1 養育費と有責性との関係
2 有責の意味(前提)
3 有責性の養育費への影響
4 有責配偶者の養育費請求を権利濫用とした判例
5 父と子の法的関係を解消できなかった経緯

1 養育費と有責性との関係

離婚後の元夫婦の間で養育費の支払が行われます。
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用の請求の全体像(家裁の手続や管轄・金額計算・始期と終期)
ここで,離婚した原因が一方の不倫(有責)であった場合は,責任のある者が養育費を請求することに問題がないのか,という発想があります。
本記事ではこのような,養育費と有責性の関係について説明します。

2 有責の意味(前提)

最初に,大前提となる,有責の意味を押さえておきます。婚姻関係を破綻させた原因を作ったという意味です。主に不貞行為(不倫)のことです。

<有責の意味(前提)>

有責とは,婚姻関係破綻の原因を作出したという意味である
典型例=不貞行為
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)

3 有責性の養育費への影響

養育費の中身は,(元夫婦の)子供の生活費(扶養義務)です。両親の間の事情が子供の生活の保護を害することになったとしたら不合理です。
そこで,原則として両親の一方の有責性は養育費の請求に影響しません。特殊な事情がある場合には例外的に養育費の請求が認められないこともあります。

<有責性の養育費への影響>

あ 原則

権利者(監護者)に婚姻関係破綻の責任がある場合でも
子は両親の有責性と無関係である
養育費は有責性による影響を受けない

い 例外

例外的に,請求が権利の濫用となることもある(後記※1)
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定−裁判官の視点にみる算定の実務−』新日本法規出版2018年p36
※森公任編著『簡易算定表だけでは解決できない養育費・婚姻費用算定事例集』新日本法規出版2015年p169

4 有責配偶者の養育費請求を権利濫用とした判例

実際に特殊な事情があったために養育費の請求が認められなかった実例を紹介します。
要するに,血縁関係はない(けれど法律上の親子関係はある)親に対する養育費の請求だったのです。不自然ではありますが,法的な親子関係がある以上,扶養義務があるので養育費の請求は認められるはずです。
しかし,内容をみると,夫をだまして法律上の父にしてしまったといえる状況でした。
裁判所が救済的に養育費請求を否定したといえます。

<有責配偶者の養育費請求を権利濫用とした判例(※1)>

あ 婚姻中の不貞と出産

妻が,夫以外の男性と性的関係をもち,男児を出産した

い 妻の離婚+監護費用分担の請求

妻は,(離婚とともに)監護費用の分担を求めた

う 原則的な法的扱い

男児は夫との間に法律上の親子関係はある(後記※2)
→監護費用(実質的な養育費)の分担請求は認められる

え 否定する必要性(特殊性)

妻は出産後に,子と夫との間に自然的血縁関係がないことを知った
しかしこのことを夫に告げなかった
そのために夫は親子関係を否定する法的手段を失った(後記※2)

お 否定する許容性

夫は婚姻中,相当に高額な生活費を妻に交付して子の養育・監護のための費用を十分に分担してきた
離婚後の子の監護費用を専ら妻において分担することができないような事情はうかがわれない

か 結論

妻の監護費用の分担請求権利の濫用にあたる
→請求を認めない
※最高裁平成23年3月18日

5 父と子の法的関係を解消できなかった経緯

前記の事案で,血縁関係がない者同士なのに法律上の親子関係ができてしまった経緯を説明します。
嫡出否認の訴えにより法律上の親子関係を解消できるのですが,厳しい申立期間制限があります。夫(法律上の父とされてしまった者)が,自分の子ではないことを知ったのがすでにこの期限が切れた時だったのです。
一方,親子関係不存在確認の訴えは,申立期間制限がありません。そこで夫はこの訴えを提起しました。しかし,親子関係不存在確認の訴えを利用できるのは,別居していて自分の子供が生まれるはずがないという状況がある場合に限定されます。推定が及ばないといいます。このケースでは,妊娠した時期に夫と妻が別居しているという事情はありませんでした。そこで,親子関係不存在確認の訴えは却下されてしまいました。
結局,法律上の親子関係は解消されない状態で確定したのです。

<父と子の法的関係を解消できなかった経緯(※2)>

あ 夫の嫡出否認の訴え(不可)

夫が男児とは血縁関係がないことを知った時点において
すでに申立期間が経過していた
→夫は嫡出否認の訴えを提起できなかった
詳しくはこちら|嫡出否認・申立期間制限|DNA鑑定との関係・見解の対立・最高裁判例

い 夫の親子関係不存在確認の訴え

夫は親子関係不存在確認の訴えを提起した
妊娠,出産時に婚姻関係は存続していた
→訴えは却下された
詳しくはこちら|親子関係・手続|分類|『及ばない』|典型例・法的扱い
※最高裁平成23年3月18日

本記事では,夫婦の一方の有責性が養育費にどのように影響するかという問題について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に養育費に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。