1 保全の担保算定における目的物価額基準説と請求債権額基準説
2 仮差押の担保算定の基礎に関する2つの見解
3 2つの見解の関係
4 目的物価額基準説の理由
5 請求債権額基準説の理由
6 目的物価額と被保全債権額の大きな乖離による却下
7 処分禁止の仮処分の担保算定の基礎

1 保全の担保算定における目的物価額基準説と請求債権額基準説

民事保全(仮差押・仮処分)の発令において,裁判所が担保の金額を定める際には,担保基準が用いられています。
詳しくはこちら|保全の担保金額算定の基本(担保基準の利用・担保なしの事例)
担保基準の中では,基礎となる金額に一定のパーセンテージを掛ける方法が多く用いられています。保全処分の種類によっては,基礎とする金額について,目的物の価額(価値)とする見解と請求債権額(被保全権利)とする見解があります。
本記事では,この2つの見解について説明します。なお,基本的に,不動産の仮差押を前提として説明します。

2 仮差押の担保算定の基礎に関する2つの見解

最初に,2つの見解をまとめておきます。

<仮差押の担保算定の基礎に関する2つの見解>

あ 目的物価額基準説

目的物の価額を基準とする

い 請求債権額基準説

請求債権額(被保全権利の額)を基準とする

3 2つの見解の関係

前記の2つの見解によって,担保金額を算定する元となる金額が違います。そのため,どちらの見解をとるかによって担保金額が違ってくることになります。
この点,そもそも担保基準はあくまでも目安であり,個別的な事情を考慮して具体的な担保金額が決定(算定)されます。
そのため,担保基準の内容の1つである,基礎とする金額に関する見解による違いが結果にそのまま現れるということはあまりないといえます。

<2つの見解の関係>

あ 実務における不統一

実務では,目的物価額基準説が用いられる傾向がある
※司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 補正版』日本弁護士連合会2014年p26,27
しかし,請求債権額基準説が用いられることもある
※西山俊彦著『新版 保全処分概論』一粒社1985年p116

い 両方の見解の影響

実務においては,いずれか一方の見解のみで担保額を算定しているわけではない
(主従があったとしても)両方の要素を加味して修正を行う

う 具体的判断結果への影響

結果においては見解の採否によって大きく変わることはない
専ら理論上の問題である
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事保全法』日本評論社2014年p57

こののように,2つの見解によって具体的な担保金額の決定に大きな違いはない傾向がありますが,だからといって2つの見解を把握することが無意味だということにはなりません。
少なくとも当事者(申立人や相手方)としては,保全申立や不服申立の中でしっかり主張することが,有利な担保決定を導くことになります。

4 目的物価額基準説の理由

2つの見解のうち,目的物価額基準説の理由は要するに,実質的に目的物全体の処分が制限されるということです。

<目的物価額基準説の理由>

あ 仮差押命令の形式(文言)

仮差押命令は,請求債権額の限度で目的物の処分を禁止するという表現はとっていない

い 仮差押登記の内容(表示)

不動産の仮差押の登記に,請求債権(被保全権利)の額は表示されない(登記事項ではない)

う 事実上の拘束の範囲

仮差押命令により,事実上,目的物全体の処分が困難となる
これが,(不当な保全により)債務者が受ける主な損害である

え 他の債権者との関係

債務者は,仮差押債権者のみならず,後に差押or配当加入した他の債権者に対しても,仮差押後の処分行為の効力を主張できない
※民事執行法87条1項4号,2項(手続相対効)
→仮差押の効力の客観的範囲は,請求債権額の限度にとどまらない
=目的物全部に及ぶ

お 解放金への制限の不当性

債務者は仮差押解放金を供託する義務はない
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事保全法』日本評論社2014年p57
※司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 補正版』日本弁護士連合会2014年p26

5 請求債権額基準説の理由

2つの見解のうち,請求債権額基準説の理由は要するに,理論的に請求債権の範囲に限って処分が制限されるというものです。

<請求債権額基準説の理由>

あ 理論的な拘束の範囲

債務者は,判例上,被保全権利の額を超える部分については,目的物の処分行為をもって債権者に対抗できる
※最高裁昭和35年7月27日
※最高裁昭和40年2月4日
→債務者が処分を禁止されているのは請求債権額の範囲に限られる

い 解放金による執行解消

債務者が仮差押解放金を供託すれば仮差押の執行から解放される
仮差押解放金は請求債権額が定められる
実質的に,請求債権額の範囲だけが拘束される構造である
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事保全法』日本評論社2014年p57
※西山俊彦著『新版 保全処分概論』一粒社1985年p117

6 目的物価額と被保全債権額の大きな乖離による却下

ところで,目的物の価額被保全債権額が大きく違う場合には,担保金額の決定より前の問題として,保全の必要性が否定される傾向があります。要するに小さな債権を保全するために,非常に大きな財産を拘束することは過剰である,という考え方です。
もちろん,その財産を押さえないと債権回収が困難となるという個別的な事情があれば,原則どおり保全の必要性が認められることになります。

<目的物価額と被保全債権額の大きな乖離による却下>

あ 金額の乖離による却下

目的物の価格被保全債権額よりも著しく高額となる場合には
『い』の2つを疎明しない限り
保全の必要性はないと判断される可能性が高い

い 保全の必要性の内容

ア 債務者がその物を他に処分する個別具体的な危険性
イ 債務者には他にめぼしい財産がないこと
※司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 補正版』日本弁護士連合会2014年p27

7 処分禁止の仮処分の担保算定の基礎

以上の説明は基本的に仮差押を前提としていました。
この点,処分禁止の仮処分は,目的物の全体の処分を制限するという意味では,仮差押と同じです。そこで,担保の判断についても,以上の仮差押に関する理論(解釈)はそのまま当てはまります。

<処分禁止の仮処分の担保算定の基礎>

あ 処分禁止の仮処分による拘束

処分禁止の仮処分について
債務者による目的物の処分を禁止するものである

い 担保の判断(仮差押との同質性)

処分禁止の仮処分による損害の担保については,仮差押と同様に考えられている
→担保の判断についても仮差押と同様である
※司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 補正版』日本弁護士連合会2014年p29

本記事では,保全の担保基準に関する目的物価額基準説と請求債権額基準説について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で担保に関する判断は違ってきます。
実施に保全の担保に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。