【住宅ローンのある不動産の財産分与における夫・妻の取得額の計算方法】
1 住宅ローンのある不動産の財産分与における夫・妻の取得額の計算方法
離婚の際に、夫婦の財産を分けることになります(清算的財産分与)。その際、住宅ローンが残っている不動産(マイホーム)は計算方法が複雑になります。具体的には、夫と妻それぞれが取得する分を金額で出すという計算です。
本記事では、不動産の財産分与で、夫と妻の取得額をどのように計算するか、ということを説明します。
2 総合清算と分離清算
夫婦の財産として不動産がある場合、預貯金など、それ以外の夫婦の財産もあるのが通常です。財産分与の手続の中では、他の財産も含めて合算する、というのが一般的です。他方、事案によっては、不動産だけ切り出して別枠で計算する場合もあります。
総合清算と分離清算
あ 総合清算(一般的)
一般的には、不動産の時価を評価し、他の預金等の資産と合算し、寄与度を乗じて各自の取得額を算出し、具体的分与方法を定める。
い 分離清算(例外)
不動産のみ別枠で計算する場合もある。
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p103
どちらの方法を採用した場合にも、以下で説明する取得額の計算方法は共通しています。
3 固有財産部分と実質共有財産の混在
マイホームを購入(または建築)する状況では、夫婦の共同の資金以外の資金が混ざっているケースがとても多いです。具体的には、夫(または妻)が結婚前に蓄えた預貯金、結婚後に相続によって得た財産や、夫(または妻)の親からの頭金の一部の援助です。これらは夫婦共同の負担とはいえないので、計算上分けて考えることになります。
さらに、別居した後のローン返済も夫婦としての経済的な協力関係がない状態なので、夫(または妻)だけが負担した扱いとなります。
いずれにしても、このように分ける方法が計算を複雑にしているのです。
固有財産部分と実質共有財産の混在
あ 実情
以下では、協力して形成した財産を実質共有財産、夫婦が協力して形成したものではない財産を固有財産として表現する。
不動産は高額であるので、購入資金の中に、双方の固有財産部分と実質共有財産部分が混在していることが多い。
い 購入資金の内訳の例
ア 固有財産部分の例
・親からの贈与
・夫婦の一方が婚姻前に蓄えた預貯金、贈与や相続で得た資金
・住宅ローン返済分のうち同居前または別居後離婚時までに一方が返済した部分
イ 実質共有財産の例
・婚姻中に各自が稼働して蓄えた預金等による頭金
・住宅ローン返済のうち、同居開始から別居時までに返済した部分
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p103
4 夫・妻の取得額の計算方法(考え方)
では、不動産を財産分与する時に、夫と妻がそれぞれ取得する分を金額で出す方法の基本部分を説明します。
第1ステップとして、実質的な現在価値を出します。時価(売却金額)からローン残額を差し引いた金額のことです。
第2ステップとして、現在価値を夫と妻に分けます。つまり、各自の取得金額を出すのです。そのためには、不動産を得るために投入した金額のうち、夫が負担した金額と妻が負担した金額を出して、(現在価値を)その割合で分ける、ということになります。
この負担した金額の計算の中で、ローン返済金額は(同居中については)原則として夫婦が2分の1ずつ負担したとして考えます(2分の1ルール)。
以上の考え方が一般的ですが、実際には、事案内容によって違う計算方法が採用されることもあります。
夫・妻の取得額の計算方法(考え方)
あ 不動産の現在価値の算出
一般的には、現在(裁判では口頭弁論終結時)の不動産時価から現在のローン残額を差し引いた残額を不動産の現在価値とし、
い 各自の取得額の算出
これ(注・不動産の現在価値)に各自の寄与部分(固有資産部分、実質共有財産部分の2分の1)の割合を乗じて各自の取得額を計算する。
う 住宅ローン返済額の扱い→同居中・均等
同居期間中の住宅ローンの既払分は、原則夫婦が平等の割合で返済に貢献したとする
※東京高判平成10年2月26日
え 裁量の幅
ただし、計算の方式は、裁判官の裁量に委ねられ画一的ではない。
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p103、104
5 ローン返済額の計算(利息込と元本のみ)
前述の基本的な計算方法の中で、ローン返済額が出てきました。ローン返済額を細かく考えると、実際の返済額の中には、元金と利息があります。住宅の取得のために投入した資金という意味では元金・利息の両方が含まれます。一方、利息は金融機関に渡ったのであり、不動産に形を変えたわけではない(元金部分だけが不動産に形を変えた)と考え、返済金額のうち元本部分(の合計額)だけを取得額の計算で使う、という方法もあります。
理論だけで結論は出ないので、実務では、計算が複雑にならない利息込みを採用することが多いですが、元本のみを採用するケースもあります。
ローン返済額の計算(利息込と元本のみ)
あ 2とおりの計算方法の存在
価額算定にあたり、利息込みのローン返済金で評価する場合と返済金のうち元本返済部分のみで評価する場合があり、いずれであるかは裁判官の裁量による。
証拠資料の有無にもよる。
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p104
い 元本充当分を採用した裁判例
支払利息は金員借入のための対価として債権者(注・金融機関)に支払われたもので借主からみれば経費として費消したものであり、資産として借主側に形を変えて残存するものではない
元本充当分の合計額が当時の不動産の実質価値を表しているとみるのが相当である
※名古屋高金沢支決昭和60年9月5日
6 夫・妻の取得額の計算の具体例
以上の説明では、実際の計算方法を理解しにくいので、具体的な事例(設例)で、どのように計算するか、ということを示しておきます。
要するに今までに投入した金額を全部洗い出して、それぞれの金額について、夫だけが負担、妻だけが負担、共同での負担の3つに分ける、という作業を最初に行います。共同での負担は、さらに、(原則的に)2分の1にして、夫の負担と妻の負担に分けます。この投入(負担)額の2人に分けるができてしまえば、後はその金額で、現在価値を按分する、ということになります。
次の計算プロセスをみると、その方法がよく理解できると思います。
夫・妻の取得額の計算の具体例
あ 現在の状況
マンション購入価格 | 3000万円 |
現在時価 | 2500万円 |
現在ローン残額 | 1500万円 |
い 購入資金内訳
ア 頭金
夫の婚姻前の預金 | 500万円① | 夫の固有財産 |
妻の父からの贈与 | 400万円② | 妻の固有財産 |
婚姻後夫婦が蓄えた預金 | 100万円③ | 共有財産 |
イ ローン
残額(夫名義) | 2000万円 | ― |
同居中のローン返済額(利息込み) | 600万円④ | 均等 |
別居後の夫によるローン返済額(利息込み) | 80万円⑤ | 夫のみ |
う 不動産の現在価値
2500万円-1500万円=1000万円
え 各自の寄与分の整理
ア 実質的投入金額合計
頭金1000万 ローン返済計680万=1680万円⑥
イ 投入金額のうち夫負担部分
①500万 ③100万÷2 ④600万÷2 ⑤80万=930万円⑦
ウ 投入金額のうち妻負担部分
②400万 ③100万÷2 ④600万÷2=750万円⑧
お 各自の取得額
ア 夫の取得額
1000万円×930万円⑦/1680万円⑥≒553.6万
イ 妻の取得額
1000万円×750万円⑧/1680万円⑥≒446.4万
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p104
7 具体的な分与方法の選択(参考)
以上で説明したのは、不動産について、夫と妻の分与の程度(貢献度)を数字(金額)で出す、という部分だけです。実際には、この計算とは別に、不動産をどうするか、つまり、夫か妻が引き取るのか、第三者に売却するのか、という問題があります。
詳しくはこちら|住宅ローンが残っている住宅の財産分与の全体像(分与方法の選択肢など)
いずれの方法を採用するとしても取得額の計算を使って清算内容が決まります。
8 オーバーローンのケースの財産分与(概要)
以上の説明は、実質的な現在価値がプラスとなる場合(アンダーローン)を前提としています。この点、ローン残額が大きくて、不動産の価値を上回るアンダーローンの場合には、現在価値をどうするか、という問題が出てきます。この場合でもプラスとマイナスを全体として集計する(通算する)方法と、現在価値をゼロとして扱う方法があります。
詳しくはこちら|財産分与におけるオーバーローン不動産の扱い(全体で通算か清算対象からの除外)
本記事では、住宅ローンのある不動産の財産分与において夫と妻の取得額を計算する方法を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に離婚の際の不動産の扱いの問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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