【財産分与割合は原則として2分の1だが貢献度に偏りがあると割合は異なる】

1 財産分与割合は原則として2分の1だが貢献度に偏りがあると割合は異なる

夫婦が離婚する際に、財産分与として財産の清算をします。
詳しくはこちら|離婚時の財産分与の総合ガイド(法的理論・手続・実務上の問題の全体像)
清算的財産分与では、分与の割合が問題となります。本記事では、分与割合について説明します。

2 財産分与割合は、現在では2分の1が主流

かつては、夫が給与収入を得て、妻が専業主婦という夫婦が非常に多かったです。
そして、財産形成は夫がメイン、妻の貢献度は低いと考えられていました。
夫は外で過酷な仕事妻は家でラクしているという古い考えです。

そのため、妻の財産分与割合は、2~3割程度、とされていた時期もありました。

しかし、その後時代は移り変わり、男女平等の要請が高まり、妻の貢献度が見直されてきました。
現在では、財産分与割合は、原則として2分の1ずつ、と考えられています。

夫婦共働きは当然ですが、専業主婦の場合でも同様です。
家事従事による財産形成への寄与内助の功、が重視されているのです。
※広島高裁平成19年4月17日

3 財産形成への貢献度、影響に偏りがある場合、財産分与割合は2分の1とならない

財産分与割合が折半という原則に対して、例外がないわけではありません。
例外となる裁判例は蓄積されています。
後で順に説明します。
まずは概括的な基準をまとめます。

財産分与割合が2分の1未満となる概括的基準

※総合判断
(ア)財産形成の要因が、分与義務者の特殊な能力や努力である(イ)形成された財産が非常に多額である(ウ)分与権利者(主に妻)の財産形成への貢献度が低い

4 資格業→財産分与割合が2分の1とされなかったケース

医師や弁護士からの財産分与の割合が2分の1とされないことがあります。

夫が医師であり、医院を経営していたケースの裁判例を説明します。

夫が医師、病院経営者であった事案の財産分与

あ 事案の概要

・夫が医師であり、病院を経営していた
・共有財産となる資産が約4億円あった

い 妻の主張

資産評価の半額として約2億円を請求した

う 裁判所の判断

妻の貢献を少ないと判断し、財産分与額は2000万円とした
※福岡高裁昭和44年12月24日

このように分与割合が低くなるのは、あくまでも、個別的に分与権利者(妻)の貢献度が低い場合のみです。
例えば、医師・弁護士のような資格による制限のある業務については、資格取得をした者自身の努力が財産形成の要因と言えます。

一方、資格取得の際、妻が経済的にサポートしていた場合に、資格自体が無形の夫婦共有財産という考え方もあります。
日本の裁判所の判断の傾向としては否定的です。
詳しくはこちら|医師・弁護士などの専門職資格(所得能力)の財産分与

5 一部上場企業の代表取締役→財産分与割合が2分の1とされなかったケース

夫が一部上場企業の代表取締役であり極端に収入、資産が多額という事情があった事例を説明します。
財産分与割合が折半だとするとさすがに不合理だと考えられる状態でした。
このような極端な事情に対する判断として参考になります。

夫が一部上場企業の代表取締役というケースの財産分与

あ 収入に関する事情

夫は、一部上場企業の代表取締役であった
婚姻期間(同居期間)中に得た収入は220億円であった
妻は専業主婦だった

い 妻の関与の内容

妻が夫の収入に対して関与・貢献した内容について
→経営者・財界人としての夫の公私にわたる交際を妻が支えた

う 妻の関与の程度の評価

この巨額の収入は、夫の手腕・努力によるものである
妻の関与・貢献度は低い

え 財産分与の金額

裁判所は、妻への財産分与を10億円とした
貢献度を約5%としたことになる
※東京地裁平成15年9月26日

なお5%という割合は小さいですが、絶対値は10億円です。
これで十分不足しているのどちらと考えるのかは本来結婚制度の価値観によって決まる問題です。
ある意味、どのような結論であっても「想定外」と言えるでしょう。
事前に当事者(夫婦)で明確化しておく、ということも合理的であると思います。
詳しくはこちら|夫婦財産契約(婚前契約)によって夫婦間のルールを設定できる

6 夫婦で財産を別管理→一方が無収入となった期間だけ折半から調整

夫婦それぞれに収入がある場合、別々に管理するスタイルを取る夫婦も多いです。
暗黙にそれぞれの収入を「特有財産」としているのに近い状態です。
詳しくはこちら|夫婦財産契約(婚前契約)で決めることができる内容(条項)と有効性

このように財産別管理の場合、実質的な夫婦共有財産は別管理以外の財産ということになります。
そして、夫婦共有財産を折半する、というのが原則的な財産分与の方法です。
しかし、例えば妻が一時期事業活動を中止し、家事に専念していた場合は、折半では不公平です。
このアンバランス部分の調整をするのが公平と考えられます。
この考え方が採用された裁判例があります。

夫婦財産別管理→不公平部分の調整のため折半を用いなかった事例

あ 事案の概要

・夫婦が両方とも画家・童話作家というアーティストとして活躍し、収入を得ていました。
・当初より、それぞれの預貯金、著作権についてはお互いノータッチでした。
 つまり、管理を別々に行っていたのです。
・居住する不動産だけは、(当然)管理を分離することができず、夫婦の共同管理となっていました。
・妻が、一定期間、作家活動を休止し、専業主婦となっていました。

い 裁判所の判断

通常であれば、不動産について、2分の1ずつとして分与することが想定されます。
しかし、2分の1ずつの分与とした場合、各自の財産形成について、妻は「無収入期間」の分だけ不利になります。
そこで、不動産の財産分与において、この「不公平」を調整(修復)するために、妻の分与割合を2分の1よりも上げることにしました。
結果的に、妻6、夫4とされました。
※東京家裁平成6年5月31日

この裁判例は、以上のように、大半の財産は分与対象としない、という特殊な事情があります。
このような事情がある場合の財産分与の方法として再現性がありましょう。

7 財産分与割合を夫婦で決めておく方法(夫婦財産契約)がある

以上で紹介した裁判例のように、個別的な特殊事情によって、財産分与割合として2分の1ではない割合が用いられることがあります。
しかし、財産分与割合を決める計算式があるわけではありません。
要するに、裁判官による判断のブレが大きいといえます。
この点、最初から、夫婦(となろうとする者)の間で、財産分与割合や財産分与の方法について取り決めをしておく方法(夫婦財産契約)があります。
詳しくはこちら|夫婦財産契約(婚前契約)によって夫婦間のルールを設定できる
特に夫婦の一方の収入が大きい場合には、予測できない状態想定外の判断がなされることを防止できるので夫婦財産契約の利用が推奨されます。
詳しくはこちら|夫婦財産契約が普及しない現状・原因・米国との比較や利用される典型的状況

本記事では、特殊な事情によって、2分の1ではない財産分与割合が使われた実例を説明しました。
個別的な事情の主張や立証のやり方次第で、使われる財産分与割合は変わってきます。
実際に財産分与(割合)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【離婚時の財産分与における金融資産の扱い(夫婦共有財産か特有財産か)】
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