【コントローラブルな低収入(減額)と潜在的稼働能力による収入の擬制】
1 コントローラブルな低収入(減額)と潜在的稼働能力による収入の擬制
養育費や婚姻費用の金額を算定する際、(元)夫と妻の両方の収入を使います。しかし、現実の収入(実収入)が不当に低い(またはゼロ)場合には、潜在的稼働能力による収入を推定して、その金額を収入として用いることがあります。
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用の算定における潜在的稼働能力による収入の擬制
実際に問題となる事情の1つに、収入の減額に影響を与える立場にある者が自身の収入を低く抑えることに関与したケースがあります。収入が低くなるように実質的にコントロールした状況です。具体的には報酬や給与を減額したケースと、元から低い金額であったケースがあります。
本記事では、低い収入への影響がある場合の(養育費・婚姻費用の計算上の)扱いについて説明します。
2 コントローラブルな低収入のケースの扱い(基本)
自分自身が収入金額を決定する立場にはないのであれば、不当に収入金額を下げたとはいえません。この点、決定する立場にはなくても、実質的に影響を及ぼすことができる立場にあるケースもあります。このようにコントロール可能な立場にあり、実収入の金額に合理性がないのであれば、不当に低い金額といえます。その場合は、潜在的稼働能力によって収入を推定(擬制)するべきです。
コントローラブルな低収入のケースの扱い(基本)
あ 前提事情
Aの収入が低い状態にある
Aは収入に影響を与え得る立場にある(コントローラビリティ)
い 基本的な扱い
低い収入に合理的な理由がない
→潜在的稼働能力による収入の擬制を行う
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定−裁判官の視点にみる算定の実務−』新日本法規出版2018年p89
3 多数株式を有する代表取締役による報酬減額
実質的に収入の金額にコントロールを及ぼすことができる立場とは、具体的にどのような状況なのかを以下説明します。
まず、会社と委任契約を締結した役員という立場であるとともに、多くの割合の株式を持つ株主であるというケースです。会社法の規定上も、実情としても、自身の役員報酬を決定できる立場にあったのです。
役員報酬の減額がありましたが、裁判所は、相手を不利にするためだけの操作であると判断しました。そこで、減額前の収入を計算の中で使うことにしました。
多数株式を有する代表取締役による報酬減額
あ 報酬の減額
夫が会社の代表取締役であった
夫の役員報酬が減額となった
その後夫は(代表)取締役を辞任した
い 減額のタイミングと支配権
2回の報酬の減額は、婚姻費用の調停の第1回期日の前後と調停が不成立となり審判手続に移行した直後に行われている
夫は勤務先のA会社の過半の株式を有する実質的な経営者であった
う 収入の認定
夫は実質的に自らの報酬額を決定できる立場にある
減額は、妻への婚姻費用分担額を低額に押さえる目的でなされたものである
→減額前の収入を基礎として婚姻費用分担額を算定する
※大阪高裁平成19年3月30日
4 父親が経営する会社による役員報酬の減額
夫が取締役として報酬を得ていましたが、会社は(夫の)父親が経営しているというケースです。夫婦間のトラブルが具体化した時点で報酬が減額されました。
不当に、養育費の金額を低くする目的で減額したものと判断され、減額前の報酬額を元にして養育費の金額を算定することになりました。
父親が経営する会社による役員報酬の減額
あ 報酬の減額
夫は父親が経営する会社の取締役であった
同居中は月額38万円の報酬を得ていた
別居直前に月額28万円に減額となった
い 収入の認定
源泉徴収票記載の額は収入の実態を反映していない
夫は、養育費の額を低くするために報酬を減額するかのような発言をしていた
減額前の収入を基礎として養育費の算定をする
※大阪高裁平成21年11月13日(養育費)
5 叔父経営の会社による不当な給与額→賃金センサス
以上は報酬や給与を減額したケースでした。以下、元から報酬や給与の金額が不相当に低かったケースを紹介します。
父(元夫)は会社員として給与を得ていましたが、勤務先は叔父が経営する会社でした。年間の収入が150万円台と異様に低いものでした。
裁判所は、不当に低く操作されていると考え、この金額は使わずに、賃金センサスによる平均的な収入額を基礎とすることにしました。
叔父経営の会社による不当な給与額→賃金センサス
あ 事案
父は、叔父の経営する会社に勤務していた
源泉徴収票、給与支払証明書では年間収入が150万円台であった
い 給与額の異常性
給与(収入額)がパート従業員の時給よりも低い
大阪府の最低賃金よりも低い
う 賃金センサスによる推計
父は、母親を扶養し、車を保有している
収入額には疑問がある
賃金センサスを用いて収入を推計した
※大阪高裁平成16年5月19日
6 親族経営の会社による不当な給与額→賃金センサス
形式的には給与が月額6万円であったというケースです。実情としては、父が勤務先の経営者であり、意図的に低い収入に抑えていたといえるものでした。就労の内容と比べて、極端に低い給与の金額だったために、不当なものであるとして、統計上の収入金額を計算の中で使うことになりました。
親族経営の会社による不当な給与額→賃金センサス
あ 事案
(子から父への扶養料請求について)
夫(父)は収入が月額6万円であると主張した
夫の勤務先の経営者は夫の父親であった
夫には稼働能力に影響を及ぼすような疾病などはない
い 収入の認定
夫に対する給与の額などの勤務条件については夫の意向が大きく影響する
一般より著しく低額な収入額を未成熟子の扶養料算定の基礎とすることはできない
夫の年齢、学歴、資格から、年額300万円程度の収入を得られる潜在的稼働能力を有する
この金額を扶養料算定の基礎とする
※大阪高裁平成21年5月25日
7 事業所得者の総収入の認定の問題(参考)
以上は、実際に得ている収入金額は判明しているが不当であるという状況についての説明でした。
ところで、事業所得者は、経費の水増しなどによって、確定申告書などの公的資料が、実質的な収入金額を示していないこともよくあります。そのようなケースでは、計算上、不正な操作を戻すような対応が必要となってきます。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用の算定における事業所得者の総収入の認定
本記事では、自分自身が実質的にコントロールを及ぼして低い収入にしているケースで(養育費や婚姻費用の金額の計算の中で)救済的に収入の推定(擬制)を行う扱いを説明しました。
実際には、個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることもあります。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
多額の資金をめぐる離婚の実務ケーススタディ
財産分与・婚姻費用・養育費の高額算定表
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
相続や離婚でもめる原因となる隠し財産の調査手法を紹介。調査する財産と入手経路を一覧表にまとめ、網羅解説。「ここに財産があるはず」という閃き、調査嘱託採用までのハードルの乗り越え方は、経験豊富な講師だから話せるノウハウです。


