【経営者の離婚はどう違う?オーナー社長が直面する法的課題と対策】

1 財産分与の難しさ

離婚を経験する多くの夫婦にとって、財産分与は一つの大きな課題となります。特にオーナー社長として事業を持つ者の場合、この問題は一層複雑になります。以下、その主な理由と具体的な難しさを解説します。

(1)株式の評価と分与

オーナー社長の場合、保有している会社の株式は、分与対象となる財産の一部として考慮されます。しかし、株式の評価は一般的な資産とは異なり、非常に難しい作業となります。特に非上場企業の株式の場合、公開市場における取引価格が存在しないため、評価額を定めるための明確な基準が欠けています。
このような背景から、株式の評価を行う際には、会社の資産や業績、業界の動向、将来の成長見込みなど、多岐にわたる要因を総合的に考慮する必要があります。この評価を基に、離婚当事者はその価値を算出し、金銭で分与することとなります。この過程で専門家の意見を求めることも多く、評価額に関するトラブルも少なくありません。

(2)事業継続と財産の流動性問題

オーナー社長が離婚をする際、事業の継続性が大きな問題として浮上します。株式の評価と分与によって生じた金銭的な負担が、事業の継続や成長を阻害するリスクが考えられます。
特に中小企業やスタートアップのような規模の小さな会社の場合、現金の流動性は事業の生命線とも言えます。離婚に伴う金銭的な負担が大きすぎる場合、事業の運営資金が圧迫され、経営の継続が困難となることも想定されます。
これを防ぐため、オーナー社長は離婚における財産分与を進める際に、事業の継続性や財務健全性を損なわないような配慮が必要です。離婚協議の中で、双方が納得する形での解決を目指すことが重要です。

以上の点から、オーナー社長が離婚をする際の財産分与は、通常の離婚とは異なる難しさを伴います。専門家の意見やアドバイスを求めることで、よりスムーズに問題を解決することができるでしょう。

2 経営権の保護

オーナー社長の離婚が進行する中で、ただの財産分与だけでなく、経営権の保護という非常に重要な課題も浮上します。経営権は会社の方針や経営判断を決定する権利であり、これが離婚の影響を受けることで、会社の将来や事業の継続に重大な影響が生じる可能性があります。

(1)離婚による経営権移転のリスク

離婚に伴う財産分与の過程で、オーナー社長が保有する株式の一部が配偶者に譲渡される場合が考えられます。これにより、株式の所有比率が変動し、経営権にも影響が生じる可能性があります。特に、オーナー社長が単独で過半数の株式を保有している場合、経営権が移転するリスクが高まります。
このようなリスクを回避するためには、離婚協議の段階で経営権の移転を前提とせず、他の財産や金銭等での調整を検討することが重要です。

(2)株式譲渡の規制や契約

経営権の保護を図るための具体的な方法として、株式譲渡の規制や契約を結ぶことが考えられます。会社の定款において、株式の譲渡を制約する条項を設けることができます。このような規制を利用することで、離婚を契機とした株式の譲渡を抑制し、経営権の移転リスクを低減することが可能となります。
また、オーナー社長自身が配偶者や第三者との間で、株式の譲渡に関する特別な契約を結ぶことも考えられます。この契約には、譲渡の条件や範囲、方法などを詳細に定めることができ、経営権の安定を確保するための有効な手段となります。

経営権の保護は、離婚において特に注意が必要な課題です。経営権が移転することによるリスクを正確に把握し、適切な対策を講じることで、会社の安定した経営を維持することができるでしょう。

3 取締役や役員の地位に関する問題

オーナー社長の離婚問題は、単に私的な事項にとどまらず、会社経営や組織内の人間関係にも影響を及ぼす可能性があります。特に、離婚する双方が会社の役職に就いている場合、その後の役職の取り扱いや待遇に関する問題が生じることが考えられます。

(1)離婚後の役職維持や退任

離婚が成立した後も、双方が会社の役職を維持することが望ましいのか、それともいずれかが退任するべきなのかは、事情や経緯、会社の方針など様々な要素を考慮して判断する必要があります。配偶者が共同で事業を経営している場合や、配偶者が主要な役職に就いている場合は特に慎重な検討が求められます。
経営の継続性や組織の安定、社内の人間関係の維持など、多岐にわたる観点から適切な判断を行うことが不可欠です。

(2)取締役報酬や待遇の調整

離婚後、役職に変動が生じる場合、それに伴って取締役報酬やその他の待遇にも調整が必要となることが考えられます。例えば、役職が降格となる場合、それに見合った報酬や待遇の見直しを行うことが必要となるでしょう。
また、離婚により役職が変わらない場合でも、私的な事情を考慮して、一時的に待遇を調整することが望ましい場合もあるかもしれません。これは、社内の平和やモラルの維持、及びオーナー社長自身のメンタルヘルスの確保のために重要です。

取締役や役員の地位に関する問題は、公私の境界が曖昧になりがちなオーナー社長の離婚において、特にデリケートな課題となります。公平かつ適切な対応を心がけることで、会社の安定経営と従業員の信頼を確保することができるでしょう。

4 秘密保持と業務上の情報

オーナー社長の離婚問題は、多くの場合、単なる家庭の問題ではなく、ビジネスや会社経営にも影響を及ぼす可能性があります。特に、離婚に関する協議や手続きの過程で、業務上の情報や企業の秘密が不適切に取り扱われるリスクが増加します。では、なぜこのようなリスクが発生するのか、そしてどのように対応すべきなのかを解説します。

(1)業務関連情報の漏洩リスク

離婚協議や訴訟の過程では、財産分与や養育費の算定のため、会社の収益や資産の詳細、そして経営に関する情報が必要となります。この際、経営者自身や法的代理人、さらには配偶者やその代理人にも、これらの情報が公開されることが想定されます。この情報が適切な管理下でない場合、故意や無意識のうちに情報が外部に漏洩するリスクが高まります。
また、離婚が原因で感情的な対立が激しくなった場合、情報を不正に取得したり、あるいは悪用することで相手を攻撃しようとする可能性も考えられます。このような構造があるので、離婚の問題が事業(業務)のリスクとなることがあるのです。

(2)離婚協議中の情報管理

上記のようなリスクを最小限に抑えるためには、離婚協議中の情報管理が極めて重要です。具体的な対策としては以下のような点が考えられます。

<離婚協議中の情報管理>

あ 必要最小限の情報のみを提供する

離婚に関する手続きに必要な情報のみを提供し、それ以外の情報は厳格に管理する。

い 情報の取扱いに関する合意:

協議や訴訟に関わる全ての当事者と情報の取扱いに関する明確な合意を結ぶ。これには、情報の利用範囲や保管方法、情報の廃棄に関する取り決めなどが含まれる。

う 離婚に関わる書類の管理

離婚に関連する文書やデータは適切な方法で保管し、不要となったものは適切に廃棄する。
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秘密保持と業務上の情報は、経営者の離婚において特有の課題として考慮すべきポイントです。適切な情報管理と危機管理の観点から、リスクを事前に回避する努力が求められます。

5 子の親権問題と家族経営

オーナー社長としての経営と家庭の問題は、時として密接に関連してくる。特に家族経営が行われている企業において、子どもの親権問題は単に家庭内の問題にとどまらず、会社経営や将来の事業継承にも影響を及ぼす可能性があります。この記事では、子の親権と家族経営の関連性、およびその中での経営参加のバランスについて考察します。

(1)子どもの親権と事業継承の関連

家族経営が行われている企業において、次世代への事業継承は重要な課題となります。多くの場合、子どもが将来的に経営のリーダーシップを引き継ぐことを前提として育成や教育が行われることが一般的です。しかし、離婚によって子の親権が争われる場合、子どもの将来的な居住地や生活環境が変わる可能性があり、これが事業継承の計画に影響を及ぼすことも考えられます。
たとえば、親権を持つ側が企業と離れた場所に移住することを選択した場合、子どもが企業の日常業務や経営に関与する機会が減少する可能性がある。これは、事業継承の観点からは不都合となる場面も生じるかもしれません。

(2)親権取得と経営参加のバランス

子の親権問題が浮上した場合、経営者は子どもの将来と企業の持続性の間でバランスを取る必要が出てきます。親権を取得することで、子どもとの日常のコミュニケーションや育成が容易になる一方、経営に専念する時間やエネルギーが削がれる可能性も考えられます。
そのため、親権を求める場合でも、子どもの将来的な経営参加を前提とした場合、その育成計画や教育環境の整備が重要となります。例えば、企業の近くでの居住を継続させる、または家族経営に関する教育や研修を継続的に行うなどの取り組みが考えられます。

まとめると、オーナー社長の離婚において、子の親権問題は家庭内の問題だけでなく、企業経営や将来のビジョンにも関わる重要な課題となります。家族経営を継続し、かつ子どもの幸福を追求するためのバランスを見つけることが求められるでしょう。

6 税務問題と財産保護

離婚は経済的、感情的な側面だけでなく、税務の面からも多くの影響を受けるイベントとなります。特にオーナー社長や高額な資産を有する人々にとっては、離婚の際の財産分与や税金の取り扱いは、その後の資産管理にも影響を及ぼす可能性があります。この記事では、離婚に伴う税務の影響や、贈与と贈与税の対策について考察します。

(1)離婚に伴う税金の影響

離婚する際、夫婦間で資産の移動や分与が行われることが多いです。しかし、その取引には様々な税金の影響が考えられます。
特に、財産分与の額が大きくなると、それが「贈与」とみなされるリスクが高まります。具体的には、離婚に伴う財産の分与が市場価格よりも過大な額で行われた場合、その差額に贈与税が課される可能性が考えられます。これは、特に株式や不動産などの高額な資産を持つオーナー社長にとって、十分に注意が必要な問題となります。

(2)贈与と贈与税の対策

贈与税の課税を避けるためには、財産分与の際には市場価格を適切に評価し、その範囲内で取引を行うことが重要です。具体的には、不動産や株式の価値を評価する際には、専門家の意見を取り入れることが望ましいでしょう。
また、離婚前に夫婦間で贈与を行うことも、税務リスクを低減する一つの方法となり得ます。但し、贈与を行う際には贈与税の非課税枠を利用することで、税務リスクを低減できる可能性があります。この非課税枠は年間一定の額までの贈与には税金が課せられないというもので、これを上手く利用することで税負担を軽減することができます。

まとめると、離婚に伴う税務問題は複雑であり、適切な対策や計画が必要です。オーナー社長や高額な資産を持つ人々は、税務専門家や弁護士の意見を求めることで、資産を適切に保護し、税務リスクを低減することができるでしょう。

7 結婚前契約(夫婦財産契約)と事前の対策

結婚は人生の大きな決断の一つであり、愛情や感情の側面だけでなく、経済的な取り決めや合意も必要となります。特に、オーナー社長や事業を持つ人々にとっては、結婚に伴う潜在的なリスクを事前に軽減するための対策が不可欠です。この記事では、結婚前契約の有効性、その内容、そして経営者としての結婚前契約のメリットについて考察します。

(1)事前契約の有効性とその内容

結婚前契約(婚前契約・法的な正式名称は夫婦財産契約です)は、結婚を前提とするカップルが、離婚や死別の際の財産分与や生活費、親権などに関する取り決めを事前に記載した契約です。日本では、結婚前契約は法的に拘束力を持つとされていますが、契約の内容が公序良俗に反する場合や明らかに不公平な条件が含まれている場合は、無効となる可能性があります。
契約の主な内容としては、財産の分与の方法、生活費の支払い、子どもの親権や養育費に関する取り決めなどが挙げられます。さらに、オーナー社長や事業者の場合は、事業に関連する資産や株式、経営権に関する取り決めも考慮する必要があります。

(2)経営者としての結婚前契約のメリット

結婚前契約の最大のメリットは、不測の事態が発生した際の紛争を最小限に抑えることができる点です。経営者の場合、離婚に伴う財産分与や経営権の問題は、事業そのものに大きな影響を及ぼす可能性があります。結婚前契約を結ぶことで、そのようなリスクを予め回避することができます。
また、結婚前契約は双方の意向や取り決めを明確にすることができるため、お互いの期待や認識のズレを防ぐ役割も果たします。これにより、将来的なトラブルや不信感を回避することが期待できます。

結論として、結婚前契約は、経営者にとって非常に有効なツールとなり得ます。事業や資産を守るため、そして夫婦間の信頼関係を築くためにも、結婚前契約の締結を検討する価値は大いにあるでしょう。
夫婦財産契約については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|夫婦財産契約(婚前契約)によって夫婦間のルールを設定できる

本記事では、経営者の離婚に関するいろいろな問題点を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に夫婦の一方が経営者である場合のトラブルに直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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