【落ち度のない司法書士への賠償請求の通知書送付(弁護士の懲戒)】
1 落ち度のない司法書士への賠償請求の通知書送付(弁護士の懲戒)
2 司法書士がミスをしたという主張と請求
3 弁護士会の判断(戒告)
4 弁護士の調査義務と司法書士の法的評価の禁止(参考)
1 落ち度のない司法書士への賠償請求の通知書送付(弁護士の懲戒)
不動産取引では,司法書士が立会を行います。
詳しくはこちら|司法書士の不動産売買決済の立会の流れ(代金支払と登記移転の同時履行)
司法書士の判断にミスがあると,取引の当事者が大きな損失を受けます。司法書士には法的な責任が生じます。
詳しくはこちら|不動産登記申請を行う司法書士の確認義務の枠組み(疑念性判断モデル)
本記事では,司法書士にミスがないのに賠償請求をした弁護士が,逆に業務のミスとして懲戒処分を受けた事例を紹介します。
2 司法書士がミスをしたという主張と請求
司法書士に依頼をして不動産を売却した者が,後から司法書士による登記申請意思の確認が不十分であったと考えました。
そこで,弁護士に相談して,賠償請求を依頼しました。
弁護士としては,事情を把握すれば司法書士にミス(過失)はないことが分かる状況だったのですが,安易に賠償請求の内容の書面を内容証明郵便で送付してしまったのです。驚いた司法書士が弁護士の懲戒請求をするという反撃に出ました。
<司法書士がミスをしたという主張と請求>
あ 不動産登記への不満
司法書士が土地の所有権移転登記申請を行った
司法書士が賠償責任を負うようなものではなかった
しかし,元所有者Aは『司法書士が登記申請意思の確認を怠った』と主張した
Aは弁護士Yに依頼した
い 賠償の請求
弁護士Yは,司法書士に対し,売買代金相当額(8700万円)の支払を請求した(内容証明郵便)
う 司法書士の反撃
司法書士が弁護士Yの懲戒を申し立てた
※『自由と正義68巻5号』日本弁護士連合会2017年5月p81
3 弁護士会の判断(戒告)
結果的に,依頼者の主張は,この事案の事情を元にすると法的に認められない主張(請求)でした。
そこで,弁護士は調査義務を尽くしていないとして,戒告の懲戒処分を受けました。
<弁護士会の判断(戒告)>
あ 法的評価
Aが求める請求内容は,明らかに事実的,法律的根拠を欠いていた
弁護士Yは事実関係の調査・法令の調査を行う義務があった
この義務に不履行があった
弁護士職務基本規程31条,37条に違反する
弁護士の品位を失うべき非行に該当する
い 処分結果
戒告とする
※『自由と正義68巻5号』日本弁護士連合会2017年5月p81
4 弁護士の調査義務と司法書士の法的評価の禁止(参考)
このケースの弁護士の行った業務内容は要するに,依頼者の主張をベースにして法律的な構成を整えた(法的根拠を示した)というものです。
しかし弁護士は,事実と法的評価については積極的に調査・判断することが必要なのです。『依頼者の言うとおりに主張を作ったけど,後から根拠が薄いことが分かった』では済まされないのです。
この点,司法書士のサービスのルールはある意味真逆です。このように依頼者の主張をベースにすること,つまり高度な法的判断を加えないことが求められます。
詳しくはこちら|司法書士業務vs弁護士法72条|高松/富山判例|簡裁訴訟代理業務
司法書士を攻撃した弁護士が,司法書士とは違うルールのために戒告の懲戒処分を受けることになったという皮肉的な懲戒事例でした。