【離婚に伴う金銭請求(清算)の期間制限(財産分与・慰謝料・養育費)】
1 離婚に伴う金銭請求(清算)の期間制限(財産分与・慰謝料・養育費)
離婚の際には、子供の親権者を決めるとともに、財産に関する清算をすることになります。具体的には、財産分与・慰謝料・子供の養育費です。これら金銭(財産)の清算については離婚が成立した後に行うこともできますが、期間制限があるので注意が必要です。
本記事では、離婚に伴う金銭の請求の期間制限を説明します。
2 財産分与は離婚成立から2年間
財産分与とは、主に、夫婦で築いた財産を夫婦で分けるというものです。
詳しくはこちら|財産分与の基本(3つの分類・典型的な対立の要因)
財産分与の請求の期間制限は、離婚が成立した日から2年です(民法768条2項)。これまでに財産分与に関して合意が成立する、または家庭裁判所に申立をしないと、それ以降は財産分与の請求はできなくなります。
2年間の期間制限は除斥期間です。つまり、(時効のような)中断・延長というものはありませんし、また、相手方の援用というものもありません。きっかり2年後に自動的に請求できなくなるのです。
2年以内に合意か裁判所の手続で財産分与の内容が決まればよいのですが、その後に、履行されない状態が5年間または10年間続くと(時効延長の措置をとっていないと)消滅時効が完成します。
財産分与の期間制限
あ 期間制限
ア 規定
財産分与は、離婚の際、あるいは離婚後2年以内に、協議により決定(合意)、または家庭裁判所に請求する
※民法768条2項ただし書
イ 「家庭裁判所への請求」の内容
家事調停の申立
審判の申立
離婚訴訟における附帯処分としての財産分与の申立
い 性質
2年間の期間制限は除斥期間である
※仙台高決平成16年11月26日
う 決定した内容の期間制限
財産分与の内容を合意した場合は5年の消滅時効が適用される
裁判所の判決、審判が確定した場合は10年間の消滅時効が適用される
※民法166条1項1号、169条1項
3 共有物分割は無期限
住宅(不動産)が夫婦の共有となっているケースはとても多いです。通常、離婚の際に財産分与として共有不動産の清算をします。しかし、状況によっては、離婚の時には共有のままにしておいて、後から共有物分割として清算をすることもあります。共有物分割には期間の制限はありません。
裁判例の中には、共有物分割訴訟の中で、夫婦の清算(実質的な財産分与)をしたものもあります(東京地判平成26年10月6日)。財産分与の期間切れを救済した、ということもできるでしょう。
詳しくはこちら|離婚後の元夫婦間の共有物分割(経緯・実例)
4 夫婦間の慰謝料は離婚成立から3年間
実は、慰謝料には2種類のものがあります。離婚に至ったということによって発生したダメージを賠償する離婚(自体)慰謝料と、夫婦である間の個々の行為(主に不貞行為)によって発生したダメージを賠償する離婚原因慰謝料(不貞慰謝料)です。
通常、離婚を請求する場面や、離婚成立後であれば、離婚慰謝料として請求します。離婚慰謝料は、離婚成立から3年間で時効となります。
夫婦間の慰謝料の期間制限(概要)
あ 離婚慰謝料(離婚自体慰謝料)
ア 意味
離婚に至ったことによって生じたダメージを賠償するもの
イ 起算点と時効期間
離婚が成立した時点から3年間
い 不貞慰謝料(離婚原因慰謝料)
ア 意味
個々の不法行為(不貞行為など)によって生じたダメージを賠償するもの
イ 起算点と時効期間
その行為(不貞行為など)を知った時から3年間
ウ 夫婦の特例(時効停止)
離婚成立から6か月後までは時効が完成しない(民法159条)
詳しくはこちら|不貞により発生する2種類の慰謝料(不貞慰謝料と離婚慰謝料)・消滅時効の違い
5 不貞相手への慰謝料は「知った時」から3年間(参考)
慰謝料といえば、離婚とは関係ない不貞慰謝料もあります。
たとえば、夫Bが他の女性Cと不貞行為をした場合、妻AはCに対して慰謝料請求をすることもできます。夫Bには請求せず、Cにだけ請求する、というケースも多いです。
このC(不貞相手)への慰謝料請求については期間制限に注意が必要です。
被害者(妻A)が不貞行為を知った時(不貞発覚)から3年間で時効となるのです。ただし、不貞発覚の後も、不貞の関係が続いていたケースでは、不貞発覚後3年で全期間についての慰謝料が消滅するとは限りません。また、正確には不貞相手が誰かも発覚して初めて時効期間スタートとなります。
詳しくはこちら|不貞により発生する2種類の慰謝料(不貞慰謝料と離婚慰謝料)・消滅時効の違い
実際のケースでは、不貞関係が発覚した夫婦は、これによって離婚するかどうか、はすぐには決まりません。夫婦間で謝ったり、話しあったりして、その後の方針を決めるのが通常です。
このような考慮期間、様子見期間が長期化すると3年が経過してしまうということがよくあるのです。
ここで、前述の離婚(自体)慰謝料であれば、離婚成立から3年後まで請求できるので、将来離婚に至った場合に、その時に請求すればよいだろう、という発想もありますがこれは危険です。平成31年判例で、不貞相手(配偶者以外の第三者)に対する離婚慰謝料の請求は(特殊事情がない限り)否定されているのです。
詳しくはこちら|不貞相手に対する「離婚慰謝料」の請求
結局、夫婦の間で離婚するかどうかの検討をしている状況でも、それと並行して、発覚から3年以内に不貞相手への慰謝料請求をしておく、とよいでしょう。もちろん、夫婦の関係改善を最優先するため過去のことは忘れる(不貞相手を許すようなことになってもよい)、という方針をとるならば別です。
なお、慰謝料の金額が、裁判所の手続で定められた場合は、消滅時効の期間はそこから10年間となります(民法169条1項)。
6 養育費は未払から10年間
子供がいるケースでは、離婚の際に、今後毎月支払う養育費を決めることになります。
いったん養育費を決めた(または裁判所が定めた)のに、その後、支払わなくなる、ということもあります。時効期間は、(平成29年改正後は)協議で決めた場合でも裁判所をとおして決めた場合でも10年です。
たとえば、2022年1月支払分が不払いだとした場合、5年後の2027年1月または10年後の2032年1月に、時効になります。
逆にいえば、過去の未払い分のうち、直近の5年または10年分は請求できる(それより古いものは請求できない)ということになります。
一方、毎月発生する養育費は時効で消滅することはありません。たとえば、養育費を決めた後10年間支払がなくても、毎月養育費が発生すること自体がなくなる、ということはありません(もちろん、子供が成人したことで養育費が発生しなくなることはあります)。
養育費の消滅時効
あ 未払の養育費の消滅時効
ア 離婚協議書・口頭で取り決めを行った場合
10年(民法168条1条1項)
(平成29年改正前は5年(民法169条))
い 裁判手続で定められた場合
イ 時効期間
10年(民法169条1項(平成29年改正前は民法174条の2))
裁判手続の具体例=調停調書・裁判上の和解調書・確定審判・確定判決
い 毎月発生する養育費
長期間不払いが続いても、毎月養育費が発生することは変わらない(発生しなくなることはない)
7 消滅時効援用の権利濫用(特殊事情による救済・参考)
以上のように、離婚に伴う清算にはいろいろな期間制限があり、一定の期間が経過すると、請求できなくなってしまいます。ただ、消滅時効となった場合でも、特殊な事情があったことにより、権利の濫用を使い、救済的に請求権は消滅しないことになることもあります。このような実例(裁判例)を別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|財産分与・慰謝料の消滅時効の援用を権利濫用とした裁判例
本記事では、離婚に伴う金銭の請求の期間制限について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、夫婦に関する金銭の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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