【不法行為(損害賠償請求)と不当利得(返還請求)の違い】

1 不法行為(損害賠償請求)と不当利得(返還請求)の違い

多くの場面で、不法行為(による損害賠償請求)不当利得(返還請求)の選択が必要な状況が生じます。
詳しくはこちら|不法行為と不当利得の実務的な選択(選択できる状況や選択の着眼点)
不法行為と不当利得では、共通することが多いのですが、違いもあります。事案に応じて最適な請求権を選択する時には、この2つの請求の違いを理解しておかなくてはなりません。
本記事では、不法行為と不当利得の違いを説明します。

2 不法行為と不当利得の基本概念

(1)不法行為とは

不法行為は民法709条に規定されており、「故意又は過失によって、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」とされています。つまり、故意または過失により他者の権利や利益を侵害し、損害を与えた場合に成立します。
この制度は、加害者の行為に着目した「行為責任主義」に基づいています。不法行為法の目的は、被害者の救済と損害の公平な分担にあります。
詳しくはこちら|一般的不法行為の成立要件(基本的な要件の分類)

(2)不当利得とは

一方、不当利得は民法703条に規定されており、「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う」とされています。つまり、法律上の正当な理由がないのに利益を得て、それによって他者に損失を与えた場合に成立します。
不当利得には、契約の無効や取消しにより財産が移転した「給付利得」と、契約関係がなく他者の権利を侵害して利益を得る「侵害利得」の二種類があります。
不当利得制度の目的は、法的原因のない利益の取得を是正し、財産関係における公平性を確保することにあります。

3 不法行為と不当利得の共通点(前提)

不法行為も不当利得も債権の発生原因の一つです。両方とも、契約(合意)がなくても成立するという特徴があります(法定債権)。前述のように公平を実現する手段として機能する、という点も共通しています。
具体的事案でもどちらを請求することもできる場面が多いです。また、内容としても同じ金額を得ることになることが多いです(後述)

4 不法行為と不当利得の主な違い

(1)成立要件の違い

不法行為の成立には、故意・過失、権利・利益の侵害、損害の発生、因果関係という要件を全て満たす必要があります。加害者の主観的要素(故意・過失)が必須となります。これらの要件が一つでも欠けると、不法行為としての責任を問うことはできません。
一方、不当利得の成立には、受益者の利益、請求者の損失、利益と損失の因果関係、法律上の原因の欠如という要件が必要です。不当利得では、行為者の故意や過失は原則として問われません。重要なのは、利益の取得に法律上の根拠がないという客観的事実です。この違いは、請求できる相手の範囲に影響します。

(3)故意・過失の役割の違い

不法行為では、故意または過失が成立要件として必須です。加害者の行為の違法性と主観的要素が重視されます。故意とは結果の発生を認識・認容して行為することであり、過失とは結果発生を予見すべきであったのに、注意義務を怠ったことを指します。
これに対して、不当利得では受益者の故意・過失は原則として不要です。ただし、受益者の善意・悪意(不当利得であることを知っていたか否か)は返還義務の範囲に影響します。悪意の受益者は利益の全額に利息を付して返還する義務を負いますが、善意の受益者は現存利益の範囲内でのみ返還義務を負います。この違いは、利益が費消された場合に大きな影響を与えます。

(3)因果関係の違い

不法行為では、加害行為と損害の間の因果関係が必要であり、その立証が困難な場合もあります。この因果関係は、事実的因果関係と法的因果関係(相当因果関係)の二段階で判断されることが多いです。
不当利得では、受益者の利益と請求者の損失の間の因果関係が必要ですが、特に給付利得の場合は原因と結果の関係が比較的明白です。給付利得の場合、財貨の給付を受けたことが受益、財貨を給付したことが損失に当たり、受益と損失が表裏一体の関係にあります。侵害利得の場合は、勝手に自己の財産を利用されたことによって受ける損害が損失に当たります。

(4)時効期間の違い

不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、被害者が損害および加害者を知った時から3年(生命・身体の侵害の場合は知ってから5年)、または不法行為の時から20年のいずれか早い方です。
不当利得返還請求権の消滅時効は、2020年4月1日以降に発生した場合、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年のいずれか早い方です。
2020年3月31日以前に発生した場合は、原則として権利を行使できる時から10年です。
この時効期間の違いは、請求方法を選択する際の重要なポイントとなります。

(5)実現方法(金銭か現物か、請求範囲)

不法行為の損害賠償の目的は、被害者が被った損害を填補することにあります。賠償額は原則として被害者の損害額によって決まります。財産的損害だけでなく精神的損害(慰謝料)も含まれます。
不当利得の救済は不当利得の返還であり、現物返還が原則とされ、現物返還が不可能な場合に、価格(金銭)による返還となります。
また、原則として現存利益(残っている利益)の範囲内の返還で足ります。ただし、悪意の受益者の場合は全額(損失の金額)に利息を付して返還する義務があります。

(6)要件は損害か利得か

不法行為では「損害」の発生が結果として求められますが、不当利得では「利得」の存在が結果として求められます。このため、相手方に利得がない場合(相手が別の者に利益を渡したケース)は、不法行為でしか請求できません。

(7)反対債権との相殺の可否

不法行為に基づく損害賠償請求権のうち、「悪意」と「人の生命又は身体の侵害に基づく」ものは相殺が禁止されています(改正民法509条)。なお、平成29年の民法改正前は一律に相殺禁止でした。
詳しくはこちら|不法行為の損害賠償債権の相殺禁止(平成29年改正後民法509条)(解釈整理ノート)
一方、不当利得返還請求権は相殺が可能です。この違いは、相手方が存在が不明確な債権を持ち出して支払い拒否の理由にするような場合に、重要な意味を持つことがあります。
不法行為構成であれば、相手(加害者)による相殺の抗弁を封ずることができる場合があるため、戦略的な意味を持つことがあります。

(8)弁護士費用の請求可否

不法行為では弁護士費用も損害として請求できる場合がありますが、不当利得では原則として請求できません。訴訟を提起する場合、この違いは最終的な回収金額に影響する可能性があります。ただし、実際にかかった弁護士費用をそのまま請求できるわけではありませんし、和解で終了する場合には、不法行為でも弁護士費用を含めずに解決することが多いです。
詳しくはこちら|損害賠償として弁護士費用を請求することの可否(責任の種類による分類)

(9)立証責任の違い

不法行為では、原告が故意・過失、権利侵害、損害、因果関係の全てを立証する責任を負います。特に故意や過失、因果関係の立証は困難な場合が多いです。
不当利得では、原告が受益者の利益、請求者の損失、因果関係、法律上の原因の欠如を立証する責任を負います。
類型的(形式的)には、不当利得の方が立証ハードルが低いといえます。

(10)遅延損害金の起算点の違い

不法行為では遅延損害金の起算点は不法行為の時点ですが、不当利得では請求日の翌日からとなります(ただし、悪意の受益者の場合は利得時点)。この違いにより、長期間の事案では受け取れる金額に大きな差が生じる可能性があります。特に高額な事案や長期間にわたる事案では、遅延損害金の差額が大きくなることがあります。

5 実務における2つの請求権の選択(参考)

不法行為と不当利得は、民法上の重要な制度であり、権利侵害や不当な利益取得に対する救済手段として機能しています。両者には、法的根拠、成立要件、故意・過失の役割、因果関係、時効期間、主な救済方法、反対債権との相殺の可否、弁護士費用の請求可否、立証責任、結果(損害か利得か)、遅延損害金の起算点など、多くの違いがあります。
同一の事案で両方の請求が可能な場合、どちらを選択するか、あるいは両方を併用するかは、時効期間、証拠の強さ、利得の有無、回復可能な範囲などを総合的に考慮して判断する必要があります。特に相続に関わる使途不明金訴訟では、発見時期や証拠の入手可能性を踏まえた戦略的な判断が重要です。
詳しくはこちら|不法行為と不当利得の実務的な選択(選択できる状況や選択の着眼点)

本記事では、不法行為と不当利得の違いについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に権利の侵害(不法行為や不当利得)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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