監護権や親権を獲得できた場合でも,相手が子供の引渡しを拒否したらどうなるのでしょうか。

1 子供の引渡を実現するためには強制執行を利用する
2 子供の引渡しの強制執行方法
3 直接強制/間接強制の選択は裁判所の裁量が大きいが,最近は直接執行も増えつつある
4 子供の引渡しの直接強制に関する統計
5 子供の引渡しの強制執行方法に関する裁判例は見解が分かれている

1 子供の引渡を実現するためには強制執行を利用する

審判で親権者や監護権者と指定され,これが確定した後も,負けた方の親が子供を素直に引き渡さない,ということが起きることがあります。
このような場合,審判が確定していれば,これを実現する強制手段があります。
強制執行と言います。
裁判所に強制執行を申し立てることができます。

2 子供の引渡しの強制執行方法

具体的な子供の引渡しの強制執行の方法は,裁判所に裁量があります。
基本的に2種類のどちらかとなります。

(1)間接強制

履行しない親に対し,間接強制金の支払を命じる方法です。
一種の罰金のようなものです。
間接強制金について支払わない場合は,財産の差押をすることができます。

(2)直接強制

裁判所の執行官が,現地に赴き,直接子供を引き取る方法です。
動産の引渡についての強制執行の方法の流用です。
立てこもった場合には,解錠することも認められています。
合法的ピッキングです。
この点,面会交流については直接強制が否定されています。子供の引渡しとは扱いが違うのです。
詳しくはこちら|面会交流妨害への履行勧告と間接強制(間接強制金の相場)

3 直接強制/間接強制の選択は裁判所の裁量が大きいが,最近は直接執行も増えつつある

(1)強制執行の方法の選択は裁判所に裁量がある

申立人としては,物理的・(原理的に)確実に子供を確保できる直接強制を望むのが一般的です。
しかしそもそも,法律などの明文に,子供の引渡しについての強制執行の方法,について規定がありません。
そこで,裁判所が裁量によって適切だと思われる方法を選択している,というのが実情です。

(2)直接強制/間接強制それぞれの理由

統一的見解なり規定はありません。
手続きの運用がばらけています。

直接強制を否定する見解では,結果的に間接強制が選択されます。
そこで,直接強制を肯定する理由・否定する理由をそれぞれ説明します。

<子供の引渡しの直接強制に関する賛否>

あ 直接強制に反対する理由

 ・子供にも人格があり,強引な拉致は福祉に反する。
 ・子を物と同様に扱うことになる(子の福祉に反する)。
 ・明文規定がない。

い 直接強制に賛成する理由

 ・間接強制に応じない者には,間接強制は実効性がない(財産があってもなくても)。
 ・直接強制を認めないと,かえって自力救済を助長することになる。
 ・直接強制であっても,速やかに実現することが,結果的に子の福祉に資する。

4 子供の引渡しの直接強制に関する統計

平成24年初めに,初めて,子供の引渡しの強制執行方法について,公式に,最高裁が統計を取りました。
その結果,平成23年において,全国で,執行官が子供の引渡しの直接強制を実施した数は120件でした。

それまでは,統一的な統計はありませんでした。
実務の感覚としては,従前は基本的に間接強制が採られていました。
少なくとも平成10年頃までは直接強制が採用されることはレアでした。
その後,徐々に直接強制を採るケースも散見されるようになっていました。
少子化により,親権・監護権の争いが熾烈化し,審判確定後も審判を無視して強固に子供の引渡しを拒否する,というケースが増えてきたことの影響だと思われます。
まさに,ユーザーである親権・監護権を獲得した親が,実際に子供を確保できるかどうか,不安定であり,困っている状態です。
これを受けて,最高裁として,まずは統計を取った上,指針作成など,統一的な運用を確立する方針となっています。

5 子供の引渡しの強制執行方法に関する裁判例は見解が分かれている

子供の引渡しについて直接強制を認める見解,認めない見解のそれぞれが,裁判例として現れています。
肯定的見解,否定的見解,折衷的見解に分けてまとめます。

敢えて,蓄積された多くの裁判例を読み込んだ結果をまとめると次のようになります。

<子供の引渡しの強制執行方法に関する裁判例のまとめ>

※後掲裁判例1,裁判例2,裁判例3,裁判例4

あ 審判等による子供の引渡しを拒む者の不合理性

不合理性が強い場合は,強力な対抗策としての直接強制を認める方向に働きます。

い 子供自身が引き渡されることを望んでいる(望まれる状況にある)

要は救済すべき必要性が高ければ,強力な手段を採用する必要性も上がります。
う直接強制を採る場合は,執行時の実情に応じ,執行不能とする余地を残す。
つまり,仮に子供が不安がったり,嫌がったりする素振りを見せたら,執行を中止する,など,デリケートさに配慮した運用をすることが前提となっています。

判例・参考情報

(判例1;肯定的見解;子供の年齢=7歳9か月)
[東京地方裁判所立川支部平成21年(ヲ)第10002号執行官の処分に対する執行異議事件平成21年4月28日]
 親権ないし監護権に基づく子の引渡請求の法的性質は,単なる妨害排除請求権にとどまらず,引渡請求権としての性質をも有すると解すべきであり,その実現にあたっては,民事執行法169条に基づく動産の引渡執行の規定を類推適用して,直接強制を行うことが許されると解するのが相当である。
 仮に,子の引渡請求について間接強制しか許されないとすると,間接強制の制裁を受けても頑なに引渡しに応じない者に対しては,子の引渡しを命ずる審判がなされても,何ら実効性を伴わない画餅に帰することになりかねず,また,人身保護請求制度を利用するにしても,さらに多大な時間,費用等を要することとなり,そのような結果は,家庭裁判所の審判制度への信頼を損ない,ひいては自力救済を助長することにもなりかねず,著しく相当性を欠くものというべきである。
 もっとも,動産の引渡執行の規定を類推適用するとはいえ,執行対象が人格の主体である児童である以上,児童の人格や情操面への配慮を欠くことはできないから,執行官は,直接強制にあたり,児童の人格や情操面ヘ最大限配慮した執行方法を採るべきことはもとより当然のことである。

(判例2;肯定的見解)
[東京家庭裁判所平成7年(家)第15473号、平成7年(家)第15474号子の引渡請求事件平成8年3月28日]
未成年者両名の現状からすれば,申立人に対する引渡しを速やかに実現して,早期にその精神的安定を図ることが喫緊の課題となる。
 当裁判所は,未成年者両名の年齢,これまでの相手方の対応等を考慮すれば,本件未成年者両名の引渡しを実現する方法は,直接強制によるしかないものと考えており,また,直接強制こそが,子の福祉に叶うものであると考えていることを付言しておく。

(判例3;否定的見解)
[札幌地方裁判所平成6年(ヲ)第765号執行異議申立事件平成6年7月8日]
執行官が本件強制執行を執行官法一条一号事務として遂行し得るか否かは、結局のところ、民事執行法に基づいて幼児の引渡執行をなし得るかという点にかかっていることになる。
(略)一般に引渡執行は、執行官が債務者の目的物に対する占有を解いてこれを債権者に引き渡す方法によりなされるものである(構学上、いわゆる与える債務についての強制執行方法とされている。)から、そこには債務者による目的物に対する排他的全面的支配関係が存在することが前提である。そして、引渡執行が許される実質的根拠は、(略)国家が強制的にこれを実施しても債務者の人格尊重の理念に抵触せず、かつ、最も効果的な方法であることに求められると考える。そうだとすると、たとえ幼児であってもそこには人格の主体もしくは少なくともその萌芽を認めるのが相当であって、その引渡執行を許容するときは、親の子に対する占有ないし支配関係なるものを想定するのと同一の結果をもたらすことになり相当ではなく(本件では親権者の意思をも無視することにもなる。)、物と幼児とを同一視することはできないというべきである。しかも、この種の強制執行申立ての実質は、債務者と幼児との間の人格的接触と債権者と幼児との間のそれとの異質性を前提にしたうえで、債務者と幼児との人格的接触を遮断するとともに、債権者と幼児との間の親子の人格的接触を暫定的にせよ確保しようとするところにあると解されるのであって、人格的接触が本来的に相互交流的性格を有することからすると、幼児の引渡によって、債務者と幼児との関係と同一の関係を債権者との間で実現することにはならず、これを強制的に行うとすれば、もはや国家機関による強制的実現の許容性の範囲を逸脱するといわざるを得ない。
 これに対しては、家事審判法が仮処分命令に関する規定を設けながら、その執行に関する規定をおかなかったのは(略)、あるいは動産執行に準じてなし得るという理解がその前提として存在していたと考える余地もなくはない。しかしながら、執行法規が、執行機関の活動に確実な基礎と明確な枠組みを与えているというその存在意義と機能に徴するならば、執行機関がこれを解釈運用するにあたっては、形式的画一性を重視すべきであって、むやみに拡張ないし類推をすべきではないと考える。もちろん、当裁判所としても、執行機関が法律を解釈運用する際において、合理的裁量権行使の必要性や目的論的解釈の必要性及び合理性をも否定するものではないが、これはあくまで規定が存在する場合の解釈運用に関するものであって、執行の本質が国民の権利等に対する制限ないしその剥脱にあることに鑑みると、執行機関としては、規定の存在しない分野に踏み込んでその権限行使を行うのには極めて慎重にならざるを得ないと考える。したがって、民事執行法上、幼児の引渡を許容する明文の規定は存在しないといわざるを得ない以上、子の引渡を直接的に求める執行は許されないというべきである。

(判例4;折衷的見解)
[大阪高等裁判所昭和30年(ラ)第160号遅延賠償命令申立却下決定に対する抗告事件昭和30年12月14日]
以上諸般の特異性から考えるとぎは、子の引渡請求についての強制執行は、例えば乳幼児が不法に拉致誘拐せられている場合等の如く直接強制の方法によることが一般道義感情からも叉幼児の人権尊重の観点からも是認せられる場合においては直接強制の方法によるべきであるが、然らざる場合は民訴法第七三四条により間接強制をなすべきものと解するのが相当である。