住所等の秘匿決定=裁判所には届け出て、当事者に対して秘匿する(民訴法133条)

1 住所等の秘匿決定=裁判所には届け出て、当事者に対して秘匿する(民訴法133条)

相手方に住所を知られたくない、けれども訴訟はしなければならない——このときに使える正規の手段が、民事訴訟法133条の秘匿決定です。令和4年の改正で新しく置かれ、令和5年2月20日から使えるようになりました。

本記事では、訴訟記録を誰が見られるのかという出発点から、92条の閲覧等の制限では相手方に対して秘匿できないこと、133条の秘匿決定の要件と効果、相手方の防御との調整までを説明します。

家事事件の非開示希望の運用は、別の記事で説明しています。

相手に住所を知られたくない場合は申立書に記載しないなどの方法がある;住所,本籍,非開示希望制度

2 秘匿の対象は当事者に対してで、裁判所への届出は要る(まとめ)

秘匿できるのは当事者に対してで、裁判所には届け出る

(ア)出発点=訴訟記録は何人でも閲覧を請求できる(91条1項)(イ)92条の閲覧等の制限は、閲覧できる者を当事者に限る制度=止まるのは第三者までで、相手方には見える(ウ)92条1項1号の「私生活についての重大な秘密」は、単にプライバシーに関する事項であるだけでは当たらない(エ)当事者に対して住所等を秘匿するには133条の秘匿決定=当事者に知られることで社会生活に著しい支障が生ずるおそれの疎明が要る(オ)秘匿決定を受けても、裁判所には住所等を届け出る(133条2項)=旧住所のまま放置してよいわけではない(カ)相手方は、自分の攻撃防御に実質的な不利益が生ずるおそれがあるときは、裁判所の許可を得て閲覧を請求できる(133条の4第2項)(キ)令和5年2月19日までの「民訴法133条」は訴状の規定=古い文献の条番号はそのままでは読めない

3 訴訟記録を誰が見られるか=原則は何人でも、制限しても相手方には見える

秘匿の話に入る前に、訴訟記録を誰が見られるのかを押さえます。原則は公開で、制限の制度は例外として置かれています。

(1)原則=何人でも訴訟記録の閲覧を請求できる(民訴法91条1項)

訴訟記録は、誰でも閲覧を請求することができます。この原則があるために、秘密を守るための制限の制度が必要になります。

条文

民訴法91条1項=何人でも非電磁的訴訟記録の閲覧を請求できる

何人も、裁判所書記官に対し、非電磁的訴訟記録(訴訟記録中次条第一項に規定する電磁的訴訟記録を除いた部分をいう。以下この条において同じ。)の閲覧を請求することができる。

※民事訴訟法91条1項

引用:文献・公開情報

91条が原則として誰でも閲覧できると定めるから、制限の制度が要る

91条が、原則として誰でも訴訟記録を閲覧することができまた、利害関係の存在を疎明すれば第三者も訴訟記録の謄写等を請求することができると定めているため、訴訟記録の閲覧・謄写を通じて秘密漏洩が生じるのを防止する手段として、閲覧・謄写ができる者を限定するものである

※加藤新太郎稿/加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法1』日本評論社2018年p234

(2)92条の閲覧等の制限=閲覧できる者を当事者に限る=止まるのは第三者まで

そこで92条は、秘密が記載された部分について、閲覧等を請求できる者を当事者に限ることができるとしています。ここで注意が要るのは、限る先が「当事者」だということです。つまり92条で止まるのは第三者までで、相手方には見えたままになります。

条文

民訴法92条1項=閲覧等を請求できる者を当事者に限ることができる

次に掲げる事由につき疎明があった場合には、裁判所は、当該当事者の申立てにより、決定で、当該訴訟記録中当該秘密が記載され、又は記録された部分に係る訴訟記録の閲覧等(非電磁的訴訟記録の閲覧等又は電磁的訴訟記録の閲覧等をいう。第百三十三条第三項において同じ。)(以下この条において「秘密記載部分の閲覧等」という。)の請求をすることができる者を当事者に限ることができる。
一 訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記録されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。

※民事訴訟法92条1項

引用:文献・公開情報

閲覧等の制限は憲法82条の裁判の公開の例外=保護される秘密は必要最小限

秘密保護のための記録の閲覧等の制限は、憲法82条が保障する裁判の公開の趣旨を及ぼすために認められている訴訟記録の公開の例外である。
したがって、保護される秘密は、必要最小限のものに限ることが要請される。

※加藤新太郎稿/加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法1』日本評論社2018年p234

引用:文献・公開情報

プライバシーのうち、重大な秘密であり、かつ著しい支障のおそれがあるもの

プライバシーのうち、
①「当事者の私生活についての重大な秘密」であり、かつ、
②「第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある」
ものであることが必要である。

※加藤新太郎稿/加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法1』日本評論社2018年p235

(3)「私生活についての重大な秘密」の切れ目=単なるプライバシーでは足りない

92条1項1号の「私生活についての重大な秘密」は、プライバシーであれば何でも当たるわけではありません。裁判例は、単にプライバシーに関する事項であるというだけではこれに当たらないとし、人事訴訟における一般的な審理対象や当事者・関係者の特定情報も、特段の事情がない限り「重大な秘密」には当たらないとしています。その抗告審は、制限が裁判の公開の例外であることから保護される秘密は重大なものに限られるとし、世間の関心が寄せられているかどうかで重大性が左右されるものではないと述べています。

引用:判例

91条の例外だから秘密は重大なものに限られる=世間の関心では左右されない

訴訟記録の閲覧等の制限が、裁判の公開(憲法八二条)の趣旨を及ぼすために認められている訴訟記録の公開(民事訴訟法九一条)の例外であることから、保護されるべき私生活上の秘密は重大なものに限られていると解され、この趣旨からすれば、単に世間の関心が寄せられているかどうかによって、基本事件の審理の対象となる事項(抗告人の不貞行為の有無等を含む。)について、私生活上の秘密としての重大性が左右されるものとは考え難く

※東京高等裁判所 2015-09-11 判例時報2320号40頁

引用:判例

単にプライバシーに関する事項であるだけでは「重大な秘密」に当たらない

民事訴訟法九二条一項一号にいう「私生活についての重大な秘密」は、単にプライバシーに関する事項であるというだけではこれに当たらないと解され、人事訴訟における一般的な審理対象や当事者、関係者等の特定情報についても、特段の事情がない限り、閲覧等の制限の対象となるべき「重大な秘密」には当たらないというべきである。

※横浜家庭裁判所 2015-06-26 判例時報2320号42頁

引用:判例

92条1項1号の要件=重大な秘密の記載と、第三者の閲覧による著しい支障のおそれ

民事訴訟法92条1項1号は、訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され又は記録されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることにつき疎明があった場合には、当該訴訟記録中の秘密記載部分の閲覧等の制限をすることができる旨定めている。

※東京高等裁判所 2015-04-06 判時 2320号36頁

4 133条1項の要件=当事者に知られると社会生活に著しい支障が生ずるおそれの疎明

当事者に対して住所等を秘匿するには、133条の秘匿決定を申し立てます。要件は、住所等が当事者に知られることによって社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることの疎明です。氏名その他その者を特定するに足りる事項についても同じです。なお、この条文が92条1項1号と同じ「社会生活を営むのに著しい支障」という文言を使っていることは条文から読み取れますが、92条について積み重ねられた解釈がそのまま133条に及ぶかどうかは、ここでは触れません。

条文

民訴法133条1項=当事者に知られることによる著しい支障のおそれの疎明

申立て等をする者又はその法定代理人の住所、居所その他その通常所在する場所(以下この項及び次項において「住所等」という。)の全部又は一部が当事者に知られることによって当該申立て等をする者又は当該法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることにつき疎明があった場合には、裁判所は、申立てにより、決定で、住所等の全部又は一部を秘匿する旨の裁判をすることができる。申立て等をする者又はその法定代理人の氏名その他当該者を特定するに足りる事項(次項において「氏名等」という。)についても、同様とする。

※民事訴訟法133条1項

5 秘匿の決定を受けても裁判所へは届け出る(133条2項)

秘匿決定は、相手方に知られないようにする制度であって、裁判所に知らせなくてよい制度ではありません。申立てをするときは、秘匿対象者の住所等又は氏名等を裁判所へ届け出なければなりません。

条文

民訴法133条2項=秘匿事項その他の事項を裁判所へ届け出なければならない

前項の申立てをするときは、同項の申立て等をする者又はその法定代理人(以下この章において「秘匿対象者」という。)の住所等又は氏名等(次条第二項において「秘匿事項」という。)その他最高裁判所規則で定める事項を書面その他最高裁判所規則で定める方法により届け出なければならない。

※民事訴訟法133条2項

6 閲覧等の制限の特則と送達場所の調査嘱託(133条の2・133条の3)

秘匿決定があると、届け出た部分(秘匿事項届出部分)の閲覧等を請求できる者は秘匿対象者に限られます。さらに申立てによって、秘匿事項を推知できる部分についても閲覧等を請求できる者を限ることができます。送達のために裁判所が住所の調査を嘱託した場合には、その報告の閲覧についても制限の特則が置かれています。

条文

民訴法133条の2第1項・133条の3第1項=届出部分と調査報告の閲覧の制限

秘匿決定があった場合には、秘匿事項届出部分に係る訴訟記録等の閲覧等の請求をすることができる者を当該秘匿決定に係る秘匿対象者に限る。

※民事訴訟法133条の2第1項

裁判所は、当事者又はその法定代理人に対して送達をするため、その者の住所、居所その他送達をすべき場所についての調査を嘱託した場合において、当該嘱託に係る調査結果の報告が記載され、又は記録された書面又は電磁的記録が閲覧されることにより、当事者又はその法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることが明らかであると認めるときは、決定で、当該書面又は電磁的記録及びこれに基づいてされた送達に関する第百条の書面又は電磁的記録その他これに類するものに係る訴訟記録等の閲覧等の請求をすることができる者を当該当事者又は当該法定代理人に限ることができる。

※民事訴訟法133条の3第1項

7 相手方の防御との調整=秘匿事項の閲覧の許可と秘匿決定の取消し(133条の4)

秘匿は相手方の防御を狭めるので、調整の仕組みが置かれています。秘匿決定に係る者以外の者は、要件を欠くことを理由に取消しを申し立てることができます。また相手方は、自己の攻撃又は防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは、裁判所の許可を得て、制限されている部分の閲覧等を請求することができます。

条文

民訴法133条の4第1項・第2項=取消しの申立てと、不利益があるときの閲覧の許可

秘匿決定、第百三十三条の二第二項の決定又は前条第一項の決定(次項及び第七項において「秘匿決定等」という。)に係る者以外の者は、訴訟記録等の存する裁判所に対し、その要件を欠くこと又はこれを欠くに至ったことを理由として、その決定の取消しの申立てをすることができる。

※民事訴訟法133条の4第1項

秘匿決定等に係る者以外の当事者は、秘匿決定等がある場合であっても、自己の攻撃又は防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは、訴訟記録等の存する裁判所の許可を得て、第百三十三条の二第一項若しくは第二項又は前条第一項の規定により訴訟記録等の閲覧等の請求が制限される部分につきその請求をすることができる。

※民事訴訟法133条の4第2項

8 家事事件への準用と、人事訴訟の事実調査部分(概要)

この制度は家事事件の手続にも準用されています(家事事件手続法38条の2)。人事訴訟の事実調査の部分については別の規定が置かれています。詳しくは別の記事で説明しています。

相手に住所を知られたくない場合は申立書に記載しないなどの方法がある;住所,本籍,非開示希望制度

9 令和5年2月19日までの「民訴法133条」は訴状の規定=条番号が繰り下がった

最後に条番号の注意です。133条の秘匿決定は令和4年法律第48号で新設され、令和5年2月20日に施行されました。それ以前の「民事訴訟法133条」は訴状の記載事項などを定める規定で、現在は134条に繰り下がっています。令和5年2月19日までに書かれた文献や記事が「133条」と書いているときは、訴状の規定を指している可能性があります。

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送達場所の届出=届け出るのは「送達を受けるべき場所」(民訴法104条)

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本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。原文の段落の行頭にある字下げは再現していません。

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