1 婚姻関係の「破綻」が問題となる状況と判断基準の共通性
2 「破綻」が問題となる状況
3 それぞれの「破綻」の判断の実情
4 離婚原因と不法行為責任の「破綻」の相違肯定説
5 離婚原因と不法行為責任の「破綻」の相違否定説
6 有責性判断・不法行為責任・離婚原因の「破綻」の同義性

1 婚姻関係の「破綻」が問題となる状況と判断基準の共通性

婚姻関係(夫婦関係)が「破綻」しているかどうか、という判定は、いろいろな場面で登場します。この判定によって、いろいろな法的扱いが違ってくるのです。
この点、「破綻」の意味は、状況によって違ってくる、つまり、判断基準は違ってくるのか、そうではなくて共通なのか、という問題があります。本記事ではこのことを説明します。

2 「破綻」が問題となる状況

婚姻関係が「破綻」していることが問題となる状況、つまり、「破綻」しているかどうかで法的扱いが決まる、という状況は主に4つ挙げられます。最初にこれを押さえておきます。

「破綻」が問題となる状況

あ 離婚原因

婚姻関係が「破綻」していることは離婚原因(の1つ)である
詳しくはこちら|離婚原因の意味・法的位置付け

い 有責性の判断

離婚請求をする者が有責であった場合、離婚請求は原則として否定される
しかし、婚姻関係破綻後の行為は有責ということにはならない
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)

う 不法行為責任の判断

夫婦の一方との性交渉が、婚姻関係破綻後であれば不法行為責任(慰謝料)は発生しない
詳しくはこちら|夫婦の一方との性交渉が不法行為になる理論と破綻後の責任否定(平成8年判例)

え 婚姻費用の判断

婚姻関係が破綻している場合、婚姻費用分担金を減額する見解がある
詳しくはこちら|婚姻関係の破綻と婚姻費用の関係(どのように影響するかの複数の見解)

お 同居義務に基づく居住権(参考)

婚姻関係が破綻していても、同居義務に基づく居住権は否定されない
詳しくはこちら|夫婦間の明渡請求(民法752条に基づく居住権)

3 それぞれの「破綻」の判断の実情

前述のように、「破綻」が登場する場面はいくつかあります。それぞれの「破綻」について、判定の相場(傾向)があります。
離婚原因としての「破綻」が認められる典型的状況のひとつは、長期間の別居です。目安として3年から5年程度の別居です。
詳しくはこちら|長期間の別居期間は離婚原因になる(離婚が成立する期間の相場)
不貞慰謝料の請求(不法行為責任)の場面では、別居後3か月破綻後であるから慰謝料を否定する、という判例があります。
詳しくはこちら|不貞慰謝料請求(不法行為責任)における「破綻」判定の実例

4 離婚原因と不法行為責任の「破綻」の相違肯定説

前述のように、「破綻」が認められるための別居期間に着目すると、離婚原因としての「破綻」と、不法行為責任判断における「破綻」は別の意味(判断基準)なのではないか、という発想が出てきます。

離婚原因と不法行為責任の「破綻」の相違肯定説

あ 西原氏見解

同じ破綻でも、離婚原因としての「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法七七〇条一項五号)の場合は、通常、五年、一〇年ないしはそれ以上の別居期間の後にはじめて認められている。
不法行為責任を否定するための事情としての「破綻」は、それよりもはるかに短かい期間で、また内容的にも簡単に認定されているが、はたして妥当であろうか。
※西原道雄稿『婚姻関係破綻後に夫婦の一方と肉体関係を持った第三者の他方に対する不法行為責任』/『私法判例リマークス1997(上)平成8年度判例評論』日本評論社1997年p71

い 離婚判例ガイド

(不法行為責任判断の「破綻」について)
何を「破綻」とみるかについては、おおむね判例は、夫婦の「別居」が先行している場合に破綻していたと判断するようであり、別居後に婚外関係が発生しても、第三者の不法行為責任は発生しないとしている。
離婚訴訟で離婚原因を判断する際には、判例は、別居が開始したからといって直ちに破綻していると評価するわけではないので、離婚原因としての破綻と、不貞の相手方の不法行為責任を判断する際の破綻は、同意義ではないともいえる。
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p161

5 離婚原因と不法行為責任の「破綻」の相違否定説

一方、理論的には、2種類(以上)の「破綻」があるわけではないという指摘もあります。少なくとも、平成8年判例は、「2種類の破綻がある」という判断を示したわけではないと思われます。

離婚原因と不法行為責任の「破綻」の相違否定説

西原・前掲七一頁は、不法行為責任を否定するための事情としての「破綻」は、離婚原因としての破綻よりもはるかに短い別居期間で、また内容的にも簡単に認定されているといわれる。
しかし、本判決(最判平成8年3月26日)の趣旨は、本文に述べたとおりであり、右指摘のようなところにはない。
※田中豊稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度』法曹会1999年p257

6 有責性判断・不法行為責任・離婚原因の「破綻」の同義性

実務では、複数の状況での「破綻」の意味や判断基準は同じ(共通である)という見解が一般的です。

有責性判断・不法行為責任・離婚原因の「破綻」の同義性

あ 有責性判断における「破綻」

最二小判昭和四六・五・二一民集二五巻三号四〇八頁は、「夫が、妻以外の女性と同棲し、夫婦同様の生活を送っている事実があっても、これが妻との婚姻関係が完全に破綻した後に生じたものであるときは、右事実をもって夫からの離婚請求を排斥すべき理由とすることはできない。」と判示し、離婚請求の許否というコンテクストにおいて、婚姻関係破綻後の配偶者以外の者との肉体関係ないし同棲をもって「有責行為」とはみないことを明らかにしていた。

い 有責性判断と不法行為責任判断の「破綻」の同義性

右最高裁判決中の「完全に破綻」と本判決(最判平成8年3月26日)中の「既に破綻」とは同意義であると考えてよかろう。

う 不法行為責任判断と離婚原因の「破綻」の同義性

すなわち、本判決は、婚姻関係が完全に復元の見込みのない状態に立ち至っていることをもって「既に破綻」といっているのであって、裁判上の離婚原因としての「破綻」よりも婚姻関係の悪化の程度が軽い場合であっても第三者の不法行為責任が阻却されるとの趣旨をいうものではない
※田中豊稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度』法曹会1999年p248、249

本記事では、婚姻関係の「破綻」が問題となる状況と、それぞれの状況における「破綻」の意味や判断基準が共通している、ということを説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に夫婦や男女関係の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。