【損害賠償として弁護士費用を請求することの可否(責任の種類による分類)】

1 損害賠償として弁護士費用を請求することの可否(責任の種類による分類)

損害賠償を請求できる場合でも,相手が任意に支払に応じない場合,訴訟を利用せざるをえなくなります。通常,弁護士に訴訟の遂行を依頼します。では,相手に弁護士費用を請求できるのでしょうか。それは請求の内容によって違ってきます。
本記事では,損害賠償として弁護士費用の請求が認められるかどうかを説明します。

2 損害に弁護士費用を含むかどうかの判定のまとめ

最初に,結論の要点をまとめておきます。責任(損害賠償請求の根拠)の性質の種類によって違います。
交通事故などの不法行為の場合は弁護士費用の請求が認められます。債務不履行,つまり契約当事者間の問題では,原則として弁護士費用の請求は認められませんが,一定の例外もあります。瑕疵担保責任については主張・立証についての専門性が高ければ弁護士費用が認められますが,専門性が高くなければ認められません。

損害に弁護士費用を含むかどうかの判定のまとめ

責任の種類 弁護士費用を含むかどうか
不法行為責任 含む
債務不履行責任 含まない,例外あり
契約不適合責任(瑕疵担保責任) 専門性の程度による

3 不法行為責任における弁護士費用の請求の可否

まず,不法行為による損害賠償請求の訴訟の場合,弁護士費用の請求は,原則的に認められます。典型例は交通事故によって生じた損害の賠償請求です。

不法行為責任における弁護士費用の請求の可否

不法行為による損害賠償請求において,原則として,弁護士費用は賠償すべき損害に含まれる
※最高裁昭和44年2月27日

4 債務不履行責任における弁護士費用の請求の可否(学説)

債務不履行による損害賠償請求において,弁護士費用の請求ができるかどうかについての学説は分かれています。

債務不履行責任における弁護士費用の請求の可否(学説)

あ 弁護士費用を認める見解

最判昭和44年2月27日(前記)の基本思想に合致する限りにおいては,債務不履行の場合にもその賠償を認めるべきである
※奥田昌道『債権総論(上)』p208

い 弁護士費用を否定する方向の見解

賠償が認められるのは,債務不履行が不法行為をも構成する強度の違法性(反社会性,反倫理性)を帯び,かつ,債務者がその債務の存在を争い,これを履行せず,債権者の提起した訴訟に応訴して争うことが社会通念上相当でないと認められる場合に限るべきである,そして,そのような場合は,建築物の瑕疵の事案ではほとんど存在しないであろう
※後藤勇『請負建築建物に瑕疵がある場合の損害賠償の範囲』/『民事判例実務研究(7)』p304〜
※『判例タイムズ1079号』p235〜参照

5 債務不履行責任における弁護士費用の請求の可否(判例)

最高裁判例は,債務不履行による損害賠償請求における弁護士費用の請求の可否について一定の基準を示しています。原則として否定されるけれど,主張・立証の程度が不法行為責任と同じ程度に高い場合には肯定する,という基準です。
主張・立証の程度が高い典型例は,就労中に事故が発生し労働者が負傷したケースで雇用主が負う安全配慮義務違反による賠償責任です。

債務不履行責任における弁護士費用の請求の可否(判例)

あ 原則

原則として,債務不履行による損害賠償請求において,弁護士費用は賠償すべき損害に含まない
※最高裁平成24年2月24日(前提として)

い 例外

(安全配慮義務違反による損害賠償請求について)
主張・立証の程度が不法行為と同様である場合,弁護士費用は賠償すべき損害に含まれる
※最高裁平成24年2月24日

6 瑕疵担保(契約不適合)責任における弁護士費用の請求の可否

瑕疵担保責任について,弁護士費用の請求を認めた裁判例があります。これは,建築瑕疵による損害賠償請求がなされたケースで,主張・立証が高度であるということを理由としています。
なお,瑕疵担保責任は,民法の平成29年改正より前のものであり,性質は,不法行為でも契約責任でもない法定責任として分類されていました。平成29年改正以降は,契約不適合責任に変わり,契約責任(債務不履行責任と同じ)ということになっています。ただ,この変化は,本記事で説明している弁護士費用の請求の可否とは直接関係ないといえるでしょう。

瑕疵担保(契約不適合)責任における弁護士費用の請求の可否

一般に,建築工事の瑕疵を理由とする損害賠償請求訴訟は,訴訟の中でも専門性ないし難度の高い部類に属するものであり,いわゆる本人訴訟によって適切な主張,立証をすることはほとんど不可能である。
したがって,特段の事情のないかぎり,右訴訟においては,弁護士費用についても賠償を請求できるものと解するのが相当である。
※福岡高判平成11年10月28日

7 発信者情報開示手続における弁護士費用の請求の可否(概要)

特殊な責任において,弁護士費用の請求が認められることもあります。それは,発信者情報開示請求の手続に関する弁護士費用の請求を認めたというものです。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|発信者情報開示請求|付随的問題|管轄・弁護士費用負担・所要期間

8 責任の種類による違いの実質的理由

以上のように,同じ損害賠償請求でも,責任の種類によって弁護士費用の請求が認められるかどうかに違いがあります。弁護士費用の請求の可否の違いは,それぞれの責任の性質からきています。
まず,債務不履行責任は,典型例として貸したお金を借りた人(債務者)が返してくれないという状況を想定すると分かりやすいです。お金をその人に貸す,ということを判断(決定)したのは貸した人(債権者)です。債務者が返済しない(できない)ことになる可能性は想定できたはずです。つまり,回収するための手続は想定内であったといえます。そこで,回収のためのコストは債権者自身が負担する(弁護士費用を債務者に請求できない)ことになります。
次に,不法行為は,典型例として交通事故を想定すると分かりやすいです。被害者はその事故に遭うことを判断や選択していません。もちろん,被害者が加害者を選択したということはありません。不法行為自体が発生することが想定外なのです。被害者が賠償金の回収のリスクを許容したということはいえません。そこで回収コストは被害者に負担させない(弁護士費用を加害者に請求できる)方向性になるのです。

9 弁護士費用の敗訴者負担の立法化の検討

以上のように,弁護士費用を請求できるかどうかは責任の種類や具体的な事案によって違ってきます。この点,一律に訴訟で敗訴した者が原告の弁護士費用を負担する,というルール(法律)を作ればよいではないか,という発想,議論があります。しかし結局,立法(法改正)されていません。

10 賠償すべき損害としての弁護士費用の金額

弁護士費用の請求が認められる場合,その金額は実際にかかった弁護士費用の全額というわけではありません。実際にかかった費用のうち,この程度(の金額)は被告(加害者など)が支払うべきだということになるのです。つまり実際にかかった弁護士費用の一部だけなのです。
弁護士費用の請求として認められるのは,(弁護士費用以外に)認められる請求額の10%程度が目安です。もちろん,事案内容によって違いがあります。

賠償すべき損害としての弁護士費用の金額

あ 判決で算定される弁護士費用加算額の相場

請求認容額(弁護士費用以外の合計額)の10%程度

い 実際に要する弁護士費用の概算との比較(参考)

ア 実際の弁護士費用の概算 大まかな目安として,着手金・成功報酬などの合計額は請求額の20%程度になることが多い
(当然,個別的状況によって大きく異なることもある)
イ 差額の存在 以上のことを前提とすると,請求額の10%は請求者(原告)自身が負担することになる
裁判所が定める「弁護士費用」とは,実際に要する弁護士費用のうち,被告が負担すべき部分ということである

11 弁護士費用加算条項の有効性

契約を締結する状況で,最初から,契約違反があった場合,その対応のために要した弁護士費用を違反者が支払うという条項(特約)を設けておく,という工夫があります。このような特約は禁止されているわけではないですが,内容によっては無効となることもあります。これについては別の記事で説明しています。
別項目|『弁護士費用加算条項』の有効性|東京高裁H26.4.16マンション管理規約で有効と認めた

12 訴訟における弁護士費用加算の実情

以上のように,不法行為による損害賠償請求をはじめとして,弁護士費用の請求が認められるものも多くあります。
実務の状況としても,交通事故の損害賠償の訴状では,弁護士費用を加算して請求するのが一般です。ところが,交通事故以外の損害賠償の訴状では,弁護士費用を加算していないものもよくみかけます。
この点,訴状の請求として記載されていないと,判決で裁判所がフォローして加算してくれる,ということはありません。当事者の請求していない金額を裁判所が独断で認めることはできないのです(処分権主義・民事訴訟法
246条)。

13 和解における弁護士費用の加算(否定傾向)

ところで,以上の,弁護士費用が加算されるという説明は,判決の場合の判断です。
訴訟提起の後に和解で終わるというケースではまた別です。当然ですが,和解の場合は,裁判所の公的判断として金額が決まるわけではありません。当事者双方が納得した内容(金額)で決まります。では,通常,当事者(原告と被告)は弁護士費用を加算した和解をするかというと,そのようなことはほとんどありません。
ルールというわけではないですが,当事者の両方が譲歩しやすいところから譲歩することで初めて和解が成立します。原則的・直接的な損害,よりも,付随的な弁護士費用分の方が譲歩しやすい,ということです。
繰り返しですが,特にルールはありません。実際に,一定の弁護士費用の負担を含めて賠償金(和解金)を算定することもあります。
いずれにしても,和解の場合,個々の損害の金額を明示せず,総額を「和解金」や「解決金」として決めることがほとんどです。交渉の中では弁護士費用も協議されたとしても,和解内容(和解調書)としては通常,弁護士費用の加算の有無が表面化することはありません。

14 訴状や判決の「訴訟費用」と弁護士費用(参考)

訴状や判決には,たとえば「訴訟費用は被告の負担とする」ということが記載されます。日常用語としては,「訴訟費用」といえば弁護士費用のことをいいますが,訴状や判決に出てくる「訴訟費用」は弁護士費用を含みません。よく誤解される用語なのです。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|民事訴訟法における訴訟費用の内容・負担者を決める裁判・訴訟費用額確定手続

本記事では,損害賠償として,訴訟のために要した弁護士費用の請求が認められるかどうかを説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に損害が生じたことによる問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【『弁護士費用加算条項』の有効性|東京高裁H26.4.16マンション管理規約で有効と認めた】
【契約書作成のメリット|『想定外』の結果を防ぐ|契約交渉とマーケットメカニズム】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00