1 警察が捜査などにより犯罪被害を阻止(防止)する義務(不履行の責任)
2 反射的利益論(平成2年判例)の限界
3 警察権限行使義務発生の要件(基準)
4 国家賠償請求権発生の要件(基準)
5 警察権限不履行による国家賠償請求認容事例

1 警察が捜査などにより犯罪被害を阻止(防止)する義務(不履行の責任)

告訴や告発があった場合に,警察や検察(捜査機関)が捜査をする義務が発生するとは考えられていません。
詳しくはこちら|警察・検察が捜査をする義務(不履行の違法性)の基本
しかし,警察が犯罪被害を阻止できる状況では,そのような行為が求められます。そこで,状況によっては警察が捜査などをしなかったことにより国家賠償請求が認められることもあります。
本記事では,警察が権限行使をする義務について説明します。

2 反射的利益論(平成2年判例)の限界

前記のように,告訴や告発がなされただけでは捜査義務が生じないという見解が一般的です。正確には,捜査機関が捜査や起訴をしないことだけで国家賠償請求が認められるわけではないという意味です。
しかし,警察が権限を適切に行使しなかったために犯罪が阻止できず,被害が生じたという状況では国家賠償請求が認められることがあります。

<反射的利益論(平成2年判例)の限界>

あ 反射的利益論(平成2年判例・前提)

被害者が警察や検察の過失を理由として賠償を求めることが可能かについて
最高裁平成2年2月20日は犯罪捜査・公訴提起について反射的利益論を展開し,一般的に賠償責任追及ができないものとした
詳しくはこちら|警察・検察が捜査をする義務(不履行の違法性)の基本
※田村正博稿『警察捜査における被害者の地位』/『別冊判例タイムズ26 警察基本判例・実務200』判例タイムズ社2010年p58

い 反射的利益論の限界

しかし,常に責任追及ができないわけではない
現に被害状態が継続し,あるいはその後の被害の発生を防止するといった局面における捜査権限不行使は,過去の刑事責任追及それ自体とは異なる
※田村正博稿『警察捜査における被害者の地位』/『別冊判例タイムズ26 警察基本判例・実務200』判例タイムズ社2010年p58

う 桶川女子大生刺殺事件国賠訴訟・控訴審

東京高裁平成17年1月26日(桶川女子大生刺殺事件国賠訴訟・控訴審)は
違法性判断基準を導く過程で最高裁平成2年2月20日で判示された反射的利益論に立脚しつつ同様の論理展開を図っている
その上で一定の要件(基準)を前提に国家賠償請求を認めている(後記※1,※2)
※国賠訴訟判例研究会稿『国家賠償請求事件の裁判例から見た警察活動をめぐる諸問題』/『捜査研究645号』東京法令出版2005年4月p80

3 警察権限行使義務発生の要件(基準)

警察が権限を行使する義務が発生する要件を整理します。簡単に言うと,警察が犯罪などの危険を阻止できる状況です。正確には4つの要件に分けられます。

<警察権限行使義務発生の要件(基準・※1)>

あ 危険切迫性の存在

犯罪等の加害行為,特に国民の生命,身体,名誉等に対する加害行為が正に行われ又は行われる具体的な危険が切迫している

い 危険切迫性の認識

警察官においてそのような状況であることを知り又は容易に知ることができる

う 権限行使による結果回避可能性

警察官が上記危険除去のための警察権を行使することによって加害行為の結果を回避することが可能である

え 権限行使の容易性

その行使が容易である
※東京高裁平成17年1月26日;桶川女子大生刺殺事件国賠訴訟・控訴審
※最高裁昭和57年1月19日(同趣旨)
※最高裁昭和59年3月23日(同趣旨)
※国賠訴訟判例研究会稿『国家賠償請求事件の裁判例から見た警察活動をめぐる諸問題』/『捜査研究645号』東京法令出版2005年4月p78,79

4 国家賠償請求権発生の要件(基準)

前記の4要件のすべてが満たされると,警察が権限を行使する義務が生じます。では,警察がこの権限を行使しなかった場合には必ず国家賠償請求が認められるかというと,そうではありません。
簡単に言うと,警察の権限の不行使と国民の損害発生との間に因果関係が認められるということが必要なのです。

<国家賠償請求権発生の要件(基準・※2)>

あ 職務上の義務発生(効果)

(前記※1のすべての要件に該当する場合)
警察権の発動についての裁量の範囲を超えて,警察官が上記危険除去のための警察権を行使することにつき職務上の義務が生じることもあり得る

い 国家賠償請求の要件

警察官が上記職務上の作為義務(あ)に違背して警察権を行使しなかったことにより,犯罪行為等の招来を防止できず,国民の生命,身体,名誉等に被害を生じさせた(ような場合には)

う 国家賠償請求権発生(効果)

(『い』に該当する場合)
上記警察権の不行使が国家賠償法1条1項との関係で違法な公権力の行使に該当し,損害賠償責任を負う場合もあり得る
※東京高裁平成17年1月26日;桶川女子大生刺殺事件国賠訴訟・控訴審
※最高裁昭和57年1月19日(同趣旨)
※最高裁昭和59年3月23日(同趣旨)
※波床昌則稿『警察官が告訴を受理した事件の捜査を放置したことから公訴時効が完成し,被告訴人が不起訴になったことについて,その警察官の属する公共団体が告訴人に対し損害賠償の責任を負うことがありうるとされた事例』/『判例タイムズ677号臨時増刊 昭和62年度主要民事判例解説』1988年p131

5 警察権限不履行による国家賠償請求認容事例

実際に,警察が適切な対応をしなかったことにより国家賠償請求が認められた実例をまとめます。
いずれも,重大な被害が生じた事例です。警察の対応がよければ避けられたものです。

<警察権限不履行による国家賠償請求認容事例>

あ ナイフ保管措置の不履行

警察官が,ナイフの所持者からナイフを提出させて一時保管の措置をとらなかった
その直後に所持者が第三者に受傷を生じさせた
→国家賠償請求を認容した
※最高裁昭和57年1月19日

い 砲弾回収の不履行

海浜に旧陸軍の砲弾が打ち上げられた
警察が砲弾を回収する措置を取らなかった
これにより人身事後が生じた
→国家賠償請求を認容した
※最高裁昭和59年3月23日

う 捜査不備による殺害発生

警察が適切な捜査をしなかった
そのために被害者が殺害されるに至った
→国家賠償請求を認めた
※神戸地裁平成16年12月22日;神戸市大学院生殺害事件・第1審
※大阪高裁平成17年7月26日;神戸市大学院生殺害事件・控訴審
※最高裁平成18年1月19日;神戸市大学院生殺害事件・上告審;上告棄却

本記事では,警察が犯罪を阻止する義務や阻止できなかった責任について説明しました。
実際には個別的な事情によって結論が違うこともあります。
実際に警察の対応に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。