【民事訴訟における違法収集証拠の具体例(裁判例)】

1 民事訴訟における違法収集証拠の具体例(裁判例)

民事訴訟でも違法な証拠が使えない、つまり、証拠能力が否定される、ということがあります。刑事訴訟ほどではないですが、違法の程度が特に強い場合に限って証拠能力が否定されるのです。
詳しくはこちら|民事訴訟における違法収集証拠の証拠能力(理論・基準)
実際にどのような状況で証拠能力が否定され、また、否定されないのか、ということは過去の事例が参考になります。
本記事では、違法収集証拠の証拠能力を判断した多くの裁判例を紹介します。

2 無断録音の証拠能力を判定した裁判例

会話している相手の承諾をとらずに録音したものは、その状況によっては証拠能力が否定されます。最初に裁判例だけ整理しておきます。

無断録音の証拠能力を判定した裁判例

あ 証拠能力肯定

・東京高判昭和52年7月15日(後記※1
・盛岡地判昭和59年8月10日(後記※1

い 証拠能力否定

・大分地判昭和46年11月8日

3 無断録音のケース(証拠能力肯定)

無断録音されたものについて、証拠能力が肯定されたもの、つまり証拠として使えた、という事例を紹介します。

無断録音のケース(証拠能力肯定)(※1)

あ 酒席での言質を隣室で録音

ア 規範 その証拠が、著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって採集されたものであるときは、それ自体違法の評価を受け、その証拠能力を否定されてもやむを得ない
イ あてはめ 酒席での言質を隣の部屋で無断で録音したことについて、著しく反社会的な手段方法にはあたらない
→証拠能力を肯定した(要旨)
ただし、証拠力は低く評価し、要証事実は認定していない。
※東京高判昭和52年7月15日

い 過去の犯罪を認めた会話の無断録音

ア 規範 会話の内容自体が個人の秘密として保護に値するか否か、とりわけその内容が公共の利害に関する事実か否か、訴訟において当該証拠の占める重要性等を総合考慮して判断する
イ あてはめ 一六年前の昔にひき逃げをしたことを認めた会話の無断録音について、公共の利害に関することであり、他の代替証拠も乏しい
→証拠能力を肯定した(要旨)
※盛岡地判昭和59年8月10日

4 置き忘れた日記(証拠能力肯定)

次に、相手が置き忘れた日記を保管しておいて証拠として使った、というケースです。日記という点ではプライバシーに関わるので違法性が強いと思いますが、獲得過程は強奪でも盗み出したというものでもありません。結局証拠能力は否定されませんでした。

置き忘れた日記(証拠能力肯定)

あ 事案

原告が被告の日記を提出した
日記は、被告(養子)が原告(養父)の居住宅に残置したものである

い 判断

→証拠能力を肯定した(要旨)
※大判昭和昭和18年7月2日

5 郵便受けから持ち出された手紙(証拠能力肯定)

第三者の住居の郵便受けから手紙を持ち出して証拠として提出した、というケースです。このような事情では通常、違法性が強いと思われます。
しかしこのケースでは、証拠を提出した者は妻であり、第三者の住所とは、夫が用意した不倫相手の住居であり、夫はこの不倫相手のことを妻に隠していなかった、という事情がありました。また、夫婦は同居して、仕事も一緒にしていました。そのような事情から、証拠能力が否定されるには至りませんでした。
逆にいえば、完全に他人の住居の郵便受けから手紙を持ち出した場合には証拠能力が否定されることは十分にありえます。

郵便受けから持ち出された手紙(証拠能力肯定)

あ 基準

それが著しく反社会的な手段を用いて採集されたものである等、その証拠能力自体が否定されてもやむを得ないような場合を除いて、その証拠能力を肯定すべきものである。

い 判断

この点を検討するに、たしかに、《証拠省略》によれば、甲第一の一、二は原告が前記戊田マンションの郵便受けの中からTに無断で持ち出して開披し、隠匿していた信書であることが認められ、夫婦間の一般的承諾のもとに行われる行為の範囲を逸脱して取得した証拠であることが伺われなくもないが、前記認定のとおり、Tは、被告との関係を原告に隠そうとしていなかったこと、Tは現在も被告らと共に鰻屋を営んでおり、原告と同居していることがみとめられる(原告本人)のであるから、右証拠収集の方法、態様は、民事訴訟において証拠能力を否定するまでの違法性を帯びるものであるということはできないと考える。
※名古屋地判平成3年8月9日

6 置き忘れた手帳(証拠能力肯定)

労働問題で、相手が会社内(会議室)に手紙を置き忘れ、そのコピーが証拠として提出されたケースです。日記のような、私生活に関する内容ではない、ということもあり、証拠能力が否定されるには至りませんでした。

置き忘れた手帳(証拠能力肯定)

あ 事案

人事部長が会議室で労働者側と面接した際に机上に残置した手帳が、何者かによって無断で持ち去られ後日返還されたが、そのコピーが提出された

い 判断

手帳のコピーが労働者側を介して手に入ったというだけでは違法行為ということはできない
手帳の内容が職務上の出来事や行事予定を記載したものであって個人の私生活にかかわるものではない
→証拠能力を肯定した(要旨)
※名古屋高決昭和56年2月18日

7 第三者が窃取した手帳(証拠能力肯定)

会社内で資料が持ち出されて、それが証拠として提出されたケースです。このケースでは、施錠されたキャビネットから持ち出されていました。違法性が高いですが、誰が持ち出したかは不明でした。そこで、証拠能力が否定されるには至りませんでした。
逆にいえば、当事者自身、あるいは当事者から指示された者が持ち出した、という事情があれば、証拠能力は否定される、ということになります。

第三者が窃取した手帳(証拠能力肯定)

あ 事案

被告会社の労務課の施錠された専用キャビネットに保管中の文書が原告労働者側に渡った

い 判断

単に第三者の窃取にかかる文書を入手したというだけでは証拠能力否定に足りない
→証拠能力を肯定した
ただし、自らあるいは第三者を教唆して他方当事者の文書を窃取した場合には信義則上その文書を証拠にすることはできないとしている(要旨)
※神戸地判昭和59年5月18日

8 無断で持ち出された文書(証拠能力否定)

無断で持ち出された文書について、証拠能力が否定されたケースもあります。具体的には、夫婦が別居した後で、妻が夫の住居に不法に侵入した上で、大学ノートを盗み出した、というものです。
その盗み出したノートの内容は、夫が弁護士との打ち合わせ内容をメモしたもの、つまり妻との訴訟戦術が記載されたものでした。
さらに、妻側は、夫の尋問の時に、サプライズでこのノートを提出しようとしました。
結論として裁判所は証拠能力を認めませんでした。
収集過程の違法性も強いですが、さらに証拠(情報)の内容の性質も考慮して証拠能力が否定されたといえます。

無断で持ち出された文書(証拠能力否定)

あ 文書の内容・性質

・・・乙四の大学ノートについてみると、同文書の記載内容・体裁、甲六の原告の陳述書の記載内容との比較対照の結果、原告本人の供述を総合すると、乙四は、原告本人が甲六の陳述書の原稿として弁護士に対し差し出したものか又はその手元控えであることが明らかであり、そのような文書は、依頼者と弁護士との間でのみ交わされる文書であり、第三者の目に触れないことを旨とするものである。

い 収集過程

乙四は、おそらく春子が原告と別居後に原告方に入り、これを密に入手して、被告を介して、被告訴訟代理人に預託したものと推認される。

う 結論

そうすると、乙四は、その文書の密行性という性質及び入手の方法において、書証として提出することに強い反社会性があり、民事訴訟法二条の掲げる信義誠実の原則に反するものであり、
そのような証拠の申出は違法であり、却下を免れないというべきである。

え 証拠提出の方法(不当性)

特に、乙四には、これを子細にみると、被告に有利な点もあれば、不利な点もあり、被告は、突然として、後出の書証として、提示し、そのうち有利な点をあげつらって、反対尋問を行おうとしたものであって、許容し難い行為である。
※東京地判平成10年5月29日

9 実力行使による携帯電話の撮影(暴力の証拠なし→証拠能力肯定)

夫が妻から、殴るなどの実力行使により携帯電話を取り上げ、その内容(画面)を撮影した(と主張された)ケースです。
仮にそのとおりであれば証拠能力が否定されてもおかしくないケースです。
しかし、実際にはその実力行使(暴力)を裏付ける証拠がなかったために、証拠能力が否定されるには至りませんでした。
一般論として、暴力を振るわれたという主張があるけれどその証拠がない、というケースはよくあります。裁判所は証拠がない、ということで結果的に無視することになります。しかし、本当に虚言だったのか、そうではなく、実際に暴力はあったのに言い逃れが成功したのか、それは神のみぞ知る、といえます。

実力行使による携帯電話の撮影(暴力の証拠なし→証拠能力肯定)

あ 基準

民事訴訟法は、いわゆる証拠能力に関して規定を置かず、当事者が挙証の用に供する証拠については、一般的に、証拠価値はともかくとしても、その証拠能力については、これを肯定すべきものと解されている。
しかし、その証拠が、著しく反社会的な手段を用い、人の精神的、肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって収集されたものであるなど、それ自体違法の評価を受ける場合は、その証拠能力も否定されるものと解すべきである。

い あてはめ

そして、使用者の同意なくして携帯電話からメールを収集する行為は、通常、使用者の人格権の侵害となり得ることは明らかであるから、その証拠能力の適否の判定に当たっては、その手段方法や態様等が著しく反社会的と認められるか否かを基準として、考察するのが相当である。
これを本件についてみるに、原告は、Aの鞄や衣装ケースから携帯電話を抜き出したり(原告本人)、洗顔中、着用しているジーンズの後ろポケットから携帯電話を背後から抜き取り(原告本人、証人A)、これを奪い返そうとしたAともみ合いになり、その際、原告は、Aの顔面や脚部を数回、殴打するなどの暴行を加えた(証人A)というのであるが、その暴行の程度を証明する診断書や写真等の客観的な証拠は提出されておらず、Aの証言を除いて、これを認めるに足りる証拠はない
そうすると、原告が、Aの意に反して、本件法廷に提出された証拠(甲6、7、9、ないし12(枝番を含む。))を収集したことは認められるとしても、このことをもって、Aの人格権を著しく害する反社会的な手段方法や態様において、これを収集したものとまでいうことは困難であるから、前記各証拠が証拠能力を有しないものとすることは相当ではない。
※東京地判平成18年6月30日

10 潜入調査による調査結果の証拠能力

相手に調査目的を隠して情報を収集することも、収集態様の違法性が問題となる場合があります。
調査目的であることを知っていれば開示しないような情報を、それと知らせずに開示させることは、相手の人格権を侵害するおそれがあります。
そのような事案が問題となったケースがあります。調査の過程で、他人に危害を加えたり、自由意思を抑圧するなどの手段をとることはなかったことを理由に、証拠能力が否定されるには至りませんでした。

潜入調査による調査結果の証拠能力

あ 事案

調査会社の調査員が、調査対象であるダンススクールに正式な手続を経て入校し、目的を秘匿して調査した

い 判断

証拠能力を否定するほどの違法性なし
→証拠能力を肯定(要旨)
※名古屋地判平成15年2月7日

本記事では、民事訴訟において違法収集証拠の証拠能力が判断された多くの事例(裁判例)を紹介しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に証拠に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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