【戸籍・住民票の職務上請求書の不正な使用(弁護士の懲戒)】
1 戸籍・住民票の職務上請求書の不正な使用(弁護士の懲戒)
2 戸籍に関する職務上請求の内容
3 弁護士会の判断
4 職務上請求書の気軽さによる誤用への注意
5 戸籍・住民票以外の資料の取り寄せに関する同様の制度(参考)
6 不正な職務上請求を反撃として用いる
1 戸籍・住民票の職務上請求書の不正な使用(弁護士の懲戒)
戸籍や住民票に関する資料は,法律事務(紛争の解決)の遂行の中でよく使います。
そのため,弁護士などの一定の職種の者が資料を取得しやすいように制度の整備がなされています。職務上請求というものです。
詳しくはこちら|住民票・戸籍の情報の取得方法(閲覧・証明書交付請求)と開示される者の範囲
本記事では,職務上請求書を不正に利用したことにより,弁護士が懲戒処分を受けた事例を紹介します。
2 戸籍に関する職務上請求の内容
このケースでは,戸籍謄本や戸籍の附票が欲しかった状況で,弁護士の職務上請求を行いました。
しかし,実際には弁護士の受任業務の遂行のために必要という要件を満たすものではなかったのです。
<戸籍に関する職務上請求の内容>
あ 戸籍に関する職務上請求
弁護士は『ア・イ』の職務上請求を行った
ア Aを筆頭者とする戸籍の附票の写しイ Aの戸籍謄本
い 利用目的の記載
弁護士は,職務上請求書の利用目的欄に『売掛金請求』と記載した
う 現実との齟齬
売掛金の請求をする状況ではなかった
弁護士の業務を遂行するために必要があるわけではなかった
※『自由と正義68巻7号』日本弁護士連合会2017年7月p87
3 弁護士会の判断
弁護士の職務上請求は,業務遂行のために必要といえる時にだけ適法に行えます。
この要件を満たさないのに職務上請求を行うことは違法です。そこで,この弁護士は懲戒処分を受けることになりました。
<弁護士会の判断>
あ 事実の評価
戸籍法10条の2第4項,住民基本台帳法20条4項,戸籍謄本等請求用紙の使用及び管理に関する規則3条,5条に違反する
詳しくはこちら|住民票・戸籍の情報の取得方法(閲覧・証明書交付請求)と開示される者の範囲
い 結論(懲戒処分)
弁護士(法人)の品位を失うべき非行に該当する
→戒告とした
※『自由と正義68巻7号』日本弁護士連合会2017年7月p87
4 職務上請求書の気軽さによる誤用への注意
弁護士(や司法書士,行政書士など)は職務上請求書を入手できます。
職務上請求の具体的なプロセスは,職務上請求書に記入して役所に送付するというものです。
職務上請求書を送付する時には,利用目的などを記入します。役所が個別的に利用目的の補充や確認のために連絡をするということはほとんどありません。
そこで,『不正確な内容を記載しても戸籍や住民票を取れる』というような感覚になりがちです。通常は,事務スタッフがこのような資料の取り寄せの作業を行うので,弁護士の指示が行き届かない傾向があります。
実際の責任の重さの具体例として,本記事のような懲戒事例を,事務スタッフにも説明,周知しておくことが望ましいでしょう。
5 戸籍・住民票以外の資料の取り寄せに関する同様の制度(参考)
弁護士などの専門職が,通常とは異なる簡易な方法で資料を取得できる制度は,戸籍・住民票に関するものだけではありません。
例えば,固定資産税評価証明書の取得についても同様の制度があります。
詳しくはこちら|住民票・戸籍の情報の取得方法(閲覧・証明書交付請求)と開示される者の範囲
これについても,前記の職務上請求書とまったく同じように,定められた目的以外には使用しない,とか,正しい利用目的を記入するなどの注意が必要です。
6 不正な職務上請求を反撃として用いる
ところで,実際に職務上請求書の不正な利用が発覚するのは,不正に取得された可能性のある者が,役所に自分の戸籍や住民票の資料の開示請求をした者の開示請求をしたケースが多いです。
対立している当事者の間で,このように相手(敵)の不法なアクションをつかめた場合は,結果的に交渉で有利な結果に結びつくこともあります。