期間』

原則として2年間=時効の期間

実際に使用される資料や『割増率』については別記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|賃金・残業代の計算の基本|通常の賃金・割増率|実労働時間の証拠→認定
消滅時効については事情によって扱いが異なることもあります。
詳しくはこちら|賃金・残業代の消滅時効|通常2年・退職金5年・不法行為3年|中断・停止

実際には,資料がないために,計算が十分にできないことも多いです。
その場合,計算は留保して,雇用主に対して『資料・書類の開示』を請求することになります(後述)。

2 残業代・賃金を請求する通知書の送付

残業代などの賃金の未払金額が算定できたら,雇用主に請求します。
通常は書面で送付します。

<残業代・賃金を請求する通知書>

あ 内容

未払い残業代・賃金の金額を示して支払を求める

い 金額が不明確な場合

ア 金額は記載しない+『対象となる未払期間』を記載するイ 資料開示を請求する

う 法的効果

『催告』=一時的な時効中断
→『通知書到達から2年前』意向の給与支給日が対象となる(原則)

え 送付方法

内容証明郵便がベスト
→『記載内容・到達』を記録・証拠にできる

残業代などの賃金については原則的に2年間という短い消滅時効があります。
『通知書』の送付により,一時的に時効を止めることができるのです。

3 賃金・解雇などの労使トラブル|雇用主・従業員の交渉

残業代・賃金・解雇などの労使トラブルの解決のために『交渉』をトライするのが通常です。

<残業代・賃金に関する交渉|種類>

ア 当事者(担当者)間の交渉イ 弁護士による代理人交渉ウ 労働組合を通した交渉エ 労働基準監督署の関与

4 賃金・解雇などの労使トラブル|労基署の関与

労使トラブルに労働基準監督署が関与する制度があります。
ただ『直接的な解決を目指すプロセス』ではありません。

<労働基準監督署の関与>

あ 指導・是正勧告など

『違法行為の解消』が要請される
直接的な『個別紛争解決』が目的ではない

い 指導・勧告の対象

『全従業員』が対象となる

う 指導・勧告の現実的効果・傾向

ア 雇用主の負担が大きくなるイ 解決までに時間を要することになる

詳しくはこちら|労働基準監督署への申告→指導・是正勧告

5 賃金・解雇などの労使交渉|合意に達した→書面化しておく

労使トラブルに関する交渉が『合意』に至った場合,結果を書面化しておくとベターです。

<交渉→合意に至った場合>

あ 書面化

合意内容を書面に調印しておくと良い
→証拠となる
→紛争の蒸し返しを防ぐ

い タイトル

『合意書・和解書』など
特に決まりはない

う 通常の書面(私文書)以外の方法

ア 公正証書イ 訴え提起前の和解

公正証書や訴え提起前の和解は『債務名義』に該当するので強力です。
これについては後述します。

6 賃金・解雇などの労使交渉|協議事項=合意事項=条項

賃金・解雇などのトラブルにおける交渉で取り決める事項をまとめます。
交渉の末,合意に至った場合には合意書の条項として明記しておくことが推奨されます。

<協議事項=合意事項=条項>

あ 金額
い 支払方法(期限)
う 付随的な清算・整理|例

従業員が保管している会社の物品の返還
例;制服・鍵

う 『退職』の扱い

例;自主退職(依願退職),(普通)解雇,懲戒解雇など

え 守秘条項|例

ア 会社側 紛争となったこと自体
イ 従業員側 会社の営業情報など
紛争とは関係ない一般的時効である

7 労使トラブル×紛争解決機関|裁判所・労働基準監督署・ADR

労使トラブルの解決手段・機関はいくつかの種類があります。

<紛争調整機関あれこれ>

あ 裁判所

『強制力』があるので強力な手段である

い 労働基準監督署の介在

本来的な『個別的紛争解決』は任務・目的ではない

う 裁判外紛争調整機関によるあっせんや調停

例;弁護士会のADR

それぞれに特徴があるので,個別的な状況・ニーズに応じて柔軟に選択・利用するべきです。
手続の選択・利用するタイミングによって,最終的な結果に違いが生じる,ということもあります。

8 労使トラブル→裁判所の利用|労働審判・訴訟・民事調停

労使トラブルの解決手段の代表的なものは『裁判所の手続』です。
3つの種類があります。

<裁判所による労使の紛争解決手続>

ア 労働審判イ 訴訟ウ 民事調停

『訴訟』だけは『付加金』の請求ができます。
もちろん,認められるとは限りません。
詳しくはこちら|賃金・残業代の遅延損害金・付加金|退職日前後の違い・裁判所の裁量

9 合意・判決後→不履行→強制執行|債務名義であれば差押ができる

いったん紛争が解決された後,決まった内容が履行されない,ということもあります。
和解した解決金や判決で認められた未払賃金の支払がなされない,などです。
ここで『債務名義』があれば『強制執行』ができます。
『債務名義』や『強制執行』についてまとめます。

<確定判決・裁判上の和解→不履行>

あ 債務名義=強制執行できるもの

ア 確定判決イ 裁判上の和解・調停での合意(調停調書)ウ 公正証書(執行証書)

い 強制執行の代表例

相手(債務者)の財産の差押

『債務名義』については別記事でまとめています。
詳しくはこちら|債務名義の種類|確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)など
『差押』するターゲットとなる財産の典型的なものは別記事でまとめています。
詳しくはこちら|差押の対象財産の典型例・債権者破産・差押禁止・範囲変更申立
詳しくはこちら|営業に関する差押対象物|差押対象物の要件=独立性・換価可能・譲渡性

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