届け出ずに転居したときの送達=旧住所あてで有効(民訴法104条3項)

1 届け出ずに転居したときの送達=旧住所あてで有効(民訴法104条3項)

訴訟の途中で引っ越したのに、送達場所の変更を裁判所へ届け出なかった——このとき、旧住所へ送られた書類は「届いていないのだから無効」になりそうに見えます。ところが民事訴訟法104条3項は逆の答えを用意しています。

本記事では、届け出ずに転居した場合に送達がどこへされ、なぜ有効になるのか、旧法下の裁判例がどう読み替わるのか、訴状の段階だけ結論が変わるのはなぜかを説明します。

送達場所の届出そのもの(誰が・何を・いつ届け出るのか)は別の記事で説明しています。

送達場所の届出=届け出るのは「送達を受けるべき場所」(民訴法104条)

2 届出の懈怠に制裁はなく、旧住所あての送達は有効(まとめ)

届け出なければ、直前に送達が成功した場所に固定され、そこへの送達が有効になる

(ア)届出をしなかったこと自体に過料などの制裁はない=不利益は送達の効力の形で自分に返る(イ)届出がなく、直前の送達が成功していた→その場所が送達場所になる(104条3項)。転居していても同じ(ウ)交付送達ができなければその場所あてに付郵便送達ができ、発送の時に送達があったとみなされる(107条3項)=現実の到達は問わない(エ)旧法下は「旧住所・旧事務所あての送達は有効とはいえない」で決着していたが、104条3項の新設で読み替わる(オ)現に転居先へ届いて受領されたなら、その日に送達があったことになる(カ)訴状の段階(固定前)は別=発送より前に転居していれば送達の効力は生じない(キ)居住を隠して送達を不能にさせた側は、公示送達の違法を信義則上主張できない

3 民訴法104条3項=届出がないときの送達場所は直前に送達が成功した場所

届出がない場合の送達場所を定めているのが民事訴訟法104条3項です。直前にどの方法で送達を受けたかによって、その後の送達場所が決まります。1号が住所等への送達(103条)、2号が出会送達等、3号が付郵便送達(107条1項1号)で、いずれも「その送達をした場所」「宛先とした場所」がその後の送達場所になります。

条文

民訴法104条3項=届出をしない者は、直前に送達を受けた場所がその後の送達場所になる

第一項前段の規定による届出をしない者で次の各号に掲げる送達を受けたものに対するその後の書類の送達は、前条の規定にかかわらず、それぞれ当該各号に定める場所においてする。
一 前条の規定による送達 その送達をした場所
二 次条後段の規定による送達のうち郵便の業務に従事する者が日本郵便株式会社の営業所(郵便の業務を行うものに限る。第百六条第一項後段において同じ。)においてするもの及び同項後段の規定による送達 その送達において送達をすべき場所とされていた場所
三 第百七条第一項第一号の規定による送達 その送達において宛先とした場所

※民事訴訟法104条3項

前二項の規定により書類を書留郵便等に付して発送した場合には、その発送の時に、送達があったものとみなす。

※民事訴訟法107条3項

4 届出を怠った場合の制裁=民訴法の過料は証拠調べと少額訴訟の規定だけ

届出をしなかったことに対して、民事訴訟法は過料などの制裁を用意していません。同法が過料を定めているのは192条・209条・225条・229条・230条・232条・381条で、いずれも証拠調べと少額訴訟に関する規定です。届出を怠った不利益は、制裁ではなく、以下のとおり送達の効力の形で本人に返ってきます。

5 固定後の付郵便送達=発送の時が送達の時(107条3項の発信主義)

固定された場所で交付送達ができなかったときは、その場所あてに付郵便送達をすることができます(107条1項3号)。付郵便送達は発信主義をとっているので、発送の時に送達があったものとみなされ、書類が現実に本人の手元へ届いたかどうかは問われません。

引用:文献・公開情報

発送した時点で効力が発生する=現実に受送達者へ到達したかどうかは問わない

付郵便送達においては、送達書類を書留郵便等により発送した時点で送達の効力が発生する(法107Ⅲ)。
具体的な効力発生時点は、当該書留郵便物を郵便局に差し出したときである。
民間の信書便事業者の場合は、当該信書をその業者に差し出したときに効力が発生するものと解される。
現実に受送達者に到達したかどうかは問わない
(大判昭10.9.6民集14-1523、
札幌高判昭26.4.26高民集4-494)。

※裁判所職員総合研修所監『民事訴訟関係書類の送達実務の研究 新訂』司法協会2013年p156

6 旧法と現行法の分かれ目=104条3項の新設で結論が読み替わる

この結論は、現行法の104条3項が新設されて初めて成り立ちます。旧法下では、旧住所や旧事務所が「住所」「事務所」の実体を失っていることを理由に、そこへの送達は有効とはいえないと判断されていました。

(1)旧法下の結論=住所・事務所の実体で決まり、旧住所あては有効とはいえない

旧法下の裁判例を 2 つ見ます。転居後の旧住所に送られ、同居していない母が受領した事案では、住所あてでないことと受領権限がないことの両方を理由に送達が無効とされました。弁護士が事務所を移転した事案では、相手方が「届出義務を怠った者は無効を主張できない」と主張しましたが、裁判所はそれを仮定として受けたうえで、そもそも届出の事跡がないので懈怠の責はないとし、移転後の旧事務所あての送達は有効と解することはできないと判断しています。

引用:判例

旧住所あてで同居者でない者が受領=住所あてでなく受領権限もないので無効

右のとおり、控訴人に対する平成二年五月九日の原審口頭弁論期日呼出状及び原判決正本の各送達は、控訴人の住所に宛ててなされたものではなく、これらを受領した齊藤友子は、控訴人の同居者ではなく、受領権限を有していないから、右送達はいずれも無効である。

※札幌高等裁判所 1993-08-31 判タ 837号276頁

引用:判例

届出の事跡がなく懈怠の責もない=移転後の旧事務所あての送達は有効と解せない

而して被控訴人も主張するように訴訟当事者が受訴裁判所に届出た送達を受くべき場所を変更したときは之をも受訴裁判所に届出るべき義務があり、之を懈怠した為書類が従前の場所に送達された場合懈怠者はその無効を主張し得ないものと解すべきであるとしても、記録に徴するに、本件訴状には原告(控訴人)の訴訟代理人小玉治行及び河村範男両名の肩書地として前記東京都武蔵野市吉祥寺七五三番地と表示してあるだけであることが認められ、原告又は右代理人等から前記鎌倉町六番地を送達を受くべき場所として原裁判所に届出た事跡は之を認め難いから河村弁護士がその事務所を鎌倉町六番地から麻布笄町九番地の自宅に変更したことを受訴裁判所に届出なくてもこの点については同弁護士に右懈怠の責あるものとなし難く、十二月四日の前記送達当時すでに同弁護士の事務所が右鎌倉町六番地になかつた以上、右送達は同弁護士に対して有効になされたものと解することはできない。

※東京高等裁判所 1954-08-30 下民 5巻8号1373頁

(2)読み替え=一度奏功した場所なら旧事務所あてでも104条3項で有効

104条が新設された現行法では、同じ事案の結論が変わります。一度その場所で送達が成功していれば、その後の送達場所はそこに固定されるので、事務所を移転した後に旧事務所あてにした送達も104条3項により有効になります。なお、この記述が引く裁判例の掲載頁は下民集5巻8号1376頁とされていますが、取得した判決の掲載は同巻1373頁です。

引用:文献・公開情報

104条の新設後は、一度奏功した旧事務所あての送達も104条3項で有効

訴訟代理人である弁護士が事務所を転々とし、届出をしなかった場合でも、旧事務所にした送達は無効であるとする裁判例(東京高判昭和29・8・30下民集5巻8号1376頁)があるが、送達場所の届出の規定(104条)が新設された現行法の下では、一度移転前の事務所において送達が奏功した場合に、事務所移転後にその旧事務所宛てにした送達は104条3項により有効である。

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ 第3版』日本評論社2022年p394

(3)現に転居先へ届いた場合=持戻りの上で受領されれば有効

逆の方向の実例もあります。旧住所あてに発送されて送達できず、持戻りの上で転居先へ送達されて受領された事案では、受領した日に送達があったものと認められています。固定の規定は、現に届いた送達を無効にする方向には働きません。

引用:判例

旧住所あてで不能となり持戻りの上で転居先が受領=その日に送達された

原決定正本が昭和三十四年三月十日右転居先において受領された以上、他に当時これを現実に受領した者においてその受領資格又は能力に欠けるところがあつたことを窺うに足りる資料の認められない本件においては、抗告人に対し同日送達されたものと認めるのが相当である。

※東京高等裁判所 1960-06-29 東高民時報 11巻6号194頁/判タ 106号39頁

7 訴状の段階=発送より前の転居なら送達の効力は生じない

訴状や第1回期日呼出状の段階は、まだ届出義務が生じておらず固定も働いていないので、扱いが変わります。この段階の付郵便送達は住所等あてにするもので(107条1項1号)、発送の時点でその住所等が実体を伴っていなければなりません。したがって、発送より後に転居しても効力は失われませんが、発送より前に転居していた場合は送達の効力が生じません。なお、この段階の不奏功の理由には、転居先不明やあて所尋ねあたらずの場合は含まれないとされています。

引用:文献・公開情報

発送より後の転居なら効力は失われず、発送より前の転居なら効力は生じない

書留郵便等に付して発送した時に、これが受送達者に到達する可能性がなければならないから、発送の時点において、そのあて先である受送達者の住所等が実体を伴ったものでなければならない。
したがって、書留郵便等に付して発送した時点の後に受送達者が住所等を変更しても送達の効力は失われないが、住所等の変更がその発送の時点より前であると、送達の効力は発生しないことになる。

※裁判所職員総合研修所監『民事訴訟関係書類の送達実務の研究 新訂』司法協会2013年p156

8 送達を妨げる工作=公示送達の違法を主張することは信義則上許されない

届出をしないことが送達を妨げる工作と結びついた場合には、信義則が働きます。同居しているのに居住を隠し、転居不明と虚偽の陳述をして送達を不能にさせ、公示送達に至らせた事案では、その後に公示送達の違法を主張することは信義則上許されないとされました。

引用:判例

居住を隠して送達を不能にさせた場合=公示送達の違法の主張は信義則上許されない

以上の事実関係のもとにおいては、たとえ、本件公示送達許可後にたまたま抗告人の前記住所を記載した前記不動産競売手続停止決定が原審に提出されていたところで抗告人において抗告理由所論のごとく本件公示送達の違法、不当を主張することは、信義則上到底許されないものである。

※東京高等裁判所 1971-06-22 東高民時報 22巻6号101頁/判タ 267号333頁/判時 638号76頁

9 関連テーマ

送達場所の届出=届け出るのは「送達を受けるべき場所」(民訴法104条)

送達の種類(通常送達・就業先送達・補充送達・付郵便送達・公示送達)

民事訴訟における公示送達の要件(公示送達を使える状況)

住所の調査方法と交渉や裁判手続での利用方法の全体像

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。原文の段落の行頭にある字下げは再現していません。

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