1 「財産権」「財産」「財」(財産的価値)の意味や違い
2 法令用語辞典の「財産権」の説明
3 法律学小辞典の「財産権」の説明
4 憲法29条の条文
5 信託法1条改正における「財産権」と「財産」の違い
6 差押の客体としての「財産権」と「財産」
7 法令用語辞典の「財産」の説明
8 外国法における「財産」の意味
9 民法の贈与の規定における「財産」の趣旨
10 財産権(権利)・財産・その他(価値や利益)の関係
11 資金決済法における「財産的価値」の語法(概要)
12 電力(供給)について財産権(移転)を否定した判例

1 「財産権」「財産」「財」(財産的価値)の意味や違い

法令の適用や解釈の場面で「財産権」「財産」「財」「財産的価値」という用語が登場することがあります。日常用語としては意味や違いについて意識することはありませんが,法令の適用の場面では結果に大きな違いが出てくることがあります。
本記事では,これらの用語の意味や,どのように違うのか,ということを説明します。

2 法令用語辞典の「財産権」の説明

最初に,法令用語辞典の「財産権」の説明を押さえます。金銭的(経済的)価値のある権利である,という当たり前のような説明がなされています。「権」という文字のとおり,「権利」であるということがポイントです。
「権利」が何か,ということについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|「権利」「◯◯権」の意味(実定法・立法・政策論・講学上による違い)
「権利」を財産的なものと,そうでないものの2カテゴリに分けた場合の,財産的なもののことだ,ともいえます。
ちなみに,「財産権」というのは憲法29条にも登場しています。

<法令用語辞典の「財産権」の説明>

財産権
金銭的価値のある権利をいう。
例えば,物権,債権,無体財産権等が,これである。
ただし,民法上の債権は,金銭に見積もることのできないものも目的とすることができるとされている(民法399条)。
「財産権」に対立する概念は,「非財産権」であって,身分権及び人格権等がこれに属する。
憲法上,「財産権」は不可侵のものとされ,財産権の内容は,公共の福祉に適合するように法律(例―民法,商法農地法,漁業法,鉱業法,温泉法,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律等)で定めることとされており,私有財産を公共のために用いるときは,正当な補償をすべきこととされている(憲法29条)。
※角田禮次郎ほか編『法令用語辞典 第10次改訂版』学陽書房2016年p310

3 法律学小辞典の「財産権」の説明

さらに,法律学小辞典の「財産権」の説明もみておきましょう。経済的な取引の対象となる権利という,これも当然のような説明です。

<法律学小辞典の「財産権」の説明>

財産権
経済的取引の客体を目的とする権利の総称。
日本国憲法は,近代憲法の例に倣いこれを不可侵の権利として保障するが,同時にその内容は公共の福祉に適合するように法律で定められるものとしている(憲法29条1項,2項)から,近代初頭のような私有財産を天賦不可侵の権利とする考え方ではなく,私有財産には社会的な制約があるという考え方をとっているといえよう。
なお,財産権は私法の分類の観点からは,人格権や身分権に対立する意味で用いられる。
一般的には,物権・債権・知的財産権がこれに属する主なものであるが,民法典で財産権という語が用いられている場合(民法163条・167条2項((民案166条2項)・205条・264条・362条1項・424条2項)に,それがどのような具体的な権利を含むかは,それぞれの法規の趣旨・目的に応じて判断しなければならない。
※高橋和之ほか編『法律学小辞典 第5版』有斐閣2016年p471

4 憲法29条の条文

前述のように,「財産権」という用語は,憲法29条でも登場しています。私有財産制という国家としての基礎的設計を示す条文です。権利である以上,定義,要件,効果を法律で定める必要があります。このことについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|「権利」「◯◯権」の意味(実定法・立法・政策論・講学上による違い)

<憲法29条の条文>

第二十九条 財産権は,これを侵してはならない。
2 財産権の内容は,公共の福祉に適合するやうに,法律でこれを定める
3 私有財産は,正当な補償の下に,これを公共のために用ひることができる。

5 信託法1条改正における「財産権」と「財産」の違い

ところで,信託法1条の改正において,「財産権」が「財産」に変更されました。これは,「財産権」だと(文字どおり)「権利」(にあたるもの)を意味するので,「権利未満の利益(価値)」を含めるという趣旨です。

<信託法1条改正における「財産権」と「財産」の違い>

(「財産権」ではなく「財産」としたこと)
現行法第1条が「(前略)財産権ノ移転(後略)ヲ為シ」(傍点は筆者による)と規定しているのに対し,本試案第1条は「(前略)財産の処分(中略)を受けた(後略)」(傍点は同じく筆者による)と規定している。
端的にいうなら,「財産権」を「財産」に変更したのである。
以下において,その理由をふくめて説明しておこう。
まず第1に,信託の客体を拡大することが変更の理由であった。
「財産権」では信託の客体が「権」とまで呼ばれるほどに熟した利益に限定され,たとえば老舗,得意先などの営業上の利益のごときは信託の客体とされえないと解されるおそれがある。
そこで,本試案では,広く「財産」として,この危惧を解消することにしたのである。
第2に,ここで「財産」とは,積極財産はもとより債務をもふくむと解する。
※米倉明稿『信託の定義及び設定』/『信託法研究10号』信託法学会1986年p6
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p16参照

6 差押の客体としての「財産権」と「財産」

ところで似ている制度の規定なのに,使われている用語が「財産権」,「財産」と異なるものがあります。差押について,一般的な差押(民事執行法)と税金滞納の時の行政による差押(国税徴収法)の規定です。

<差押の客体としての「財産権」と「財産」>

あ 民事執行法の「その他の財産権」の強制執行

ア 要点 財産権が強制執行(差押)の客体として規定されている
イ 民事執行法167条1項の条文規定 不動産,船舶,動産及び債権以外の財産権(以下この条において「その他の財産権」という。)に対する強制執行については,特別の定めがあるもののほか,債権執行の例による。
※民事執行法167条1項

い 国税徴収法による差押

ア 要点 滞納処分としての差押について,財産がその客体として規定されている
イ 国税徴収法47条の条文規定 次の各号の一に該当するときは,徴収職員は,滞納者の国税につきその財産を差し押えなければならない。
※国税徴収法47条柱書
ウ 国税徴収法72条1項の条文規定 前三款の規定の適用を受けない財産(以下「無体財産権等」という。)のうち特許権,著作権その他第三債務者等がない財産の差押えは,滞納者に対する差押書の送達により行う。
※国税徴収法72条1項

7 法令用語辞典の「財産」の説明

ここまでの説明からは,「財産」には「権利未満」のものも含まれるように思えます。その一方で,「財産権」と「財産」が同じ意味で使われているように思えるものもあります。
そこで,「財産」の意味について,法令用語辞典の説明をみてみましょう。
財産権つまり,権利であるという説明になっています。

<法令用語辞典の「財産」の説明>

財産
財産の一般的意義については,特定の主体に属する財産権の総体とする説及び特定の目的の下に結合した財産権の総体であるとする説等がある。
「財産」は,物権,無体財産権等の金銭的価値のある権利から成る。
商人の得意先の関係,労働力のようなものは,まだ権利ではないから,原則として財産とはいわない
昭和29年改正前の旧日本占領地域に本店を有する会社の本邦内にある財産の整理に関する政令(昭和24年政令291号)2条1項5号においては,「(整理)財産」の中に,利益契約を含める規定があった。
※角田禮次郎ほか編『法令用語辞典 第10次改訂版』学陽書房2016年p309

8 外国法における「財産」の意味

ところで日本の民法は草案段階でいろいろな外国の法律が参照され,影響を受けています。というより,外国の民法上の用語が翻訳されて日本の民法の条文(の用語)になっているといえます。そこで,外国の民法の「財産」の意味も押さえておきます。物や権利・義務という意味とされています。

<外国法における「財産」の意味>

あ ドイツ法

財産(Vermögen)とは,経済的価値を有する物及び権利義務の集合である。
※我妻栄著『新訂 民法総則』岩波書店1965年p206

い フランス法

フランス法の通説的理解によれば,法的概念である「財産(bien)」権利であると解されているので,「財産権」との訳語が適切かもしれないが,ここでは「財産」と訳しておく。
※森田宏樹稿『財の無体化と財の法』/吉田克己ほか編『財の多様化と民法学』商事法務2014年p108

9 民法の贈与の規定における「財産」の趣旨

さらに,「財産権」と「財産」が対照的に登場するものとして,民法の売買と贈与の規定があります。売買の客体は「財産権」である一方,贈与の客体は「財産」となっています。一方,売買よりも贈与の客体の方が広いということは多くの見解で共通しています。
ということは,贈与の規定の「財産」には,(財産権(権利)未満の)利益も含むとも考えられます。

<民法の贈与の規定における「財産」の趣旨>

あ 条文規定(前提)

ア 贈与の規定(民法549条) 贈与は,当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し,相手方が受諾をすることによって,その効力を生ずる。
※民法549条
イ 売買の規定(民法555条)(参考) 売買は,当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し,相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。
※民法555条

い 贈与の客体の意味

なお,贈与が「自己の財産を無償で相手方に与える」契約とされるのは,財産権移転以外の財産的利益の供与を含むことによる。
※森田宏樹稿『財の無体化と財の法』/吉田克己ほか編『財の多様化と民法学』商事法務2014年p118

10 財産権(権利)・財産・その他(価値や利益)の関係

以上のように,「財産」の法的な意味には曖昧なところがあります。逆にいえば,「財産権」は「権利レベル」に限られる,「利益」「価値」「財」は,「権利レベル未満」も含むということははっきりとしています。
結局,権利レベル,中間的(曖昧),権利未満レベル,という3つのレベルに分類できます。

<財産権(権利)・財産・その他(価値や利益)の関係>

用語 意味(レベル)
「財産権」 権利(に該当するものに限られる)
「財産」 原則として権利だが,別の意味の可能性もある
「財」・(財産的)「価値」(後記※1)・「利益」 権利ではないものも含む

11 資金決済法における「財産的価値」の語法(概要)

法律上,「財産権」や「財産」の用語の使用を避けた実例があります。それは仮想通貨(暗号資産)の定義として「財産的価値」という用語を使ったというものです。
権利性を否定することを前提として,「財産権」「権利」という用語は使わず,また「財産」に「的」をつけるという工夫が読み取れます。

<資金決済法における「財産的価値」の使用(概要)(※1)

暗号資産(仮想通貨)の定義として,財産的価値という用語が使われている
※資金決済法2条5項
詳しくはこちら|仮想通貨(暗号資産)を保有することの「権利」性

12 電力(供給)について財産権(移転)を否定した判例

仮想通貨と同じように,「財産的価値」は認められるが「財産権」(権利)としては否定されるものとして,電気(電力)があります。電気を保有する者が,当該電気の所有権(物権)を有する,とはいえません。
この判例では,電気(電力)の供給財産権の移転とはいえない,という判断を示しています。解釈の対象となった法律(規定)自体,現在はありませんが,財産権を否定する判断自体は明快です。

<電力(供給)について財産権(移転)を否定した判例>

あ 電力の財産権(権利性)を否定した判例

・・・対価を得て之を供給する以上あたかも生産者が対価を得て産物を供給するに均しく従って電気の供給財産権の移転にあらずとするも少なくともその供給契約は産物の売却即ち売買契約に類する有償契約と解するを妥当とすべし・・・(現代語訳あり)
※大判昭和12年6月29日

い 物権の客体の適格性(前提・概要)

所有権(物権)(=財産権の1つ)の客体であるためには有体物である必要がある
詳しくはこちら|所有権の客体の適格性(要件)の基本的な内容

本記事では,「財産権」「財産」「財」「財産的価値」のような単純な用語の法的な意味や違いについて説明しました。
実際には,個別的事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際にこのような用語の意味に関連する(起因する)問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。