【夫婦間の不動産贈与・居住用不動産の配偶者控除=おしどり贈与|詐害行為】
1 『夫婦間の財布は一緒』という一般的な考え方
素朴な気持ちとしては、夫婦は財布が一緒という感覚があると思います。
これは民法の規定としても現れています。
民法×夫婦の財産の一体的扱い
あ 財産分与
離婚する時に始めて『夫婦の財産を分ける』ことになる
→離婚以外では『一体として』扱う
※民法768条
い 夫婦間の取消権
夫婦間の契約は取消ができる
→法は家庭に踏み込まないという趣旨
※民法754条
2 夫婦間の財産移転×税務|原則的に課税される
税務上の扱いは民法の扱いとは異なることが多いです。
夫婦であっても無償での移転=贈与に該当する以上は原則的に課税対象となります。
マイホームの登記上の所有名義を移して、後日税務署から照会の連絡がきて驚く、ということがよくあります。
贈与税に関する基本的事項は別記事で説明しています。
詳しくはこちら|贈与税の算定方法|扶養範囲の除外・住宅取得資金の非課税特例
3 おしどり贈与=居住用不動産贈与の配偶者控除制度|趣旨
夫婦間では、所有者を変更(贈与)するニーズもあります。
また、税務面でも、世代を超えることにはならないので、相続税の脱法、ということにもなりません。
居住用不動産の贈与については、一定の範囲内で、贈与税を課さない、という配偶者控除制度があります。
相続税の配偶者控除とは違います。
居住用不動産贈与の配偶者控除|趣旨
生存配偶者の老後の生活安定に配慮する趣旨
※平成13年9月13日裁決
4 おしどり贈与=居住用不動産贈与の配偶者控除|要件
居住用不動産の配偶者控除の適用される対象は細かく決まっています。
居住用不動産贈与の配偶者控除|要件
あ 婚姻期間が20年以上であること
婚姻届出の日から贈与までの日、でカウントします。
い 贈与財産が居住用不動産であること
自ら住む住宅のことです。購入資金も含まれます。
う 贈与を受けた人が、贈与日の翌年の3月15日までに実際に居住すること
見込みであっても構いません。
え 過去に、同一の配偶者からこの配偶者控除制度の適用を受けたことがないこと
お 贈与税の申告書を提出すること
控除適用により、結果的に税額がゼロとなる場合であっても申告する必要があります。
5 居住用不動産贈与の配偶者控除+基礎控除=合計2110万円
贈与税の控除は、特例とは関係なく、一定額が設定されています。
『控除』は2つを重複して適用することができます。
居住用不動産贈与+基礎控除
あ 居住用不動産の贈与|控除額
2000万円
い 基礎控除
1年につき110万円
う 控除額合計|最大額
2110万円
6 夫婦間の不動産贈与と詐害行為取消権・否認権
念願のマイホームも、差押を受けるケースがあります。
経営の失敗や保証債務を負ったことが典型例です。
そのような危険性が高い状態で、財産を逃す目的で贈与すると、後から、贈与が無効とされることがあります。
破産法における否認権や民法上の詐害行為です。
詳しくはこちら|詐害行為取消権(破産法の否認権)の基本(要件・判断基準・典型例)
7 詐害性の判断と居住用不動産贈与の特例
『配偶者控除を受ける』目的での贈与は詐害性 が否定される事情の1つとなります。
詐害性の判断と居住用不動産贈与の特例
あ 贈与の経緯
ちょうど結婚して20年が経過した
『配偶者控除』がようやく使えるようになった
夫から妻にマイホームを『贈与』した
その後夫が破産するに至った
債権者は『詐害行為』であると主張した
い 贈与の目的・趣旨
ア 世話になった妻に早めに形に見える財産・名義を渡したいイ 結婚20周年の記念
う 詐害行為の判断
『居住用不動産贈与の特例』を受けた
→タイミングからは『詐欺性』を否定する判断につながる
ただしこれだけで『詐害性』が否定されるわけではない
え 詐害性判断のポイント
贈与時点で『差押を受ける危険性』がどれだけあったか
8 夫婦間の財産分与と詐害行為(概要)
ところで、夫婦間の財産の移転には、潜在的な持分どおりに戻すという実質もあります。
特に離婚に伴う財産分与では、差押を回避する目的の離婚であっても一定の範囲では詐害行為にならないと扱われます。
詳しくはこちら|財産分与と詐害行為取消権(詐害性の判断基準と取消の範囲・対象)
夫婦間の財産の動きについては、このように背景に特殊な理論的な事情があるので、通常の詐害行為とは違う法的扱いとなる傾向が強いのです。
本記事では、夫婦間の贈与に関するいろいろな問題について説明しました。
実際に夫婦間の贈与や財産分与を行う際には、このように多くの側面から問題がないかどうかを確認する必要があるのです。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
多額の資金をめぐる離婚の実務ケーススタディ
財産分与・婚姻費用・養育費の高額算定表
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
相続や離婚でもめる原因となる隠し財産の調査手法を紹介。調査する財産と入手経路を一覧表にまとめ、網羅解説。「ここに財産があるはず」という閃き、調査嘱託採用までのハードルの乗り越え方は、経験豊富な講師だから話せるノウハウです。


