主要事実と間接事実の区別|弁論主義が及ぶ範囲と、区別が争われる場面
1 主要事実と間接事実の区別|弁論主義が及ぶ範囲と、区別が争われる場面
訴訟では、当事者が主張していない事実を裁判所が判決の基礎にできるかが問題になります。この答えは、その事実が主要事実なのか間接事実なのかで変わります。ところが、どちらに当たるかは条文に書かれておらず、同じ事実が場面によって入れ替わることもあります。
本記事では、弁論主義が及ぶ範囲がなぜ主要事実に限られるのか、そして区別がどこで争われるのかを説明します。
規範的要件の要件事実|評価ではなく評価根拠事実が対象・型による扱いの違い
2 弁論主義が及ぶのは主要事実だけ・区別は条文になく争いの的
弁論主義が及ぶ範囲と、間接事実の扱い
あ 及ぶ範囲
(ア)主張責任と自白の拘束力が及ぶ事実は、権利関係の発生・消滅・変更の原因となる主要事実に限られる(イ)根拠は弁論主義を私的自治に求めることで、私的自治が働くのは権利関係の原因となる事実までだから(ウ)間接事実まで及ぶとすると、裁判所が証拠調べで知った事実を主要事実の認定に使えなくなり、自由心証主義を不当に制約する
い 間接事実の位置
(ア)間接事実は、主要事実の存否を認定する資料であって、要件に当たる事実そのものではない(イ)裁判所は、証拠から直接に主要事実を認定することも、証拠から間接事実を認定してそこから主要事実を推定することもできる(ウ)自白の対象にもならず、裁判所に対する拘束力は生じない
う 間接事実でも手続保障は要る
(ア)主要事実の認定を左右する性質で、当事者間に争いが予想されるときは、裁判所が釈明権を行使して主張を促すことが望ましい(イ)ただし釈明にもかかわらず当事者が主張しないときは、主要事実の場合と異なり、裁判所がその事実を認定することも許される
え 区別が争われる場面
(ア)どちらに当たるかは解釈の前提問題で、同じ種類の事実が場面によって入れ替わる(イ)所有権取得の経過来歴に関する事実は、積極否認にとどまる限り間接事実だが、相手方の所有権喪失を基礎づける抗弁事実なら主要事実になる(ウ)代理人による契約締結の事実は、判例は主要事実でないとするが、学説はこれを批判している
お 決まっていないこと
(ア)規範的要件の評価根拠事実がどちらに当たるかは、規範的要件の側で見解が分かれたままである(イ)間接事実の自白について、自白した当事者に対する拘束力を認めるかは、通説と反対説が分かれている
3 弁論主義が及ぶ事実=主要事実に限られる
弁論主義のうち、当事者が主張しない事実を判決の基礎にできないという内容と、自白された事実に裁判所が拘束されるという内容は、どちらも事実についてのものです。そこでいう事実が主要事実だけなのか、間接事実まで含むのかが問題になります。弁論主義の根拠を私的自治に求めるなら、及ぶ範囲も権利関係の原因となる事実までになります。
弁論主義そのものの定義と、職権探知主義との対比は、別の記事で説明しています。
弁論主義が及ぶ事実=権利関係の原因となる主要事実に限られる
弁論主義の内容のうち、主張責任および自白の拘束力は、いずれも事実に関するものであるが、そこでいう事実が主要事実のみを意味するのか、それとも間接事実をも含むのかが問題となる。
しかし、弁論主義の根拠を私的自治に求める以上、その対象も権利関係の発生・消滅・変更の原因となる主要事実に限られるという結論が導かれる。
※伊藤眞 (東京大学名誉教授、弁護士)著『民事訴訟法 第8版』有斐閣2023年 12月p335
4 主要事実に限る理由=間接事実まで及ぶと自由心証主義を不当に制約
なぜ間接事実を外すのかというと、取り込んだ場合の弊害が大きいからです。裁判所が証拠調べの中で知った間接事実であっても、当事者が弁論に出していなければ主要事実の認定に使えないことになります。これは、証拠の評価を裁判官に委ねている自由心証主義を不当に狭めます。
自由心証主義(民事訴訟法247条)|法定証拠主義から変わった理由と、委ねる前提
間接事実まで及ぶと自由心証主義を不当に制約する
裁判所が証拠調べなどの中で知った間接事実であっても、それが当事者によって弁論に上程されない限りは、主要事実認定の資料とすることができないとするのは、自由心証主義を不当に制約する。
このような見地から弁論主義の適用対象は、主要事実に限定される
※伊藤眞 (東京大学名誉教授、弁護士)著『民事訴訟法 第8版』有斐閣2023年 12月p336
5 間接事実の位置=主要事実の存否を認定する資料
では間接事実は何なのかというと、主要事実の存否を認定するための資料です。要件に当たる事実そのものではありません。裁判所は、証拠から直接に主要事実を認定することもできますし、証拠から間接事実を認定して、そこから経験則によって主要事実を推定することもできます。前者を直接証明、後者を間接証明と呼びます。
なお、ここでいう事実と評価の振り分け自体が、条文では決まらない問題です。その区別は別の記事で説明しています。
間接事実=主要事実の存否を認定する資料/補助事実=証拠の価値判断に関するもの
自白の対象となる事実は主要事実に限られ、
主要事実の存否を認定する資料である間接事実(徴憑)、
証拠の価値判断に関する補助事実など(以下「間接事実等」という)
は自白の対象とならない
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅳ 第2版』日本評論社2019年p61
間接事実から主要事実へ届く道=間接証明
裁判所は、争いある事実に関して、証拠から直接主要事実の存在を認定し、または証拠にもとづいて間接事実を認定し、間接事実にもとづいて主要事実の存在を推定する。
証拠にもとづく主要事実の証明を直接証明と呼び、間接事実にもとづく主要事実の証明を間接証明と呼ぶ。
※伊藤眞著『民事訴訟法 第7版』有斐閣2020年p392
6 間接事実の自白=裁判所への拘束力なし・理由は自由心証の確保
区別は自白の場面にも出ます。間接事実について自白が成立しても、裁判所はそれに拘束されません。理由は主張の側と同じで、拘束力を認めると主要事実の存否を判断するときの自由心証を縛ることになるからです。もっとも、自白した当事者自身については、禁反言の作用で自白に反する主張が許されなくなると説く見解もあります。自白の効果そのものは別の記事で説明しています。
拘束力を認めると主要事実を判断するときの自由心証を制限する
これは、間接事実等については当事者の主張がなくても裁判所は斟酌しうることに対応し、間接事実等の自白の裁判所に対する拘束力を認めることは、主要事実の存否を判断するための裁判官の自由心証を制限することになるからである
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅳ 第2版』日本評論社2019年p62
裁判所は別の間接事実から認定できるが、自白した当事者は禁反言で縛られる
ただ主要事実と異なり、裁判所は、別の間接事実から、主要事実の存否を自由心証によって認定することを妨げない。
しかし、自白した当事者は、禁反言の作用によって自白に反する主張は許されなくなると解すべきであろう
※新堂幸司著『新民事訴訟法 第6版』弘文堂2019年p587
7 区別は解釈の前提問題で、同じ種類の事実が場面で入れ替わる
ここまでの区別は、どちらに当たるかが決まっていることを前提にしています。ところが、その前提そのものが解釈の問題です。しばしば争われてきたのは、所有権取得の経過来歴に関する事実と、代理人による契約締結の事実です。前者は、相手方の主張する経過来歴への積極否認にとどまる限り間接事実ですが、相手方の所有権喪失を基礎づける抗弁事実になると主要事実に変わります。
どちらに当たるかは、弁論主義の適用を論じる前提問題
もっとも、その前提として、ある事実を主要事実とみるか間接事実とみるかの問題がある
※伊藤眞 (東京大学名誉教授、弁護士)著『民事訴訟法 第8版』有斐閣2023年 12月p336
同じ経過来歴の事実が、積極否認なら間接事実・抗弁事実なら主要事実
所有権取得の経過来歴に関する事実は、それが相手方の主張する経過来歴事実に対する積極否認事実にとどまる限りは間接事実であるが、相手方の所有権喪失を基礎づける抗弁事実の場合には、主要事実となり、弁論主義の適用対象となる。
※伊藤眞 (東京大学名誉教授、弁護士)著『民事訴訟法 第8版』有斐閣2023年 12月p336
8 間接事実でも釈明は望ましい・拒まれたときの認定は可能
間接事実に弁論主義が及ばないとしても、当事者に不意打ちを与えてよいことにはなりません。主要事実の認定を左右する性質の事実で、当事者間に争いが予想されるときは、裁判所が釈明権を行使して主張を促すことが望ましいとされます。ここが主要事実と分かれるのは、釈明しても当事者が主張しなかったときです。主要事実なら認定できませんが、間接事実なら裁判所が認定することも許されます。
釈明が望ましいが、主張されなくても間接事実は認定できる
弁論主義の適用対象とならない間接事実についても、それが主要事実の認定を左右する性質のものであり、かつ、それについて当事者の間に争いが予想されるときには、手続保障の見地から、裁判所は、釈明権の行使を通じて、当事者にその事実の主張を促すことが望ましい。
もっとも、釈明によって主張が求められたにもかかわらず、当事者が当該事実の主張を行わないときには、弁論主義が適用される主要事実の場合と異なって、裁判所がその事実を認定することも許される。
※伊藤眞 (東京大学名誉教授、弁護士)著『民事訴訟法 第8版』有斐閣2023年 12月p336
9 規範的要件の評価根拠事実がどちらに当たるかは別の問題(概要)
過失や正当の事由のように評価を含む要件では、要件事実になるのは評価根拠事実です。その評価根拠事実が主要事実なのか間接事実なのか、あるいはどちらでもない第3のものなのかは、要件の型によって扱いが分かれ、見解が一致していません。この点は規範的要件の記事で説明しています。
規範的要件の要件事実|評価ではなく評価根拠事実が対象・型による扱いの違い
10 おわりに
本記事では、弁論主義が及ぶ範囲が主要事実に限られる理由と、区別が争われる場面を説明しました。間接事実を外すのは自由心証主義を狭めないためで、その代わりに釈明による手続保障が置かれています。そして区別そのものは条文になく、同じ種類の事実が訴訟上の位置によって入れ替わります。書面を組むときは、主張している事実がどちらの位置に立つのかを確かめることになります。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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