1 養育費・婚姻費用の算定における給与所得者の総収入の認定
2 給与所得者の総収入の認定(基本)
3 給与支払明細書(給与明細)による収入の把握
4 残業手当の扱い
5 同族会社の取締役の報酬の扱い

1 養育費・婚姻費用の算定における給与所得者の総収入の認定

養育費・婚姻費用の金額を計算する時には,(元)夫婦や両親の収入を元にします。総収入といいます。
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用分担金の金額算定の基本(簡易算定表と具体例)
給与所得者の総収入は,通常であれば源泉徴収票の支払金額を使います。しかし,特殊な事情がある場合には,単純には総収入の金額を決められないこともあります。
本記事では,給与所得者の総収入の認定に関する問題を説明します。

2 給与所得者の総収入の認定(基本)

給与所得者の収入は,要するに給与・賞与や手当などで,特定の勤務先(会社)が定期的にまとめて支払っています。そこで金額を認定するのは容易です。
具体的には,源泉徴収票の支払金額総収入ということになります。源泉徴収票のデータは,ほかの公的なデータとしても記録されています。
特に,複数の事業者から給与をもらっているケースでは,複数の源泉徴収票を集計するよりも所得証明書などの既に合算されたものを使うことが多いです。一部の収入の把握漏れ(隠蔽)を避けることにもなります。

<給与所得者の総収入の認定(基本)>

あ 用いる金額

基本的には,源泉徴収票の支払金額による

い 他の資料の例

市町村発行の所得証明書
市民税などの徴収税額の決定通知書

う 複数の収入源の把握

複数の収入源がある場合
→『ア〜ウ』のような資料を用いる
ア 市町村発行の所得証明書
イ 市民税などの徴収税額の決定通知書
ウ 課税台帳記載事項証明書
※松本哲泓稿『婚姻費用分担事件の審理−手続と裁判例の検討』/『家庭裁判月報 平成22年11月=62巻11号』最高裁判所事務総局p42

3 給与支払明細書(給与明細)による収入の把握

実際には,源泉徴収票ではなく,毎月の給与明細を使って年収を認定することもあります。
この点,給与明細は,性質的に源泉徴収票(の支払金額)とは違うところがあります。源泉徴収票の支払金額は課税対象となる収入(だけ)が記載されています。一方,給与明細に記載された支給額の中には,課税対象ではない収入も含まれています。そこで,総収入の計算では非課税所得は加算しない(加算後のものから差し引く)必要があります。
非課税所得の典型は通勤費です。しかし,広く使われている標準的算定方式で,基礎収入を算出するプロセスの中で通勤費を差し引く計算がなされています。そこで通勤費については給与明細の支給額から差し引かない(で総収入を集計する)ことも多いです。

<給与支払明細書(給与明細)による収入の把握>

あ 非課税所得の除外

給与支給明細書(給与明細)により収入を特定する場合
非課税所得は加えない扱いをする

い 通勤費の扱い

ア 問題点
支給される通勤費(交通費)非課税所得である
しかし,通勤費は(標準的算定方式の)職業費に含まれる
=後で差し引くことになる
イ 一般的扱い
通勤費が標準的な額であれば加算する扱いもある
ウ 例外的扱い
通勤費が多額である場合
→標準的算定方式の中の標準的な額を超える部分は加算しない
※松本哲泓稿『婚姻費用分担事件の審理−手続と裁判例の検討』/『家庭裁判月報 平成22年11月=62巻11号』最高裁判所事務総局p42

4 残業手当の扱い

給与所得者の収入の中で,残業手当(残業代)は特殊な性質があります。文字どおり定時の就労の対価ではない,つまり,固定的に得られるものではないのです。当然ですが,残業が発生しない月には残業手当も発生しません。
要するに,たまたま今年だけは多くの残業手当が出ただけで来年は激減するということもあります。そこで,残業手当分を差し引いて,今後の収入として適正なものに修正すべきだという発想もあります。しかし,実務では,今後残業が少なくなる明確な理由(根拠)がない以上は修正しない(残業手当分を差し引かない)という傾向があります。

<残業手当の扱い>

あ 残業手当の特徴

残業手当は,固定給ではない
→将来減少する可能性がある

い 実務的な扱い

減少が認定できない以上は,過去の実績程度の収入が今後もあるものと認定する
※松本哲泓稿『婚姻費用分担事件の審理−手続と裁判例の検討』/『家庭裁判月報 平成22年11月=62巻11号』最高裁判所事務総局p42

5 同族会社の取締役の報酬の扱い

取締役として役員報酬を得ている方も,税務上は給与所得者の扱いとなりますので,総収入としては源泉徴収票の支払金額を使います。養育費・婚姻費用の計算では一般のサラリーマンと同じ枠組みとなります。
しかし,家族経営の会社などのように,自分自身の報酬金額を(ある程度)自在に変えられる実情もよくあります。これは一般のサラリーマンにはない特徴です。
そこで,事情によっては,源泉徴収票の支払金額をそのまま総収入として使うことはせず,修正することが必要になることもよくあります。

<同族会社の取締役の報酬の扱い>

あ 同族会社の役員報酬の特徴

同族会社の取締役は,報酬額を自身の意思で変更することができる立場にあることが多い
報酬額は,税金対策など様々な事情の影響を受けやすい

い 会社の営業内容の調査

源泉徴収票では不十分と思われる事情がある場合
資料として,源泉徴収票のほかに確定申告書などにより,会社の営業内容をも検討することもある
※松本哲泓稿『婚姻費用分担事件の審理−手続と裁判例の検討』/『家庭裁判月報 平成22年11月=62巻11号』最高裁判所事務総局p43

自分自身の収入の金額をコントロールできる状況にあるケースでの修正の方法や実例については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|コントローラブルな低収入(減額)と潜在的稼働能力による収入の擬制

本記事では,給与所得者の総収入の認定の問題を説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に養育費や婚姻費用に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。