訴訟代理人の辞任=送達場所の届出は失効し、送達先は本人の住所等
1 訴訟代理人の辞任=送達場所の届出は失効し、送達先は本人の住所等
訴訟代理人が自分の事務所を送達場所として届け出たあとに辞任すると、その事務所へ書類が送られ続けるのか、という問題が起きます。辞任する側は本人と連絡が取れないことも多く、自分では手を打てないように見えます。
本記事では、辞任によって送達場所の届出がどうなるのか、辞任する代理人は何をすべきで、しなかったときに送達はどこへ向かうのかを説明します。
送達場所の届出そのもの(誰が・何を・いつ届け出るのか)は別の記事で説明しています。
送達場所の届出=届け出るのは「送達を受けるべき場所」(民訴法104条)
2 辞任で届出は「ない状態」に戻るが、変更の届出は書けない(まとめ)
辞任で届出は「ない状態」に戻り、送達は本人の住所等へ向かう
(ア)届出の効力は届け出た者にのみ及ぶ(届出人単位説)=代理人の届出は本人に及ばない(イ)辞任する代理人は、従前届け出ていた送達場所の変更の届出をすべきである(ウ)変更の届出をしなければ届出のない状態となり、本人又は新代理人の届出がなければ本人の住所等へ送達される(エ)変更の届出は書面で、変更後の場所との関係を明らかにする事項が要る=本人と打合せができなければ書けない(オ)送達受取人の側には、受取人からの取消し・変更の届出を認める規定がなく、辞任も認められていない(カ)実務の対応は、届出をした本人に連絡して変更等の届出を促すこと(キ)辞任の前にされた期日の告知は、辞任後も本人に対して効力を持つ
3 前提=届出の効力は届け出た者にのみ及ぶ(届出人単位説)
送達場所の届出の効力は、届け出た者にのみ及びます(届出人単位説)。訴訟代理人が自分の事務所を届け出ても、その効力は当事者本人には及びません。法人の代表者が交代したときに新代表者が改めて届け出る義務を負うのも、同じ理由です。
届出の効力が及ぶ人的範囲については、別の記事で説明しています。
送達場所の届出=届け出るのは「送達を受けるべき場所」(民訴法104条)
固定化効は届け出た者にのみ及ぶ=代理人の届出は本人に及ばない(届出人単位説)
固定化効は、当該届出をした者にのみ及ぶ(訴訟代理人が届け出たら、それが当事者本人にまで及ぶということはない)(届出人単位説)(総研・送達研究100頁)。
そのため、法人の代表者が交代した場合、旧代表者による届出の効果は新代表者に及ばず、新代表者があらためて送達場所の届出義務を負う(総研・送達研究105頁)。
※岡口基一著『民事訴訟マニュアル 第3版 ―書式のポイントと実務― 上巻』ぎょうせい2021年 12月p42
4 辞任の効果=届出のない状態に戻り、送達場所は本人の住所等
辞任する代理人は、従前届け出ていた送達場所の変更の届出をすべきであるとされています。この届出をしなければ、辞任によって送達場所の届出がない状態となり、本人又は新しい訴訟代理人からの届出がない限り、送達は本人の住所等へ向かいます。届出の効果が属人的であることの帰結です。
変更の届出をしなければ届出のない状態となり、本人の住所等へ送達される
この届出がされなかった場合、訴訟代理人の辞任によって送達場所の届出がない状態となる(届出の効果は属人的)ため、本人又は新訴訟代理人からの送達場所の届出がなければ、本人の住所等に送達することになる(総研・民事実務講義案II29頁)。
※岡口基一著『民事訴訟マニュアル 第3版 ―書式のポイントと実務― 上巻』ぎょうせい2021年 12月p44
辞任する場合は、従前届け出ていた送達場所の変更の届出をすべきである
(2)訴訟代理人が辞任する場合、訴訟代理人が従前届け出ていた送達場所(=通常は自己の法律事務所)の変更の届出をすべきである
※岡口基一著『民事訴訟マニュアル 第3版 ―書式のポイントと実務― 上巻』ぎょうせい2021年 12月p43
5 変更の届出の方式=書面と、変更後の場所との関係を明らかにする事項
変更の届出は書面でしなければならず、当事者等と変更後の場所との関係を明らかにする事項を記載します。つまり、辞任する代理人が変更の届出をするには、本人の新しい送達場所を把握している必要があります。ところが、信頼関係のなくなった代理人と本人との間で新たな送達場所について打ち合わせることには困難があり、そのことも踏まえて、属人的な要素が強い送達場所については届出人単位説が現実的であるとされています。
信頼関係のなくなった代理人と本人の打合せには困難がある=届出人単位説が現実的
信頼関係のなくなった訴訟代理人と本人との間で新たな送達場所について打ち合わせをすることには困難があることも事実である。
送達場所については属人的な要素が強いということを考慮すれば、届出人単位説を採用するのが現実的であろう
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ 第3版』日本評論社2022年p404
変更の届出も書面で、変更後の場所との関係を明らかにする事項を記載する
〔7〕送達場所等の変更の届出
一度届け出た送達場所または送達受取人については、これを変更することも可能であり(規則42条1項)、その変更の届出は書面により、かつ、当事者等と変更後の場所との関係を明らかにする事項を記載してしなければならないとされている(同条2項による規則 41条1項・3項の準用)。
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ 第3版』日本評論社2022年p405
規則42条=届け出た場所と送達受取人は変更の届出で変えられる
規則第42条 当事者、法定代理人又は訴訟代理人は、送達を受けるべき場所として届け出た場所又は送達受取人として届け出た者を変更する届出をすることができる。
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ 第3版』日本評論社2022年p396〜397
6 送達受取人の側=取消し・変更の届出を認める規定がなく、辞任も認められていない
送達場所と併せて送達受取人として第三者を届け出た場合には、同じ問題がより明確な形で現れます。取消し・変更の届出は当事者等からすることができる一方、送達受取人からの取消し・変更の届出を認める規定はなく、送達受取人の辞任も認められていません。受取人が辞任を届け出ても受領権限は消滅せず、その受取人にされた送達は有効です。実務の対応は、届出をした本人に連絡して変更等の届出を促すことだとされています。
実務の対応=届出をした本人に連絡し、変更等の届出を促す
実務上の対応としては、送達受取人の「届出をした本人に連絡をして当該辞任の届出がなされた旨を伝え、送達場所及び送達受取人の変更等の届出を促すことが考えられる」とされている
※八神聖稿『送達受取人等の届出(民事訴訟法104条)と司法書士の裁判書類作成関係業務(司法書士法3条1項4号)について』/『名城法学68巻3・4号』名城大学法学会2019年p164
送達受取人からの取消し・変更の届出を認める規定はなく、辞任も認められていない
なお、送達場所や送達受取人の取消し又は変更の届出は、当事者等からすることができるが(民訴規則 42 条 1 項)、送達受取人からの取消し又は変更の届出を認める規定は設けられていない。
送達受取人の辞任については、認められていない。
送達受取人の届出が有効にされている以上、仮に、送達受取人から辞任の届出がなされても、当該送達受取人の送達受領権限は当然には消滅せず、当該受取人に対してなされた送達は常に有効であると解されている
※八神聖稿『送達受取人等の届出(民事訴訟法104条)と司法書士の裁判書類作成関係業務(司法書士法3条1項4号)について』/『名城法学68巻3・4号』名城大学法学会2019年p164
7 辞任前にされた期日の告知の効力=辞任後も本人に対して存続
辞任しても、辞任の前にされたことの効力は失われません。適法にされた期日の告知は、代理人が辞任した後も本人に対して効力を持ちます。呼出状が代理人に送達された数日後に辞任届が出された事案でも、同じ扱いがされています。
呼出状の送達後に辞任届が出ても、代理人への告知は本人に効力を生ずる
一件記録によれば、昭和三一年九月七日の原審第一回口頭弁論期日についての呼出状は同年六月二三日に上告人らの原審訴訟代理人に送達され、その後同月二七日に右代理人の辞任届が裁判所に提出されたこと、原裁判所は右期日に上告人ら不出頭のまま口頭弁論を終結して判決言渡期日を同年九月一七日午後一時と指定し告知したことを認めることができるから、右口頭弁論期日の訴訟代理人に対する告知は上告人らに対して効力を生じ、該期日になされた判決言渡期日の告知も上告人らに対し効力を生じたものと解すべきである
※最高裁判所 1959-12-28 民集 13巻13号1678頁/判時 210号19頁
辞任しても、代理人に対する期日の告知は本人に対して効力を生ずる
第二点については、適法な期日指定を受けた訴訟代理人が辞任するも、その訴訟代理人に対する期日の告知は、本人に対しても効力を生ずるものであるから、右期日に本人出頭なくして結審しても違法でなく又弁論期日において判決言渡期日を指定している以上右言渡期日につき呼出状の送達なくして判決言渡がなされても、訴訟手続に違背があるとはいえない。
※最高裁判所 1953-07-30 民集 7巻7号851頁/判タ 32号43頁/ジュリ 42号36頁
8 辞任の効力の発生=相手方への通知と、辞任後も続く代理義務(参考)
辞任そのものの効力は、相手方への通知によって生じます。通知がなければ辞任の効力は生じず、訴訟手続の中断も生じません。また、辞任後も、本人又は新しい代理人が訴訟を遂行できるようになるまでは本人を代理する義務が残ります。消滅通知については、受訴裁判所へ届け出て裁判所から相手方へ通知する扱いもみられます。
辞任後も本人を代理する義務が残る=消滅通知は裁判所から相手方へする扱いもある
②訴訟代理人の解任・辞任(民訴28、民651I)
訴訟代理人が辞任した場合、本人又は新しい訴訟代理人が訴訟遂行できるようになるまで、本人を代理する義務(民654)がある(加藤・基本コンメ民訴I163頁)。
③本人の破産手続開始(民訴28、民653②)、会社更生手続開始(東京地判昭和50年6月25日判時800号72頁・判タ330号333頁)
b 消滅通知
上記②の場合、訴訟代理権の消滅を相手方に通知しなければ、訴訟上、訴訟代理権の消滅の効力が生じない(民訴59・36I)。
実務では、消滅したことを受訴裁判所に届け出て(民訴規23III)、裁判所から相手方に通知する扱いもみられる。
※岡口基一著『民事訴訟マニュアル 第3版 ―書式のポイントと実務― 上巻』ぎょうせい2021年 12月p150
辞任を相手方に通知しなければ辞任の効力が生じない=中断も生じない
訴訟代理人が辞任した場合、その時点で訴訟が中断する(秋山ほか・民訴コンメII566頁)が、辞任した旨を相手方に通知しなければ、辞任の効力が生じない(民訴59・36I)ので、中断が生じない(大判大正2年7月7日民録19輯614頁)。
※岡口基一著『民事訴訟マニュアル 第3版 ―書式のポイントと実務― 上巻』ぎょうせい2021年 12月p116
9 関連テーマ
送達場所の届出=届け出るのは「送達を受けるべき場所」(民訴法104条)
送達の種類(通常送達・就業先送達・補充送達・付郵便送達・公示送達)
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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