【死亡生命保険等は被保険者の同意が必要,事情によっては被保険者が解除請求できる】
1 死亡生命保険に加入する時は『被保険者』の同意が必要
契約者以外の者を被保険者とする死亡生命保険に加入する場合、被保険者の同意が必要です(保険法38条;旧商法674条1項)。
これは、夫婦であっても、それ以外の関係の者であっても適用されます。
同意がないと保険契約は無効とされます。
被保険者の同意が必要な趣旨
・「人の死」を賭博として使われること自体が常識に反すると考えられる
・無断で被保険者とされた者が精神的に嫌悪感を持つ(人格権侵害)
2 障害疾病定額保険に加入する時は『被保険者』の同意が必要
死亡生命保険と同様に、被保険者の同意がないと、障害疾病定額保険も無効となります(保険法67条)。
趣旨は、死亡生命保険のルール(保険法38条)と同様です。
平成22年の保険法施行以前に存在した商法674条の解釈では、障害疾病保険への適用については解釈が分かれていました。
しかし、平成20年に制定された保険法では、明文をもって、障害疾病定額保険についても、被保険者の同意が効力要件とされるに至っています。
3 夫婦関係が極端に悪化→『被保険者』が生命保険の解除請求をできる
生命保険の契約締結後に、「被保険者」から解除請求が認められることがあります。
具体的事例を用いて説明します。
事案
被保険者=妻
受取人=夫
↓
その後、夫婦の仲が悪化した。
保険契約スタート当初は、被保険者(妻)が保険契約者(夫)を信頼している状態だったはずです。
信頼しているからこそ、保険加入について、被保険者(妻)が同意をして、契約がスタートしたはずです。
現時点では、この「信頼」が崩れているということになります。
そこで、契約締結後に、信頼が損なわれ、契約の存続を困難とする重大な事由が生じた場合は、契約の解除ができるとされています(保険法58条1項2号)。
では、実際にこのような「重大な事由」と言えるほどの信頼失墜はどの程度か、ということについては、明確・画一的な基準があるわけではありません。
「夫婦仲が悪化」した、という抽象的なものでは、解除が認められにくいです。
極端に仲が悪化した場合、例えば傷害事件に発展した場合や極端に侮辱したような場合であれば、解除が認められるでしょう。
また、離婚に至る、つまり、正式・法的な身分関係に変化が生じたような場合はまた別です。
なお、信頼失墜が「重大な事由」に該当する場合にできることは「契約解除の請求」です。
受取人や被保険者の変更など、契約内容の「変更」を請求することは法律上規定されていません。
任意の「提案」として伝えることはもちろん可能です。
4 離婚→『被保険者』が生命保険の解除請求をできる
上記「3」の状況から、さらに夫婦関係が悪化して離婚に至った場合について説明します。
離婚に至った場合は、保険契約の解除請求が認められる可能性が高いです。
保険法上「親族関係の終了」は、解除事由として明記されています(保険法58条1項3号)。
このような場合は、保険加入時の同意、という前提事情が大きく異なっていることが類型的に明らかだからです。
そこで、一般的に、保険契約の解除請求が認められやすくなっています(保険法58条1項3号)。
条文上は「同意をするにあたって基礎とした事情が著しく変化した場合」ということも要件とされています。
ただし、離婚した場合は、肯定される可能性が高いです。
なお、この場合に可能な請求は「解除請求」です。
法律上では、受取人や被保険者を変更するような「契約内容の変更請求」が認められるわけではありません。
もちろん、任意の提案として伝えること自体は禁止されていません。
5 保険料が夫婦共有財産であれば、生命保険は財産分与の対象となる(参考)
実務上、離婚に際して、生命保険類をどちらかが承継するということが多いです。
「財産分与」の対象である「夫婦共有財産」とされるかどうかについて説明します。
生命保険はその名義(=保険契約者)が夫、妻のどちらであっても、夫婦共有財産となる可能性があります。
夫婦共有財産の判断は、実質的に「夫婦の協力によって築いた財産」かどうか、ということがポイントです。
具体的に、生命保険の場合、その原資である保険料(掛金)がどこから出ているか、ということによって決まります。
例えば、夫婦であった期間中の夫の給与、ということであれば、元々給与自体が夫婦共有財産なのだから、蓄積である保険も夫婦共有財産になる、ということです。
いわば、預貯金と同じ扱い、ということです。
解約返戻金額相当の金融資産、として扱う、つまり返戻金相当額の預金と同様に考えることが多いです。
詳しくはこちら|財産分与の対象財産=夫婦共有財産(基本・典型的な内容・特有財産)
本記事では、生命保険の契約には被保険者の同意が必要であることなどについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に生命保険の内容に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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