【医師のための離婚ガイド:医療法人関連の法律問題解説】

1 序章:医師と離婚の現状

(1)医師の離婚率の実態

日本における離婚率は、過去数十年で変動を見せており、特定の職業における離婚率もその影響を受けています。医師という職業は多くの特性を持っており、その中で離婚に至る背景や理由は一般的なものとは異なる場合があります。
近年の調査によれば、医師の離婚率は全体的な離婚率に比べてやや高めであるというデータが存在します。特に、高い専門性を要求される部門や、24時間体制の勤務が求められる部門で働く医師は、家庭とのバランスを取ることが難しくなる傾向があることが指摘されています。

(2)医師の生活と仕事のバランスの課題

医師という職業は、社会的な責任や役割が重く、またその専門性から離職や転職が難しいという特性を持っています。このような背景から、多くの医師は長時間労働が常態化しており、家庭との時間を確保することが難しい状況にあります。
また、緊急時の呼び出しや休日出勤が多い医師は、家庭のイベントや子供の成長の瞬間を逃すことが多くなりがちです。これが、パートナーとのコミュニケーション不足や理解のギャップを生む原因となり、結果的に関係の摩擦を生むことが考えられます。
さらに、医師特有のストレスや心理的な負担、患者からのクレーム対応など、職業上の問題が家庭に持ち込まれることも少なくありません。このような職業の特性からくる生活の不規則さやストレスは、離婚の原因の一つとして考えられます。
これらの課題を乗り越え、家庭と仕事のバランスを取るためには、相互の理解やサポートが不可欠です。医師自体が自らの健康や精神的なケアを怠らないこと、そして家族とのコミュニケーションを大切にすることが求められます。

2 医療法人の概要と医師の離婚への影響

(1)医療法人の基本概念

医療法人とは、医療の提供を目的として設立される法人のことを指します。日本においては、医療法人は「医療法人法」に基づいて設立され、医療の提供を目的とした活動を行います。具体的には、病院、クリニック、診療所などの医療機関の運営を中心に行われています。
医療法人は、その設立の目的や経営の形態により、多様な活動やサービスを提供しています。一般に、医療法人は病院やクリニックの運営を主としており、多くの医師が所属して治療活動を行っています。
詳しくはこちら|医療法人|運営の構造・課税|まとめ|平成19年医療法改正対応

(2)医療法人と個人の資産の違い

離婚における財産分与の際、医療法人が関与する場合、その取り扱いは非常に複雑となることが多いです。以下は、医療法人の資産と個人の資産の主な違いを示しています。

<医療法人と個人の資産の違い>

あ 所有権(の帰属)の違い

医療法人の資産は、法人が所有するものであり、個人の資産とは明確に区別されます。これは、法人が独立した法的主体であるためです。したがって、医師が法人の代表であっても、法人の資産は直接的にその医師の個人資産とはみなされません。

い 評価の難しさ

医療法人の資産、特に病院やクリニックの事業価値は、具体的な資産価値だけでなく、ブランド価値、患者基盤、地域での評価など多岐にわたる要素を含むため、評価が難しい場合があります。

う 分与の制限

上記の所有権の違いから、医療法人の資産は直接的な財産分与の対象とはなりません。ただし、医師が法人から受け取る給与や報酬、また役員としての利益分配など、個人としての収入や資産に関する部分は、分与の対象となる可能性があります。

これらの違いを踏まえ、医師の離婚においては、専門的な知識を持つ弁護士や税理士との連携が不可欠となる場合が多いです。

3 財産分与の特殊性:医療法人の価値

(1)医療法人の資産評価方法

医療法人の資産の評価方法にはいろいろなものがあり、出資持分の有無によっても異なります。専門的な知識を持つ弁護士や資産評価の専門家との連携が不可欠となります。

<医療法人の資産評価方法>

あ 事業の将来性の考慮

医療法人の業績や、将来の市場動向、技術の進化などを考慮し、資産の将来価値を評価することが重要です。

い 固定資産の評価

建物や土地、医療機器などの実物資産の現在の市場価格、減価償却、使用状況、寿命などを元に評価する。
ア 出資持分がある医療法人の場合 固定資産の評価は、出資持分の全体的な価値の評価に影響を及ぼします。具体的には、医療法人が所有する病院やクリニックの建物、医療機器などの資産価値が高い場合、出資持分の価値も相応に高まる可能性があります。
イ 出資持分のない医療法人の場合 これらの資産は直接的な財産分与の対象となりません。ただし、これらの資産の存在や状態が、医師の給与や報酬にどれだけ影響を与えているかによって、間接的に財産分与の評価に影響を及ぼすことが考えられます。

う 事業のリアルタイム評価

現在の診療報酬の状況や業績データを基に、医療法人としての現在の事業価値を評価する。
ア 出資持分がある医療法人の場合 出資している持分の価値が、離婚時の財産分与に大きく影響することとなります。持分の評価は、医療法人の総資産、収益性、将来の収益予測などに基づき、詳細に評価される必要があります。その結果、医師が持っている出資の割合や資産の価値に応じて、財産分与の対象となる部分が決定されることになります。
イ 出資持分のない医療法人の場合 出資持分がない場合でも、医師がその医療法人に従事している場合、法人からの収入や報酬、役員としての報酬などが財産分与の対象となり得ます。しかし、直接的に法人の資産自体が分与の対象となることは少ないです。

詳しくはこちら|医師の離婚|財産分与における特徴

4 養育費・慰謝料と医師の収入

(1)医師の平均収入と離婚における影響

あ 医師の平均収入

医師は、専門職としての資格を持つため、多くの場合、平均的なサラリーマンよりも高い収入を得ていることが一般的です。特に、独立して開業医としてクリニックを運営している場合や、大学病院などの指導医として働いている場合は、さらに収入が高くなることが考えられます。

い 収入と離婚の関連性

高い収入を得ている医師の場合、離婚時の養育費や慰謝料の算定に影響が出る可能性があります。特に、養育費の算定表の上限を超える収入を得ている場合、養育費の額が通常よりも高額になることが考えられる。

(2)養育費の算定の特徴

あ 養育費の算定表

一般的に、養育費の算定には、所得に応じた算定表が存在します。この表は、親の収入や子供の数、子供の年齢などの要因を基に、適切な養育費の額を示しています。

い 算定表を超える収入の場合

上記の算定表は、一定の所得までの基準を示しているため、特に高収入の場合、算定表の上限を超えることが考えられます。このような場合、養育費の額は、子供の生活費や教育費、医療費などの実際の必要経費を考慮して、個別に算定することが一般的です。

う 高収入者の養育費の特徴

医師などの高収入者の場合、子供の教育費や将来の学費、趣味や特技に関する費用など、通常よりも高額な養育費が求められることがあります。このような場合、具体的な金額を決定するためには、子供の将来の計画や必要経費を詳細に検討し、合意を形成することが重要となります。
医師の収入が高額である場合、離婚における養育費や慰謝料の算定は複雑となる可能性が高まります。このような場合、専門的な知識や経験を持つ弁護士との相談が推奨されます。
詳しくはこちら|医師の離婚|婚姻費用・養育費・子供に関する問題

5 非公開情報の保護:医師の患者情報

(1)患者情報の取り扱いと離婚手続き中のリスク

あ 患者情報とは

医師や医療従事者が取り扱う患者情報は、診療内容、病歴、薬の処方内容、個人的な生活状況など、極めてプライベートな情報が含まれます。これらの情報は、医療関係者のプロフェッショナルな倫理として、極秘に扱う必要があります。

い 離婚手続き中のリスク

離婚手続き中、特に訴訟となった場合、証拠としての文書や情報の提出が求められることがあります。その際、誤って患者情報が露出するリスクが考えられます。例えば、収入証明や資産の詳細を示す文書に、患者情報が間接的に記載されている可能性があります。

う 情報漏洩の問題

患者情報の不適切な取り扱いや漏洩は、医療者の倫理的問題だけでなく、法的にも厳罰となる場合があります。さらに、評判の悪化や信頼失墜という大きな損失を招く可能性があります。

6 離婚時の証拠提出とプライバシーの保護

(1)証拠提出の要求

離婚訴訟時、双方の主張を裏付けるためには、証拠の提出が不可欠です。しかし、その過程で、患者情報が含まれている文書やデータの取り扱いには、最大限の注意が求められます。

(2)証拠の選定と提出

医師として働く者が、離婚手続きを進める際、患者情報を含む可能性のある証拠を提出する前に、その内容を確認し、情報を適切に非表示または削除することが重要です。

(3)法的なサポートの重要性

離婚訴訟や手続き中に、患者情報の保護やプライバシーの確保をしっかり行うためには、医療法や情報保護に詳しい弁護士や専門家との連携が大切です。彼らのアドバイスを受けることで、不要なリスクを避けることが可能となります。
離婚手続き中、医師が患者情報の不適切な取り扱いを避けるためには、情報の適切な管理と、法的なサポートを求めることが極めて重要です。

7 医師の業務と子供の親権・監護権問題

(1)医師の勤務時間と親権の取得

あ 感じるプレッシャー

医師としての業務は非常に繁忙であり、不規則な勤務時間や長時間のシフトが求められることが少なくありません。このような状況が、親権の取得や子供との時間を過ごす機会に影響を与えることが考えられます。

い 親権争いの中での課題

親権を求める際、医師としての勤務体系が子供の安定した生活環境の確保とどのように合致するのか、法的な評価の視点からも検討が必要です。一方で、医師としての専門性や安定した収入が、子供の将来に対する安定感を提供する要素として評価されることもあります。

う 共感とサポート

親権争いの中で感じる葛藤や不安は深いものです。医師の職務と親としての役割のバランスを取るのは容易ではありませんが、専門家のアドバイスやサポートを受けることで、最適な解決策を模索する手助けが得られます。

(2)子供の生活環境と医師の仕事とのバランス

あ 子供たちの願い

子供たちは何よりも安定した愛情とケアを求めます。医師としての忙しい日常の中で、子供との質の高い時間を確保することは、子供の心の安定に大きく寄与します。

い 調整が求められる生活

医師としての職務と、子供の日常生活や学校行事、健康管理などの子育ての要素とを調整するのは簡単なことではありません。しかし、柔軟なスケジューリングやサポート体制の導入など、様々な方法でバランスを取る試みが可能です。

う 外部のサポート

家族や友人、近隣のコミュニティからのサポート、さらには専門家やカウンセラーのアドバイスなどを活用することで、子供との関係を深化させながら、医師としての業務にも専念することが可能となります。
子供との繋がりと、医師としての職務は両立が難しいと感じることも多いかと思います。しかし、愛情と理解、そして適切なサポートによって、両方の役割を果たすことの喜びと達成感を実感することができます。

8 医師の離婚と再婚時の留意点

(1)再婚時の医療法人関連の問題

あ 資産の再評価

再婚時には、医療法人としての資産の評価や出資持分の再確認が必要となることが考えられます。前回の結婚や離婚時の財産分与や取決めからの変動があるかもしれませんので、その点を特に確認する必要があります。

い 経営権の再検討

再婚相手が医療業界に関与している場合、医療法人の経営権についての取り決めや変更の可能性も考慮するべきです。経営パートナーとしての役割や、再婚後の経営体制の再検討が必要になることがあるかもしれません。
詳しくはこちら|医師の離婚|医療法人の問題|理事解任・損害賠償・トラブル典型例

う 新しい家族構成との調整

再婚によって新しい家族構成が生まれる際、医療法人としての業務や財務面での調整や変更が必要となる場面が考えられます。特に子供の存在や、再婚相手の資産状況などが影響を与える要因となり得ます。

(2)事前契約(プレナップ)の重要性

あ 資産の保護

医師としての専門的な職務や、医療法人としての資産は大きな価値を持ちます。再婚前の事前契約によって、これらの資産や権益を適切に保護することが可能となります。

い 明確な取り決め

再婚においても離婚のリスクは否定できません。その際の財産分与や権利関係を明確にしておくことで、争いや誤解を避けることができます。

う 医師としての独立性の確保

事前契約は、医師としての業務や資産の独立性を保ちつつ、愛情を大切にする再婚生活を送る上での一助となります。心の平穏と専門性を両立させるための重要なステップと考えることができます。

9 まとめ:医師として離婚を考える時のアドバイス

(1)専門家の助言の重要性

あ 複雑な資産評価

医師や医療法人に関する資産は一般的な離婚ケースとは異なり、その評価が非常に複雑となる場合があります。専門家による適切な評価と助言が、公平な財産分与のためには不可欠です。

い 法的背景の理解

医師の離婚における法的問題は、通常の離婚とは異なる点が多々存在します。そのため、医師専門の法律家や顧問弁護士の意見を求めることで、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。

う 精神的サポート

離婚は精神的にも大きなストレスとなります。専門家との対話は、法的問題だけでなく、心のケアにも繋がります。冷静な判断を助け、適切な方向へと導く役割も果たします。

(2)離婚を考える前に知っておくべきこと

あ 自身の資産状況の把握

医師としての資産や、関連する医療法人の資産状況を正確に理解しておくことは、離婚の過程での交渉の基盤となります。

い 子供の権利と心情

もし子供がいる場合、親権や監護権の問題だけでなく、子供たちの心情や未来を最優先に考慮することが重要です。

う 情報の保護:医師として持っている患者情報などの非公開情報が、離婚の過程で漏れるリスクを理解しておくことは必須です。適切な情報管理と、その重要性の共有を確実に行うべきです。
え 未来の展望

離婚はある意味、新しい人生の始まりでもあります。その後の生活やキャリアをどのように進めるか、ある程度のビジョンを持って離婚を考えることで、より前向きな決断を下す助けとなります。

本記事では、医師、医療法人が関わる離婚については多くの問題が生じるということを説明しました。
個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は大きく異なります。
実際に医師や医療法人が関わる離婚の問題(夫婦間の問題)に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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