【民事調停の効果的な活用の実例(適している紛争の典型例)】

1 民事調停の効果的な活用の実例(適している紛争の典型例)

紛争を解決する手続(手段)にはいろいろなものがあり、訴訟は代表的なものですが、それ以外に、簡易裁判所が行う民事調停もあります。マイナーな手続というイメージですが、状況によっては非常に使い勝手がよいこともあります。
本記事では、民事調停が活用できる状況について、実例を挙げながら説明します。

2 紛争の公表を避けるための民事調停の活用

民事調停には、非公開であるという大きな特徴があります。逆にいえば、訴訟は公開する、という根本的な制度設計となっています(憲法82条)。
民事調停が非公開であるという特徴から、紛争、つまり対立している、ということ自体が公表されないで済むというメリットが出てくるのです。
著名人や有名企業にとっては、いわゆるスキャンダルやレピュテーションの低下を回避できるという点は、とても価値のあるメリットになります。

紛争の公表を避けるための民事調停の活用

あ スキャンダル回避

非公開の手続によって早期に解決したいとき
有名人、著名人、あるいは知名度の高い企業などが絡む紛争では、訴訟のような公開の手続では、当事者双方が社会的にスキャンダルに巻き込まれるおそれがある。
特に芸能人や有名企業では、紛争そのものが表に出ることを避ける心理が強く働く一方、紛争自体も早期に解決しようとする思いも強い。
そのようなとき、非公開の手続で、早期に解決できるのが民事調停である。

い レピュテーション低下回避

社会的評価を失いたくないとき
有名企業が最も大事にするのが、社会からの評価である。
好感度が企業の業績に直結するからである。
好感度を維持することに腐心するのは、芸能人や有名スポーツマンなども同じである。
特に、企業にとっては、たとえ自らの権利を守るためであっても、訴訟をすると、「誰かを相手にして争う企業」と捉えられたり、訴訟の相手を非難するような場面も出てくるから、人気やイメージ、好感度といった社会的評価が下落する可能性がある。
そうなると、メーカーであれば商品の売行きが、集客施設であれば来場者の減少といった事態も考えなければならない。
このリスクをレピュテーションリスク(Reputation risk)といい、これを避けるために、紛争をそもそも公開しないで解決する民事調停が選ばれることがある。
※羽成守稿/日本調停協会連合会編著『調停による円満解決』有斐閣2022年p240、241

3 タレント対マネージャーのトラブル解決の事例

民事調停の非公開というメリットが最大限に発揮される状況として、著名人とマネージャーの紛争が挙げられます。著名人は当然として、マネージャーとしても、その後、同じ業界で働く前提であれば、紛争となったことが広く知られることは避けたいと考えます。このように、公表を避ける意向について両者が共通していたことから、民事調停が比較的スムーズに進み、早期解決につながる、という傾向があります。

タレント対マネージャーのトラブル解決の事例

あ 民事調停を選ぶ理由

有名タレントの女性マネージャーが、タレントのセクハラが原因で退職することとなった。
マネージャーは、慰謝料と退職金を求め、民事調停を申し立てた。
民事調停を選んだ理由は、双方にあった。
もしセクハラの事実が明らかになれば、タレントは社会的な非難を浴びて仕事に大きな影響が出る。
一方マネージャーも、芸能界という狭い世界で生きて行くにはタレントを相手にして争ったという評判が立てば次の仕事にも差し支えることから、秘密裏に解決するには非公開の民事調停が最も優れているというものだった。

い 調停の進行

調停委員会としても、当事者の思いを受け、第1回期日で双方に和解案の見通しを示し、事前に和解の心積もりを準備するよう求め、第2回期日で具体的和解条項を示し、事前に準備していた双方が、その場で合意し、わずか2回の調停で終了したというケースがある。
※羽成守稿/日本調停協会連合会編著『調停による円満解決』有斐閣2022年p240、241

4 企業合弁のトラブル解決の事例

紛争自体の公表を避ける意向が一致する状況として、有名企業の合弁(提携)に関する紛争も挙げられます。両者が、公表を避けたいという意向が共通していれば、調停がスムーズに進み、早期解決に至るという傾向があります。

企業合弁のトラブル解決の事例

あ 民事調停申立の経緯

日本を代表する企業2社が合弁事業を立ち上げることとなった。
この事業は、両社の弱点を補い合うものとして期待されたが、結局、取り止めることとなった。
問題は、それまでの経費をどのように負担するかであった。
既に億単位の支出をしていた両社の調整は極めて困難であったが、両社とも合弁事業の失敗の理由、損失負担、そして両社間で紛争となっていることなどが社会的に知られないよう民事調停を申し立てたのである。

い 調停の進行

裁判所の調停を経由することで、解決案の合理性が担保され、重要な部分は非公開のまま紛争が終結することとなった。
まさに民事調停の非公開制が解決のカギとなったのである。
※羽成守稿/日本調停協会連合会編著『調停による円満解決』有斐閣2022年p241、242

5 会社が株主の理解を得るための民事調停の活用

民事調停では、裁判所(調停委員)が和解案が提示するということがあります。このこと自体が解決の実現に強く働く状況もあります。具体例として、会社が株主の理解を得ることにつながる状況があります。
もともと、会社の運営は取締役に委ねられていますが、他方で、後から、「取締役の判断が適切ではなかった」と主張され、後から取締役が責任を取らされることがあります。典型例は株主代表訴訟です。
このようなことを避ける手法として、民事調停の手続の中で和解(調停成立)をする、というものがあります。裁判所の提案に応じる、というプロセスを踏めば、株主としても取締役の独断ではないと考えることになります。万一株主代表訴訟となったとしても、取締役が和解に応じた判断は不適切(違法)ではなかったという方向に働きます。
なお、訴訟の中で裁判所が和解案を提示した状況でもこのことは同じです。ただし、訴訟の場合は前述のように公表されますので、この点でデメリットがあります。

会社が株主の理解を得るための民事調停の活用

あ 会社としての判断に伴う役員のリスク

上場会社が当事者となるケースで、株主の理解を得ようとするとき
上場している株式会社は、その経営について、常に株主からの監視の眼がある。
株主代表訴訟制度(会社法847条)がこれであり、株主が、取締役、監査役等の役員に対し法的責任、主に損害賠償責任を追及する制度である。
取締役らの役員は、自らの経営判断に対し株主から責任を追及される危惧を常に抱いているといわれ、そのため、会社役員賠償責任保険に加入することが一般的になっている。
会社役員にとって、第三者ないし取引先との交渉、合意等で多額の金銭が絡むケースにおいて、よかれと思って出した結論が、後に株主代表訴訟で会社の利益にならないと判断され、損害賠償を命じられる事態は避けなければならない。

い 民事調停によるリスク軽減

そのようなとき、交渉や合意の場として非公開の手続である民事調停を申し立てれば、紛争の存在は明らかにしないことができ、裁判所が関与してできあがった合意内容については、一応、客観性、公正性が担保されているものと考えられ、株主に対しても説明がしやすくなるものと考えられる。
特に、紛争相手に譲歩した点についても、調停委員会の勧めによって譲歩したものであるとの説明を行うことにより、役員が独断で合意したとの非難を避けることができ、株主代表訴訟を提起される危険が減少すると考えられる。
※羽成守稿/日本調停協会連合会編著『調停による円満解決』有斐閣2022年p242、243

6 地方自治体が議会の承認を得るための民事調停の活用

前述の、取締役と株主の関係は、地方自治体と地方議会との関係にもあてはまります。たとえば、学校で児童や生徒が怪我をする事故が起きたケースで、地方自治体が個別的な紛争で和解に応じる場合には、議会の承認を得ることになります。議会が承認するという判断をする時に、裁判所の提案が大きく役立ちます。
この点、訴訟における裁判所の和解案でも同じです。しかし、訴訟の場合には和解が決裂したら判決となるという構造があります。一概にはいえませんが、ここまで来たら(訴訟まで進んでいるのだから)判決をもらう方がよい、つまり和解には応じない、ということになることもあります。
この点、民事調停は和解が決裂したら手続自体が終了してしまうので、裁判所が提案する和解案に応じる選択肢を前向きに検討する傾向があるのです。

地方自治体が議会の承認を得るための民事調停の活用

あ 地方自治体を相手とする紛争の具体例

地方公共団体との紛争で、合意内容の合理性を担保し、議会の承認を得やすくしようとするとき
地方公共団体を相手とする紛争は身近に存在する。
特に多いのが、公立の小・中・高等学校などにおける児童生徒の事故である。
公の営造物の設置または管理に瑕疵があったことによる事故、いわゆる学校事故のほか、いじめによる自殺等に対し、地方公共団体が十分な予防措置をとらなかった点に故意または過失があったとして国家賠償法に基づく損害賠償を請求するといったような場合である。

い 訴訟の欠点

国賠法に基づく訴訟は、和解がまとまることはかなり困難である。
事実関係の確定に長期を要することとなる。
仮に和解案が提示されても、受諾するか否かは議会の承認が得られるかにかかっており、地方公共団体の訴訟担当者は、結局、裁判所の判決を理由として議会承認を得ることになり、早期の解決は困難となる。

う 民事調停の有用性

しかし、事故・事件がマスコミ等で報道され、社会的にも地方公共団体の落ち度が指摘されるようなとき民事調停は効果的である。
何よりも、裁判所が仲介し、双方の言い分を十分に聞いた上で、適正妥当な調停案を示すことにより、合理性、公平性が保たれ、議会の承認も得られやすくなるからである。
公正な内容で早期の解決を図れることは何よりも当事者のメリットとなる。
※羽成守稿/日本調停協会連合会編著『調停による円満解決』有斐閣2022年p243、244

7 判決と和解の中間的手続(概要)

以上のように、民事調停では、裁判所が和解案を作って提示する、ということが解決につながることがよくあります。ここで、裁判所が和解案を示す方法には、単に示す方法もありますが、もっと正式に、裁判所としての決定として和解案を示すという手続もあります。17条決定(調停に代わる決定)というものです。状況によっては、単なる和解案の提示ではなく17条決定を使った方が解決の実現につながる、ということもあります。17条決定の手続については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|判決と和解の中間的手続(裁定和解・17条決定・調停に代わる審判)

8 民事調停手続のオンライン進行(電話会議・ウェブ会議)

以上のように、状況によっては民事調停という選択肢が解決の実現につながることもあります。
この点、民事調停というと、裁判所まで行き、待ち時間も長い、というマイナスのイメージもあります。しかし、現在ではオンラインの手続も導入されているので、効率的に参加することが可能となっています。

民事調停手続のオンライン進行(電話会議・ウェブ会議)

従来、民事調停は簡易裁判所への当事者出頭が原則であったが、民事調停期日の手続を電話会議システム等で行うことが可能となった。
これにより、遠隔地の当事者であっても民事調停を電話会議システム等で行うことができ、訴訟における電話会議システムと何ら変わらず、代理人弁護士としては事務所にいながら民事調停手続を行うことができる。
とかく、調停というと家事調停のような長時間を要するものとの考えは改める必要がある
※羽成守稿/日本調停協会連合会編著『調停による円満解決』有斐閣2022年p246

9 家事調停と民事調停の関係

ところで、紛争が家庭に関するものである場合には、同じ調停でも、家庭裁判所の家事調停を行うのが通常です。家庭に関するトラブルとは、離婚やその逆に修復を求めるもの、また、夫婦以外の親族の間のトラブルが広く含まれます。
詳しくはこちら|関係修復を目指す夫婦円満調停が利用できる、離婚方向でも活用できる
家事調停(家庭裁判所)も、民事調停(簡易裁判所)と同じように、非公開であり、また、裁判所が和解案を示すという機能があります。
なお、近くに簡易裁判所はあるけど家庭裁判所は遠い、という場合には、家庭に関する紛争であっても、簡易裁判所の民事調停を使う、というイレギュラーな手法もあります。

家事調停と民事調停の関係

・・・「家庭に関する事件」とは広義では「民事に関する紛争」事件でもありますので、両者は重なり合う関係にあるとも解されます。
そこで、実務上は図表(1)の④の一般事件中離婚と離縁を除いた民事訴訟事件は、家事調停の対象でもあり得、かつ民事調停の対象ともなり得ると解することも不可能ではありません。
家庭裁判所の支部や出張所のない地方の簡易裁判所(いわゆる独立簡裁)を利用するメリットがあるときは、民事調停の対象となる「民事に関する紛争」事件としてその簡易裁判所に民事調停として申し立てる工夫もあり得ると思われます。
地方の裁判所では、民停委員と家事調停委員を兼ねている場合もあり、④の民事訴訟事件に限っていえば、両者を厳密に分けて運用することは現実的だとは思われません
※梶村太市著『家事事件手続法規逐条解説(3)』テイハン2019年p19、20

本記事では、民事調停の効果的な活用方法や、民事調停が適している紛争の典型例を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、最適な対応方法は違ってきます。
実際のトラブルに直面し、裁判所の手続も検討されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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