1 不倫の慰謝料を学説と過剰婚姻費用で棄却にした裁判例
2 既婚者の交際(不倫)の事案
3 男性の連れ子と不倫女性の家族的な同居
4 裁判所は不倫の慰謝料の制限説を採用した
5 裁判所は婚姻費用の過剰送金を慰謝料の趣旨とした
6 慰謝料請求についての判断(結論)

1 不倫の慰謝料を学説と過剰婚姻費用で棄却にした裁判例

既婚の男性が妻以外の女性と交際をすることは,いわゆる不倫(不貞行為)です。
通常,妻から不倫相手への慰謝料請求が認められます。
詳しくはこちら|不倫相手の慰謝料の相場は200〜300万円(減額される事情もある)
提訴を受けた女性としては,既婚と知らなかったとか夫婦は破綻していたという反論をして棄却を狙うことが多いです。
詳しくはこちら|不倫の慰謝料請求における実務的攻防(関係回復誘引・権利濫用・訴訟告知・冤罪リスク)
本記事では,このような典型的な反撃ができないケースで,学説(見解)と婚姻費用という一見関係のない事情を活用して慰謝料請求を棄却にした裁判例を紹介します。

2 既婚者の交際(不倫)の事案

事案は,いわゆる不倫の関係です。
不倫の関係となった男女の両方ともが既婚でした。
しかも,いずれの婚姻関係も(仲は良くないけれど)破綻していない状況でした。

<既婚者の交際(不倫)の事案>

あ 既婚者の交際

既婚男性Aは婚外女性Bと学生時代から知り合いであった
Bも既婚者であった(夫がいた)
AとBは男女交際をするに至った

い 当時の夫婦関係(破綻なし)

既婚男性Aと正妻Cは仲が悪くなった
しかし破綻する程度には至っていなかった
AはCに対して離婚を求め離婚調停を申し立てた
しかしCは離婚に応じず,調停は不成立によって終了した
Bも夫に対して離婚調停を申し立てたが不成立によって終了した

3 男性の連れ子と不倫女性の家族的な同居

不倫の関係の2人は,その後,同居するに至ります。しかも,男性Aが2人の子を連れてきていました。
重婚的ではありますが,A・Bは事実婚(内縁)と思えるような状況でした。
正妻C(本当の妻)が,不倫相手の女性に対して慰謝料請求の訴訟を提起しました。

<男性の連れ子と不倫女性の家族的な同居>

あ 夫婦の別居と新たな婚外家族形成

その後,Aは子2人を連れて家を出て,Cと別居した
そして,A・子2人とBは同居を始めた
この4人は夫婦・親子のように生活していた

い 正妻からの慰謝料請求

BはCに対して慰謝料請求訴訟を提起した

4 裁判所は不倫の慰謝料の制限説を採用した

以上のような不倫関係があったので,女性Bは慰謝料を支払うことになるのが通常です。
しかし,主張として有効だったものの1つは,一般的な貞操侵害の学説です。
具体的には,不倫相手Bと妻Cは契約関係がないことから,BからCへの慰謝料請求を制限する見解です。
このケースでは,妻Cは夫Aへは慰謝料請求をしない意向が明確になっていました。
この事情も含めて,裁判所は慰謝料請求を否定する方向で判断しました。

<不倫の慰謝料の制限説>

あ 貞操侵害の制限説の採用

貞操の侵害は配偶者の自由意思に依存するものである
一方配偶者(C)から不貞の第三者(B)に対する賠償請求は制限すべきである
詳しくはこちら|不倫の責任に関する見解は分かれている(4つの学説と判例や実務の傾向)

い 配偶者への請求回避の不均衡

本件でCはAに対して賠償請求をしていない
=配偶者を許して第三者(B)にだけ賠償請求している
これは不均衡である

う 攻撃的な意図の不存在

Bは自然な情愛によりAとの性的関係に至った
→BがCの権利や利益を侵害する目的でAに近づいたわけではない

5 裁判所は婚姻費用の過剰送金を慰謝料の趣旨とした

ところで,A・C夫婦の別居中に夫Aは妻Cに婚姻費用分担金(生活費)を送金していました。
詳しくはこちら|別居中は生活費の送金を請求できる;婚姻費用分担金
この金額が通常の相場よりも高かったのです。この点を捉えて過剰送金分慰謝料の趣旨であるという主張をしました。
裁判所はこの主張を採用しました。

<婚姻費用の過剰送金の性質>

あ 婚姻費用分担金の過剰送金

Aは,Cと別居後,毎月70万円の婚姻費用分担金を送金している
一方,適正婚姻費用は毎月42万円である

い 慰謝料としての性質

超過分の月額20万円程度は実質的に不貞・婚姻生活破壊の慰謝料である
総額は3年分720万円である

6 慰謝料請求についての判断(結論)

以上のように,裁判所は慰謝料を否定する方向の見解と事情を採用・認定しました。
結論として,妻Cからの慰謝料請求を棄却できました。

<慰謝料請求についての判断(結論)>

あ 特殊事情

BがCに対して賠償すべき額は小さい
Cは実質的な慰謝料を受領している
→損害は填補済みである

い 結論

CからBへの慰謝料請求は認めない
※東京地方裁判所平成15年6月24日

本記事では,不倫の慰謝料請求の訴訟において,不倫相手の女性からの反論で棄却とした裁判例を紹介しました。
実際の裁判では,見解や事実の認定について,やり方次第で大きくぶれます。
みずほ中央法律事務所では,本サイトの実例は当然として多くの裁判例や学説を踏まえて最適な主張・立証を選択しています。
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