1 民法402条の『金銭』・『通貨』の意味(自由貨幣を含むか)
2 金銭債権の意味と法的性質
3 通貨と自由貨幣の意味
4 民法402条と強制通用力の規定との分離
5 民法402条の『金銭』を法定通貨とする見解
6 民法402条の『金銭』に自由貨幣を含む見解
7 民法402条の『金銭』の解釈の議論の実益(否定)

1 民法402条の『金銭』・『通貨』の意味(自由貨幣を含むか)

民法402条は,金銭債務通貨で弁済するという内容が規定されています。
詳しくはこちら|民法402条(金銭債務の通貨による弁済)の規定と解釈の基本
この規定の中の金銭(債務)については主に2種類の解釈があります。
なお,通貨は一般的に法定通貨の意味であると解釈されています。
本記事では,民法402条の金銭(債務)通貨の解釈について説明します。

2 金銭債権の意味と法的性質

金銭債権という用語は,とても多くの場面であまり意識しないで使われています。
正確には,一定の金銭の引渡を目的とする債権という意味です。特殊な種類債権として分類されます。
ところで,引き渡すものが外国の金銭(通貨)である場合は,(金銭債権ではなく)外国金銭債権となります。
そうすると,金銭債権というときの金銭とは,日本円だけが想定されているように思えます。しかし,金銭には自由貨幣(日本円以外の金銭)を含むという見解もあります(後記※1)。

<金銭債権の意味と法的性質>

あ 金銭債権

給付すべき金銭の種類について別段の定めもなく,一定額の金銭の引渡を目的とする債権をいう
なお,『金銭』に『自由貨幣』を含む見解もある(後記※1)

い 種類債権という性質

金銭債権種類債権ではあるが,より抽象的である(特殊性がある)
特殊性の内容=特定できない
詳しくはこちら|現金の特徴のうち不特定性(識別できない)と特定される例外
目的物の範囲を特定する抽象的・一般的標準さえなく,数量をもって表示された一定の貨幣価値(価値量)を目的とする
これを実現する物(貨幣)自体の個性は問題にされない
普通の種類債権のように目的物の特定・履行不能は生じない(民法419条)
※現在の通説
※奥田昌道編『新版 注釈民法(10)Ⅰ債権(1)債権の目的・効力(1)』有斐閣2003年p324
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p120

う 外国金銭債権(参考)

外国の金銭の引渡を目的とする債権をいう
日本では強制通用力がない→本質的には自由貨幣である
ただし,民法402条3項の適用がある→特殊性がある
※奥田昌道編『新版 注釈民法(10)Ⅰ債権(1)債権の目的・効力(1)』有斐閣2003年p328,330
※末川博稿『貨幣とその所有権』/『経済学雑誌1巻2号(1937年)』/末川博著『物権・親族・相続』岩波書店1970年所収p265

なお,外国の通貨(金銭)による債務の弁済について適用される規定は,民法402条3項と403条があります。
詳しい内容は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|民法403条(外国金銭債権の弁済)の解釈(換算の基準時など)

3 通貨と自由貨幣の意味

金銭通貨の意味の解釈を説明する時に,似ている用語がたくさん出てきます。
まず,通貨は,日常的な用語とは少し違って,法律上強制通用力がある貨幣(法定通貨=法貨)という意味です。
これと対照的なものが自由貨幣です。強制通用力はない貨幣のことです。

<通貨と自由貨幣の意味>

あ 通貨(法貨)

国家が法律をもって強制通用力を認めた貨幣を法貨or通貨という
法貨は,法定通貨フィアット通貨と呼ぶこともある

い 自由貨幣

強制通用力はないが,取引上において金銭として通用しているもの
※奥田昌道編『新版 注釈民法(10)Ⅰ債権(1)債権の目的・効力(1)』有斐閣2003年p328

4 民法402条と強制通用力の規定との分離

民法402条では,通貨で支払うということが規定されています。この通貨の意味は強制通用力のある法定通貨という意味です(前記)。
この点,どんなものに強制通用力が与えられているのかについては民法402条(や民法の他の規定)には定められていません。
強制通用力の付与は貨幣制度の本体なので,民法以外の法律で定めるべきものであるという考えが元になっているのです。

<民法402条と強制通用力の規定との分離>

あ 弁済する金銭の内容

(強制通用力を有する)いずれかの通貨によって弁済すればよい

い 強制通用力の規定との分離

どのようなものに強制通用力が付与されるかは通貨制度次第である
民法の範囲外である

う 規定を分離した趣旨

通貨制度の変更に柔軟に対応できるようにしたものである
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p106

ここまで説明したように通貨(法定通貨)自由貨幣の意味は複数の見解に分かれるようなことはありません。一方,金銭(債権)については大きく2つの見解があります。次に金銭の解釈について説明します。

5 民法402条の『金銭』を法定通貨とする見解

民法402条の『金銭(債権)』の意味については,大きく2つの見解があります。
まず,この『金銭』は法定通貨だけである,という見解を説明します。
この場合,法定通貨を引き渡す債務は法定通貨で弁済するという意味になります。
当たり前のことをいっているトートロジーとなります。

<民法402条の『金銭』を法定通貨とする見解>

あ 見解の基本部分

『金銭』は法定通貨(強制通用力あるもの)を意味する

い 民法402条の解釈

『法定通貨を引き渡す債務は(当事者の合意がない限り)法定通貨で弁済する』という意味になる

う 見解の特徴

民法402条はトートロジーとなる
民法402条は確認的(注意を喚起する)規定にすぎない
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p106

6 民法402条の『金銭』に自由貨幣を含む見解

民法402条の『金銭』には自由貨幣が含まれるという見解もあります。
この場合,自由貨幣を引き渡す債務は法定通貨で弁済するという意味になります。
そうすると,このルールが実質的にどのようなことを想定しているのかがよく分からないという指摘がされています。

<民法402条の『金銭』に自由貨幣を含む見解(※1)>

あ 見解の基本部分

『金銭』は交換手段として用いられる貨幣価値といったものを表す概念である
強制通用力のないいわゆる自由貨幣を含む

い 民法402条の解釈

『自由貨幣を含む広い意味での金銭を引き渡す債務は(当事者の合意がない場合は)強制通用力のある法定通貨で弁済する』という意味になる

う 見解の特徴

自由貨幣として具体的に何を想定しているのかが必ずしも明らかではない
あるものが自由貨幣であるとされたとして,そのことが具体的にどのような法的効果をもたらすのかを明確に特定できない
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p106
ない

7 民法402条の『金銭』の解釈の議論の実益(否定)

以上のように,民法402条の『金銭』の意味については2とおりの見解があります。しかし,いずれの見解でも現実的な扱いに違いはないという指摘もあります。

<民法402条の『金銭』の解釈の議論の実益(否定)>

あ 法定通貨で弁済する合意がない場合

いずれの見解であっても法定通貨で弁済することになる

い 弁済する通貨の種類の合意がある場合

民法402条は任意規定である
弁済する通貨の種類を合意できる
いずれの見解であっても合意した種類の通貨で弁済することになる

う まとめ

いずれの見解であっても実際の結論に違いは生じない
→この議論には,さほど実益はなかったとも考えられる
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p107

本記事では,民法402条の『金銭』や『通貨』の意味(解釈)について説明しました。
実際にこの規定が問題になるのは(仮想通貨など)イレギュラーな支払方法に関するケースです。
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