【裁判所による債務者の財産調査に関する令和元年民事執行法改正】
1 裁判所による債務者の財産調査に関する令和元年民事執行法改正
平成15年の民事執行法改正で裁判所による財産開示手続が導入されましたが、いろいろと使い勝手が悪いところがありました。そこで、令和元年に民事執行法が改正され、債権回収実現のために使いやすくなりました。本記事では、法改正の経緯や変更内容の主要な点を説明します。
2 改正の背景→債務者の財産調査制度の実効性アップ
利用実績が低調でした。平成29年の統計では開示された件数が4割未満で、不出頭などの件数が多かったのです。これを受け、実効性向上策や第三者からの情報取得制度の必要性が指摘されました。令和元年の改正では、財産開示手続の見直しがなされるとともに、第三者からの情報取得手続の新設が実現しました。
改正の背景→債務者の財産調査制度の実効性アップ
あ 平成15年の財産開示手続導入
平成15年の民事執行法改正で金銭債権について一定の債務名義を有する債権者の申立てにより、執行裁判所が債務者を期日に呼び出し、その財産の有無及び内容について申告・陳述させる制度が導入された
い 財産開示手続の低調な利用実績
平成29年の統計によれば、実際に開示された件数は4割に満たず、不出頭などで開示がされなかった件数の方が多かった
う 実効性向上策の立法提案
執行法制研究会「民事執行制度の機能強化に向けた立法提案」(平成25年2月)や日本弁護士連合会「債務者財産開示制度の改正及び第三者照会制度創設に向けた提言」(平成25年6月)などが出された
え 第三者からの情報取得制度の必要性
貸金等の一般債権のみならず、子の養育費の履行確保や、犯罪被害者等の有する損害賠償請求権の履行確保の重要性が指摘された
お 令和元年の民事執行法改正
債務者の財産状況の調査に関する制度の実効性を上げるために、財産開示手続の見直しと、第三者からの情報取得手続の新設が図られた
3 財産開示手続の実効性アップ
(1)申立権者の範囲の拡大→債務名義の制限撤廃
改正前は債務名義のうち、仮執行宣言付判決・支払督促・執行証書による財産開示手続の申立てが許されていませんでした。改正後は、これらによる申立が可能になりました。
申立権者の範囲の拡大→債務名義の制限撤廃
あ 改正前の制限
改正前は、仮執行宣言付判決・支払督促・執行証書については、これに基づく財産開示手続の申立てが許されていなかった
い 改正
債務名義の制限は撤廃された
※民事執行法197条(変更)
う 改正の理由
(ア)平成15年当時懸念されていた、執行証書を用いての貸金業者による手続悪用のおそれについては、その後の貸金業法改正により減少した(イ)いずれの債務名義であっても、行いうる強制執行手続に差異はなく、理論的にも、債務名義の間で財産開示手続を利用につき差異を設ける合理性に乏しい(ウ)夫婦の別居や離婚の場合における子供の養育費等の請求権やその履行の確保のために、執行証書の活用が推奨されているなど、執行証書をめぐる社会情勢に変化がみられる
(2)制裁の強化→過料から懲役・罰金へ
財産開示手続の制裁(罰則)が、改正前の30万円以下の過料から6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金に引き上げられました。この改正は、開示義務者の期日不出頭が多く実効性が不十分だったこと、過料のみでは威嚇効果が不十分だったことが理由です。
制裁の強化→過料から懲役・罰金へ
あ 改正前の制裁
30万円以下の過料だった
※民事執行法206条(廃止)
い 改正後の制裁
6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金となった
※民事執行法213条(新設)
う 改正の理由
(ア)開示義務者が期日に出頭しない例が多く、その実効性が十分とはいえない状況が続いていた(イ)過料の罰則のみでは債務者に対する威嚇効果が不十分であることが指摘されていた
(3)改正後の財産開示手続(概要)
改正後の財産開示手続については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|裁判所による財産開示手続の全体像(手続全体の要点)
また、財産開示手続の実効性についても、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|財産開示手続の制裁(罰金・懲役)と実効性
4 第三者からの情報取得手続の新設
(1)新設に至った背景
平成15年の担保・執行法改正では、第三者による探索の技術的困難や債権者による濫用的利用の懸念から、第三者からの情報取得制度は採用されませんでした。しかし、近年の金融機関や公的機関の情報管理体制の変化や濫用的利用の懸念の減少により、制度新設の環境が整い、この制度が新設されるに至りました。
新設に至った背景
あ 平成15年の検討と不採用の理由
(ア)第三者による探索が技術的に困難だった(イ)債権者による濫用的利用を危惧した
い 近時の変化
(ア)金融機関や公的機関における情報の管理体制に変化が見られる(イ)債権者による濫用的利用の懸念が減少した
(2)債務者の不動産情報の取得(概要)
新設された、第三者からの情報取得手続は大きく3つに分けられます。まず、登記所(法務局)からの債務者所有不動産の情報を取得する制度です。
債務者の不動産情報の取得(概要)
あ 制度の要点
債権者からの申立てに基づき、裁判所が登記所に対して、債務者所有不動産に関する情報提供を命じることができる
い 要件
強制執行が不奏功又は不奏功に至る見込みがある
財産開示手続の前置
※民事執行法205条(新設)
(3)債務者の給与債権(勤務先)情報の取得(概要)
第三者からの情報取得手続の2つ目は、市町村や日本年金機構から債務者の勤務先の情報を取得する制度です。この手続を利用できるのは、扶養義務等にかかる債権と人の生命もしくは身体の侵害による損害賠償請求権を有する債権者に限定されています。
債務者の給与債権(勤務先)情報の取得(概要)
あ 制度の要点
債権者からの申立てに基づき、裁判所が、地方税を扱っている市町村や、日本年金機構や各種共済組合をはじめとする厚生年金保険事務取扱者に対し、債務者の給与債権に係る情報提供を命じることができる
い 要件(債権の制限)
扶養義務等にかかる債権と人の生命もしくは身体の侵害による損害賠償請求権に限定されている
※民事執行法206条(新設)
(4)預貯金・金融資産に関する情報取得手続(概要)
第三者からの情報取得手続の3つ目は、金融機関に対する預貯金債権に関する情報提供制度と、振替機関等に対する振替社債の情報提供制度です。
預貯金・金融資産に関する情報取得手続(概要)
あ 制度の要点
裁判所が金融機関に対して預貯金債権に関する情報提供を命じることができる
裁判所が振替機関等に対して振替社債等の情報提供を命じることができる
い 要件
強制執行が不奏功又は不奏功に至る見込みがあることのみ
(財産開示手続前置は不要である)
※民事執行法207条(新設)
5 参考情報
参考情報
本記事では、債務者の財産調査制度についての令和元年の民事執行法改正について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に財産開示手続、第三者からの情報開示手続など、債権回収に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。