【暴排条例による契約書条項の改良,利益供与禁止】

1 暴排条例により事業者は一定の義務を負う
2 暴排条例により,一般的に契約書に暴排条項を入れる努力義務がある
3 暴排条例により不動産取引に関しては一定の条項を入れる努力義務がある
4 暴排条例により,暴力団への利益供与が禁止されている

1 暴排条例により事業者は一定の義務を負う

各都道府県が暴力団排除の条例を制定しています。
平成23年10月に,東京都,沖縄県が制定した時点で,全都道府県が制定済になりました。
都道府県によって異なりますが,基本的な部分は共通しています。
以下,主に東京都,埼玉県の暴力団排除条例を代表例として説明します。
事業活動をする上での義務は↓のとおりです。

<東京都,埼玉県暴排条例による事業者の主な義務>

義務内容 努力/法的義務 東京都の条例 埼玉県の条例
関係者の属性確認,契約書における暴排条項規定 努力義務 18条 21条
不動産の譲渡,貸付における用途確認,暴排条項規定 努力義務 19条 23条
利益供与禁止(※1) 法的義務 24条 19条

※1 利益供与の内容は次にまとめます。

<利益供与の具体的対象行為;例>

・暴力的不法行為
・示威行為
・暴力団活動の助長

2 暴排条例により,一般的に契約書に暴排条項を入れる努力義務がある

暴排条例では,事業者の契約書に,いわゆる暴排条項を入れることが努力義務とされています(東京都暴力団排除条例18条2項,埼玉県;21条)。
また,契約の相手方その他の関係者が暴力団関係者ではないことを確認すること,も努力義務とされています(東京都暴力団排除条例18条1項,埼玉県;21条1項)。
そこで,これらを合わせて,契約書の条項に盛り込むと良いです。
なお,刑事弁護を受任する弁護士のような例外もあります。

<暴排条項の例>

・暴力団関係者ではないことを表明保証
・暴力団関係者であることが判明した場合解除できる

<暴排条項の具体例>

契約書別紙(平成  年  月  日付契約書添付)
兼表明確約書
第1 甲は乙に対し,自己が,現在,暴力団,暴力団員,暴力団準構成員,暴力団関係企業,総会屋等,社会
運動等標ぼうゴロまたは特殊知能暴力団等,その他これらに準ずる者(以下これらを暴力団員等という。)
に該当しないこと,および次の各号のいずれにも該当しないことを表明し,かつ将来にわたっても該当しない
ことを確約する。
 1 暴力団員等が経営を支配していると認められる関係を有すること
 2 暴力団員等が経営に実質的に関与していると認められる関係を有すること
 3 自己,自社若しくは第三者の不正の利益を図る目的または第三者に損害を加える目的を以てするなど,不当に暴力団員等を利用していると認められる関係を有すること
 4 暴力団員等に対して資金等を提供し,または便宜を供与するなどの関与をしていると認められる関係を有すること
 5 役員または経営に実質的に関与している者が暴力団員等と社会的に非難されるべき関係を有すること
第2 乙は,甲が前項の確約に反して,暴力団員等あるいは前項各号の一にでも該当することが判明したときは,何らの催告をせず,本契約を解除することが出来る。
第3 乙が警察に対して『甲が暴力団関係者であるかどうか』を照会することについて,甲は承諾する。
平成  年  月  日
住所                

署名               印

<参考情報>

東京弁護士会HP

3 暴排条例により不動産取引に関しては一定の条項を入れる努力義務がある

不動産の譲渡,貸付に際しては,暴排条例により,一定の事項を条項に盛込む努力義務があります。
東京都,埼玉県暴排条例で不動産の取引に関して定められている努力義務は次のとおりです(東京都暴力団排除条例19条,埼玉県;23条)。

<暴排条例における不動産取引に関する努力義務>

あ 対象

不動産の譲渡,貸付
→売買,贈与,賃貸借,使用貸借,地上権設定など

い 努力義務の内容

・用途確認
 暴力団事務所の用に供することがないことの確認
・暴排条項規定
 暴力団事務所として用いた場合に,契約解消(解除,買戻)ができる条項を規定する

4 暴排条例により,暴力団への利益供与が禁止されている

暴排条例により,暴力団への利益供与が禁止されています。
これは努力義務ではなく法的義務です。
刑事罰も規定されています。

ただ,実際には,契約締結後,取引後に顧客の属性が分かることもあります。
利益供与についての,条例の条文を説明します。

ざっくりとまとめると『暴力団関係者だということを知った後に利益供与をした場合』が違反となります(東京都暴力団排除条例24条,埼玉県;19条)。
ここで『利益供与』という意味が,またちょっと複雑です。
『代金をもらって商品を渡す』ということも含まれると解釈されています。
ビジネスの常識では,むしろ事業者が販売によって利益を『得た』,という感覚があります。
しかし,暴排条例上は『商品を渡した』こと自体が『利益を供与』に該当する,と考えられています。

具体例がないと分かりにくいので,例を示します。
以下,警視庁HPからの引用を用いて説明します。
なお,埼玉県の場合,施行規則で対象行為が限定列挙されています。
この点,条例の適用は,「行為の場所」が基準とされています。
別項目;刑法,条例;適用範囲;属地主義

<事業者が利益供与違反になる主なケース;東京都>

・内装業者が、暴力団事務所であることを認識した上で、対立抗争に備えて壁に鉄板を補強するなどの工事を行う行為
・ホテルが、暴力団組長の襲名披露パーティーに使われることを知って、ホテルの宴会場を貸し出す行為
・警備会社が、暴力団事務所であることを知った上で、その事務所の警備サービスを提供する行為
・不動産業者が、暴力団事務所として使われることを知った上で、不動産を売却、賃貸する行為
・ゴルフ場が、暴力団が主催していることを知って、ゴルフコンペ等を開催させる行為
・興行を行う事業者が、相手方が暴力団組織を誇示することを目的としていることを知った上で、その暴力団員らに対し、特別に観覧席を用意する行為
・飲食店が、暴力団員から、組の運営資金になることを知りながら、進んで物品を購入したり、サービスを受けて、その者に料金を支払う行為

<事業者が利益供与違反になるケース;埼玉県暴力団排除条例施行規則3条>

ア 興行、儀式その他の暴力団が資金を獲得し、又は威力を示すための活動を行う場所を提供すること。イ 出資又は融資をすること。ウ その事業の全部若しくは一部を委託し、又は請け負わせること。  →暴力団への業務発注,ということです。

<事業者が利益供与違反にならない主なケース;類型;警視庁HP>

ア 相手が暴力団員等の「規制対象者」であることを知らなかった場合イ 提供した利益が「暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなること」を知らなかった場合ウ 提供した利益が「暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなること」にならない場合エ 法令上の義務又は情を知らないでした契約に係る債務の履行として利益供与する場合その他正当な理由がある場合

<利益供与違反にならない主なケース;具体例;警視庁HP>

・『ア』に該当
 レンタカー業者が会合のための送迎用に使用するとの説明を受けてマイクロバスを貸したところ、貸与した相手が暴力団員であることが後から判明した場合
・『イ』に該当
 飲食店が個人的に使用すると思い暴力団員に個室を貸したところ、結果的に組織の会合として使用されてしまった場合
・『ウ』に該当
 ホテルや葬祭業者が身内で執り行う暴力団員の冠婚葬祭のために、会場を貸し出す行為
 コンビニエンスストアなどの小売店が、暴力団員に対して日常生活に必要な物品を販売する行為
 飲食店が、暴力団事務所にそばやピザを出前する行為
 新聞販売店が、暴力団事務所に新聞を定期的に配達する行為
 神社・寺院等が、暴力団員が個人として行う参拝等を受け入れる行為
・『エ』に該当
 暴力団事務所に電気やガスを供給したり、医師が診療行為を行うなど法令に基づいて行われる行為
 建築物等の維持保全など、適法な状態を保つために、暴力団事務所の工事を行う行為
 弁護士が民事訴訟において暴力団員の代理人になる行為

<参考>

<→警視庁HP

契約書の調印とは別に,取引関係者の属性の調査も必要となります。
これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|取引相手の属性調査(反社チェック)の実務(弁護士を活用した効率的方法)

本記事では、暴排条例による契約書の改良について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に契約書の作成や確認に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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