1 一般的に『債務不履行』では『損害』に『弁護士費用』は含まれない|不法行為のみ
2 不法行為/債務不履行による『弁護士費用』の加算の違いの理由
3 判決で加算される弁護士費用は『請求額の10%』が相場|『実際の金額の全部』ではない
4 和解においては『弁護士費用』を譲歩(加算しない)ことが多い
5 実務上『不法行為』でも加算しないケースが多い|加算しておくべき
6 訴状・判決に記載される『訴訟費用』は『弁護士費用』ではない
7 『訴訟費用』の回収|訴訟費用額確定処分の申立or交渉

1 一般的に『債務不履行』では『損害』に『弁護士費用』は含まれない|不法行為のみ

損害賠償を請求する時に,『弁護士費用』について,次のような発想があります。

<損害賠償請求をする時の『弁護士費用』についての発想>

『請求する手続を弁護士に依頼するのに必要な費用』も加算して請求すべき

これについての法的な解釈論はちょっと複雑です。

<前提状態>

契約書その他の合意として『弁護士費用加算(条項)』がない,という状態

仮に契約書の中に『弁護士費用加算条項』がある場合の解釈もまたちょっと複雑です。
別項目|『弁護士費用加算条項』の有効性|東京高裁H26.4.16マンション管理規約で有効と認めた

<弁護士費用の加算の有無>

損害賠償の種類 内容 典型例 『損害』に弁護士費用が加算されるか 根拠
不法行為 交通事故発生 最高裁昭和44年2月27日
債務不履行 原則 売買契約で代金滞納 (最高裁平成24年2月24日の前提)
債務不履行 主張・立証の程度が不法行為と同様 職場の『安全配慮義務違反』 最高裁平成24年2月24日(※1)

<債務不履行のうち『主張・立証が不法行為と同様』について(上記『※1』)>

あ 『主張・立証が不法行為と同様』とは

『債務(義務)内容が書面などで明確ではない』という場合

い 典型例=当該判例の内容

就労中に事故発生→労働者が負傷
『安全配慮義務違反による損害賠償請求』
※最高裁平成24年2月24日

結論を一言にすると『債務不履行(契約違反)の場合は加算NG,不法行為では加算OK』というものです。

2 不法行為/債務不履行による『弁護士費用』の加算の違いの理由

不法行為か債務不履行かで『損害への弁護士費用加算』で違いが生じる理由をまとめます。
『被害者(請求者)に落ち度(非難可能性)があるかどうか』が軸になります。

<不法行為の『被害者』の落ち度>

あ 被害者の関与を分析

被害者は『加害者』を選べない
被害者は『不法行為の発生の有無』を選択できない
(=不法行為が発生すること自体が『想定外』)

い 法的評価

弁護士費用の発生は『(被害者にとって)不可避=許容範囲外』

<債務不履行の『被害者』(損害賠償請求者)の落ち度>

あ 損害賠償請求者の関与を分析

『請求者』が契約締結を決断した時点で,次の『判断』をした
ア 相手を選んだ
イ 『相手の不払→コスト発生のリスク』を受け入れた

い 法的評価

弁護士費用の発生は『(被害者にとって)想定内=許容範囲内』

う 政策(立法)での設定状況

『弁護士費用の敗訴者負担』は国会が『立法しない』と判断している
以前は立法化が積極的に検討されていました。

要するに,一定のリスクについて,『被害者』を非難できるかどうか,ということが重要なのです。
『契約締結』は一般的に,当事者双方それぞれが,『契約締結をすること』と『契約の相手』を選択・判断しているのです(契約自由の原則)。
その裏返しとして,一定のリスクを配慮・判断済→リスクを受け入れた,という考え方になります。
さらに逆に言えば『リスクを受け入れたくない』のであれば,最初から契約締結を拒否すれば良いのです(拒否する機会があった)。
最初に『リスクを受け入れる』ことによって契約締結→一定の利益を得た,にも関わらず,後から『リスク負担を拒否』というのは不合理(=虫の良い話し)なのです。

3 判決で加算される弁護士費用は『請求額の10%』が相場|『実際の金額の全部』ではない

以上の説明どおり,不法行為の損害賠償請求の訴訟では,判決で,『弁護士費用の加算』が認められます。
次に,『加算される弁護士費用としての金額』が問題です。
『実際に弁護士に払う金額全額』ではないのです。

<損害賠償請求の判決で加算される弁護士費用の金額>

あ 判決で算定される弁護士費用加算額の相場

請求認容額の10%程度
『弁護士費用』以外の原則的な賠償額の合計,の10%が基準です。

い 実際に要する弁護士費用の概算

大まかな目安として請求額の20%
着手金・成功報酬などの合計額としての目安です。
当然,個別的状況によって大きく異なることもあります。

う 生じる『差額』

実際に要した弁護士費用が『20』とする

そのうち『10だけ』を加害者が負担する
残りの『10』は被害者(請求者)が負担する

え 『差額』の意義・趣旨
弁護士費用は『10』が妥当である
『実際の弁護士費用のうち加害者に負担させるのが妥当な部分』は『10』である

弁護士費用の負担に関して,契約書の条項(特約)とするケースや特殊な判断をした判例などは別に説明しています。
詳しくはこちら|『弁護士費用加算条項』の有効性|東京高裁H26.4.16マンション管理規約で有効と認めた
詳しくはこちら|発信者情報開示請求|付随的問題|管轄・弁護士費用負担・所要期間

4 和解においては『弁護士費用』を譲歩(加算しない)ことが多い

『弁護士費用が加算される』という以上の説明は,『判決』におけるものです。
『和解』の場合はまた別です。
当然ですが,和解の場合は,『裁判所の公的判断』ではありません。
『当事者双方が納得した内容』となります。
この点,実務上は『和解においては弁護士費用を損害に含めない』というのが一般です。
ルールというわけではないですが,『双方が譲歩しやすいところから譲歩する』という和解の本質が要因です。
原則的・直接的な損害,よりも,付随的な『弁護士費用分』の方が譲歩しやすい,ということです。
繰り返しですが,特にルールはありません。
実際に,一定の『弁護士費用の負担』を含めて賠償金(和解金)を算定することもあります。
いずれにしても,和解の場合,総額を『和解金』『解決金』として,『内訳を明示しない』ことがほとんどです。
『弁護士費用の加算の有無』が表面化しない,と言うこともできます。

5 実務上『不法行為』でも加算しないケースが多い|加算しておくべき

上記のとおり,『不法行為の損害賠償』では,理論的に弁護士費用の加算が認められます。
実務の状況としても,『交通事故の損害賠償』の訴状では『弁護士費用』を加算して請求するのが一般です。
ところが,『交通事故以外』の不法行為の損害賠償の訴状では,『弁護士費用』を除外する弁護士が非常に多いです。
この点,訴状の請求として記載されていないと,判決で裁判所が『フォロー』して加算してくれる,ということはありません。
当事者の請求していないものを裁判所が独断で認めることはできないのです(処分権主義;民事訴訟法
246条)。
なお,『損害の内容』については,理論上は処分権主義がストレートに及ばないとも言えますが,事実上は『処分権主義』同様の影響があります(民事訴訟法248条)。
訴状に『弁護士費用』を記載・加算しないと不利な結論となるリスクがあります。
『慣行』よりも『本人(ご依頼者)の利益』を優先的に考慮した最適戦略を検討・実行すべきです。

6 訴状・判決に記載される『訴訟費用』は『弁護士費用』ではない

訴状や判決として『訴訟費用は被告の負担とする』という記載がよくあります。
一定割合を明示して『被告の負担とする』という判決もよくあります。

<民事訴訟法の『訴訟費用敗訴者負担』ルール>

あ 100%認容

『訴訟費用』は敗訴者の負担とする

い 一部認容

『訴訟費用』は割合的に双方の負担とする
※民事訴訟法61条,64条1項

これはネーミングが良くないので誤解を生むことが非常に多いポイントです。
『訴訟費用』は弁護士費用を含む,と思ってしまう方が多いのですが,違うのです。

<民事訴訟における『訴訟費用』の意味・内容>

あ 手数料

提訴,控訴,再審申立などの手数料(貼付印紙)

い 実費

証拠調べ・送達の送料(郵券)

う 旅費・日当・宿泊費

ア 裁判官・裁判所書記官の出張(公務員なので『日当』は除外)
イ 証人・鑑定人・通訳人の出張・出廷

え その他

第三債務者の供託費用など
※民事訴訟費用等に関する法律2条〜

このような一定の『裁判所サイドの運営に直結するコスト』だけなのです。
『弁護士に依頼するために要した費用(弁護士費用)』は含まれないのです。
なお,『弁護士費用』の『敗訴者負担』については,以前,立法化が活発に議論されていました。
しかし結局は実現しない(立法しない)という状態になっています。

7 『訴訟費用』の回収|訴訟費用額確定処分の申立or交渉

(1)訴訟費用額確定処分の手続

実際に訴訟費用の『相手負担分』を請求するためには,『判決』とは別に一定の手続が必要です。

<『訴訟費用』を請求する具体的手続>

訴訟費用額確定処分(申立)
本案判決の確定後に申し立てます。
※民事訴訟法67条1項

なお,これはあくまでも『強制的に請求・回収する』ための方法です。
交渉によって,任意に清算することもあります。

(2)実務上は『訴訟費用』の清算を省略することが多い|妥当ではない

現実的に『訴訟費用』はその総額が小さいことが多いです。
例外的に『鑑定が実施された』ケースでは,数十or数百万円単位の鑑定費用が生じるので『小さくない』ことになります。
一方,『相手の負担割合』が小さく定められた場合も,『請求額』は小さく収まります。
結局,鑑定実施がない場合は,メインの請求内容・請求額と比べると『訴訟費用』は小さい,ということがほとんどです。
さらに,強制的な回収の場合は,一定の手続が必要になり,手間がかかります。
このような理由からか,実務上,請求を『省略』してしまう弁護士が多いようです。
しかし,上記のとおり,実際には『協議・交渉で回収が実現』ということもあります。
最初から『回収の考慮すらしない』というのは少なくとも最適戦略ではないと思います。